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Endagogue  作者: 42
3/9

3<予兆>


 昼休みになり、僕と春村は約束通り一緒に昼食を取ることになった。とはいえ僕はともかく春村は午後からも講義があるのであまり大学からは離れられない。なので、すぐ近所にある、ここらの学生御用達で尚且つ味に定評があり、僕達もよくお世話になっているカフェで済ませることになった。

 ちなみにここは本来紅茶とスコーンの店なのだが、それだけでなくランチメニューも充実しているので昼時にはいつも座席の争奪戦が起きている。


 「いやあ、何とか座れてラッキーだったな」

 「だね、僕は少し待つのも覚悟していたけれど」


 僕達は運良く到着してすぐ並ぶこともなく中に通され、店の中程の席に案内された。本日のランチから僕はジェノベーゼパスタのサラダセットと食後に紅茶を、春村はカレー気分だとかでカツカレーとコーラを頼んだ。

 注文が済むと春村はポケットからスマホを取り出し、画面を見ながら頬杖を突く。


 「は~、やっぱ朝連絡して夜いきなりじゃ、集まり悪ぃな」

 「・・・本当に今晩飲み会やるんだね」


 僕は春村の言葉に呆れたけれど、その行動力と思い切りの良さに少し感心もした。


 「やるよ~、言ったじゃん。誰かさんは誘っても来てくれないけど~」

 「あはは、ごめんね」


 春村の悪意ない嫌味を、当たり障りのない笑顔で流す。


 ・・・僕は、極力人と関わらず、記憶に残らず、目立たない存在でいることを心掛けている。かといって常に一人でいるとかえって浮いてしまうから適当な友人関係は必要で、だから、大学に入ってすぐ声を掛けて来た春村のことも、こちらにお構いなしに距離を詰めてこようとするその姿勢に正直最初は嫌悪感があったが、それを表に出さず、友好的なフリをしてずっと相手をしてきた。

 だが、彼が誘うコンパや飲み会など、大学を出てからの時間まで付き合う気は毛頭ない。目立たず地味に、学業でも人間関係でも"どこにも問題のない学生"を演出出来ればそれでいい。


 けれど、そうやって彼と1年以上接してきて、最近では自分の中にそれだけじゃない気持ちが僅かにあった。こんなスタンスの僕を、多少の文句は言いながらそれでも友人として扱ってくれることに今では感謝しているし、その大らかで自由気ままな言動が僕にはとても眩しく、愛おしいものに感じられた。


 運ばれて来たコーラに挿さったストローに口を付けながら飲むとはなしにスマホを操作する春村を微笑ましく眺めながら、こんな穏やかな日が明日もその先も来れば良いとつい願った。





 だけど、それはやっぱり赦されなかった。





 唐突に耳に飛び込んで来た、他所の席での会話。その内容を理解するより先に、僕の感覚が導かれるようにそこに集中する。


 「―――――で、だって」

 「えーっ、めっちゃ近いじゃん」


 スマホを見ながら、女子高生達が興奮気味に話している。


 「ほらこれ、ニュースサイトだとただの"殺人事件"ってなってるけど、そんなモンじゃないって」

 「なにそれ」

 「先輩がたまたま被害者見ちゃったらしいんだけど、・・・食われてたって」

 「え・・・何に?まさか熊?」

 「わかんない。でも、食い荒らされて殆ど原型留めてなかったって」

 「うっわ、エグ!!」



 「・・・」


 彼女達の会話に気を取られ、思わずそちらに見入ってしまう。


 「おいおい、椎羽さん?そんなにJKガン見してたらヤバい人だと思われますよ~」


 わざと冗談めかしてそう春村にツッコまれて、僕は自分の状態にはっとして彼女達から視線を逸らす。


 「そ、そうだね。ありがとう春村」

 「いや~しかし、飯食う場所でする話じゃねーって。・・・けど正直気になるよな。俺の方にもLINEでさっきから情報来てるし」


 ほら、と言って見せられたそれには春村の友人達から送られた書き込みが次々入っては流れて行って、全部を読むことは出来なかったが、それでも"今朝"、"この近所で"、"何かに食い荒らされた死体が見付かった"という、事件の重要なキーワードは見て取れた。

 そして、言葉は更に続く。


 "確かこんなの、前にもあったね"

 "え、何それ、私知らない"

 "あー、お前ここ出身じゃないもんな。でも結構有名だぜ"

 "アレだろ、駅裏をちょっと行った辺りの、当時振興住宅地だったところで起きたヤツ"

 "ああ、あの連続殺人事件。あれっていつだっけ?10年位前?"


 ・・・凍り付く。体も心も、――――そんな錯覚に囚われる。


 「あー・・・あったなそんなの。俺もここ出身じゃないけどニュースで見た覚えあるわ。確か・・・俺らが小4くらいの時だったか?」


 春村にそう振られるが、僕はそれに答えることが出来ない。


 「・・・おい椎羽、大丈夫か。なんか顔色悪いぞ」

 「ごめん春村、気分が悪いから僕帰るよ」

 「えっ・・・おい、まだメシ・・・」

 「お代はここに置いてく。春村、食べれそうなら僕のパスタも食べといて」


 春村がまだ何か言っていたが僕はそれに構うことなく鞄を引っ掴んで店を出る。

 外の空気がひやりと冷たくて身震いする。肌がチリチリと痛む。今日はこんなにも寒かったろうか。


 ・・・いや多分、僕の心がそう感じさせているだけだ。



 あの事件がまた起きる。――――いやまさか、そんなはずは。

 ないなんて、どうして言える?確かにもう丸7年そんな兆候はなかったけれど、いずれの事件も犯人は未だ捕まっていない。ならば、またここへやって来る可能性だって大いにあるじゃないか!


 やはり僕は、誰かと親しくするべきではなかった。・・・でも、まだ間に合う。犠牲者は既に出てしまったかもしれないけれどそれは僕の知ってる人間じゃない。なら、今回は僕とは関係のない奴の仕業かもしれない。

 僕はまだ、目を付けられていないかも。それなら今からでも春村や他の知り合いに会わないようにすれば、彼らが犠牲になることはないかもしれない。


 ――――そう、大丈夫。きっと大丈夫。・・・そんな根拠はどこにもないのに僕は必死で自分に言い聞かせ、そうしながら無意識に動かした足は、気付くと10年前の、僕の周囲に起きた最初の惨劇のその舞台―――僕と家族がかつて住んでいた家の前に立っていた。




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