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クククッ……誰が四天王の中で最弱……?

作者: 矢口旲

「どうやらタイターンがやられたようだな……」


 そういってスサノオが不敵な笑みを浮かべた。モニター越しに四天王の一人が勇者に討伐されたというのに、彼の佇まいからは恐怖や焦燥といった感情は一切見られない。まるで自分は勇者に倒される心配は無用といったように。彼からは王者の風格が漂っている。


 全く……こいつだけは敵に回したくない。


 俺ら魔王軍の四天王の一人、岩石族のタイターンが勇者にやられた。これで魔王軍四天王は風神のスサノオ。水を司るセドナ。そして、火炎使いの俺、アドラヌスのみとなった。




 ……まあいい。一人減ったからといってさほど支障はない。


 そもそもタイターンは四天王の中でも最初の部屋いる。つまり一番弱かったから勇者に倒された、それに過ぎなかっただけである。


 はじめの村で勇者一行を襲ったときにはタイターンが圧勝だったというのに。今回は油断してかかったのだろう。


 その慢心が仇となって負けるとは、何とも愚かな話だ……。思わず失笑する。


「クククッ……奴は四天王の中でも最弱。人間ごときに俺らが倒されるはずはない」


 そう言い放つと、途端に緊迫した場が静まり返った。スサノオが俺を白い目で見ている。


「は?」


「……え? 何か俺変なこと言ったか?」


「いや、お主だろ。最弱は……」




 ……え、


 えええええええええぇぇぇ!


 一番奥の部屋に鎮座するスサノオに比べたら、確かに俺は弱いかもしれないけど! 俺は三番目の部屋にいるんだぞ。それを言ってしまったら、俺ら四天王のうちの三人が必然的に弱いことになるけど⁉ 何俺だけ見下してんの⁉


 俺の混乱が収まらないうちに、セドナが次の爆弾を投下した。


「あら、私はスサノオが最弱だと思っていたわ」


「何だと!」


 スサノオが激昂する。長い髪の毛が一斉に逆立つ。一番奥の部屋、すなわち魔王様の間のすぐ傍で、四天王の三人を倒した屈強の勇者の侵入を阻む砦を担う。そんな四天王最強が、ただの通過点である二番目の部屋の奴にディスられたら、怒るのも無理はない。


 普段は冷静のスサノオが感情的になって我を忘れてしまっている。王者の風格は微塵もない。




「ちょっ、ちょっと待て! 誰が四天王のなかで最弱かなんて分かりきったことだろ?  セオリー通りにいくと、魔王様の部屋から一番遠く四天王のなかで最初に勇者と戦う者、すなわち最初の部屋のタイターンじゃないのか」


「そんなことないわ。そもそも部屋割りと強さに相関関係はないわよ」


「マジか」


 さらりと衝撃の新事実をだしてきた。


「な、ならこの部屋の順番は? スサノオが一番奥にいるのは強いからじゃないのか」


「いや。我は強いが、あの部屋を選んだ理由は角部屋で日当たり良好だったからだ」


アパートの物件選びかよ⁉


 何? スサノオあそこで生活してんの?


 ……そういや、偶に部屋に寄ったら溢れかえったゴミ箱とかくしゃくしゃになった布団とか妙に生活感があったな。


「アドラヌスは部屋割りのとき有休でいなかったから、あみだくじで決めたことを知らないのね。無理ないわ」


「そんなので決めたの⁉」


「うむ、三番目の部屋が一番人気なくてな。……三番に当たったタイターンが一番になったアドラヌスとこっそりすり替えていたな」


「あいつ何してんだよ! じゃあ俺らのなかで最弱なのは一体誰だっていうんだよ?」


「…………」


「…………」


「…………」


 再び凍りついたように場が静まる。一旦間があったあと、三人はほぼ同時に言った。


「アドラヌス」「スサノオ」「タイターン」




 なんてことだ。三者が三者異なる人物を挙げた。


「そういえば、タイターンは『オデ、セドナ、ヨワイ、オモウ』とか言っていたな……」


 さらに四者四様となってしまった。


「……こうなっては誰が四天王のなかで最強か、思い知らせる必要があるな」


「ええ、望むところよ」


 スサノオとセドナは向かい合って身構えた。屋内だというのに風音が鳴る。粉塵がスサノオを中心に渦を巻いた。対してセドナの方からはじめっとした空気が漂う。


 二人とも臨戦態勢だった。割と全力で。俺も本気を出さなければ、殺られてしまうだろう。


「おい、お前ら……」


「お前もかかってこい! 全力でだ!」


「言い出しっぺなんだから、一人だけ逃げるのは許さないわよ!」


「……えぇ」


 こうして四天王の弱者を決める戦いの火蓋が、切って落とされた。





「――はぁ、はぁ……お主ら。なかなかやりおる」


 あれほど冷静沈着なスサノオは息を荒げていた。膝に手をつき、肩は上下に動き、誰がどうみても体力はほぼ残されていない様子だった。


「ええ、貴方くらい本気を出せば所詮この程度なのよ……」


 対するセドナも目が虚ろになっていた。微動だにせず、もはや息をしているのかどうかも分からない。全力で尽くすあまり自分の水分まで使い切ってしまい、彼女の潤んでいた唇はミイラの様にパサパサにカサついていた。


 俺も体力の限界を感じていた。全身の筋肉は悲鳴をあげ、魔力も煙草の火をつけられる程度にしか残っていない。二人にここまで追いつめられるとは思ってもいなかった。


 それにしても――


「四天王はどいつも強いんだな……」


 拳を交えるとでてくる友情というのか、俺らの間にはいつの間にか互いの強さを認めあう絆が芽生えていた。


「――ああ、そうだな」


 スサノオがそっと手を差し伸べる。それは相手を傷つける握り拳ではなかった。


 アイコンタクトをとると、開いた手に重なるように俺とセドナは掌を置いた。


「我々が手を組めば勇者なぞ一捻り」


「私たちで勇者を返り討ちにしてみせるわ!」


「「「おー!」」」





「――くっ……この俺らが、人間ごときにやられるだと……」


 最期に掠れた声を絞り出し、俺は果てた。セドナとスサノオは先に勇者によって息絶え、地面に屍が転がっている。


 俺ら三人は力を合わせて、勇者たちに襲いかかった。だが体力も魔力もギリギリまで消耗してしていた俺らはスライムの如くほぼ一撃で倒されてしまった。


 俺ももうじき死ぬ……視界がかすみ、耳が遠くなり、痛みで頭がボーっと麻痺してきた。


 なんであんなことをしてしまったのだろう――いや、事の発端であるあんな言葉をどうして言ってしまったのだろうという、後悔のみが頭に残る。


 そんな薄れていく意識の中で、勇者がハッキリと一言。




「いやー三人がかりでやってきたのには驚いたけど、正直初めの四天王が一番手強かったわ」

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[良い点] 勇者が落ちを持っていく イキって最強、最弱と仲間割れしてゲーム感覚に倒され
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