なんで
「川岸さん、この後、仲森バトルタワーに行かない?」
放課後、私は中川君に声を掛けられた。彼は同じクラスの男子だ。身長などの見た目は普通の高校生だが、彼は全世界バトルマッチでなんと32位という変人だ。
バトルマッチとは、言葉の通り人と人が戦いをするというもの。ルールは簡単で、素手で戦って相手を戦闘不能にするか、降参させると勝ち。ただし、相手を殺してはならない。それだけ。
その世界大会で彼は32位なのだ。今、バトルマッチは、とても人気が高く、なにかしらの大会が開かれると、チケットが即完売になる。そして、今日は仲森バトルタワーでバトルマッチが行われる。バトルへの参加は誰でも出来て、中川君も参加する予定するらしい。
「ごめんなさい。私はバトルマッチに興味がないの」
私は中川君の誘いを断った。その時、私は嘘をついていた。バトルマッチに興味がないというのは嘘だ。本当はバトルマッチが大嫌いなのだ。見るのも嫌になるほどに。でも、プレイヤーの中川君の前でそんなことが言えるはずがない。
すると、彼はいきなり頭を下げた。私は、彼の行動に驚き、また慌てた。
「え、えっと…… どうしたの?」
「お願いだ。バトルタワーに行ってくれないか。そこでどうしても君に伝えたいことがあるんだ」
彼はとても大きな声で私に言った。私はバトルマッチが嫌いだ。でも頭を下げられても断れる勇気を持っていなかった。
「わかったから顔を上げて。ね?」
私がそう言うと、中川君は「ありがとう」と言って立ち上がった。
「5時にタワー前集合でいいかな?」
私が訊くと、彼は首を縦に振った。
バトルマッチのプレイヤーの戦い方は、ある程度決まっている。なぜなら、プレイヤーのほとんどが三大流派と呼ばれる佐伯流、嘉島流、浅井流の3種類の流派の者だからだ。それらの3種類の流派はどれも同じぐらい強く、どの流派が一番強いというのは決まっていない。また、他にも流派があるが、それらは不完全なものが多くて三大流派に比べて弱い。
私は仲森バトルタワー前にいる。中川君と約束してしまったからだ。
「川岸さん。ごめん。待った?」
中川君が走ってきた。私は、笑顔を作って返事をした。
「大丈夫だよ。じゃあ、行こっか」
私たちはタワーの中に入った。中には大勢の人がいて、私たちはイベントが開催される30階にエレベーターで登った。30階にはプロレスのリングみたいなステージが5つ用意されており、バトルの参加者が対戦していた。
「川岸さん、俺はバトルのエントリーをしてくるから少し待っててくれるかな?」
中川君はそう言うと、人ごみの中に消えていった。一人になった美帆は何もすることがなく、ただ一人でその場に立っていた。その時、誰かの肩が自分の肩にあたってしまい、私は声を出しながら倒れてしまった。
「きゃっ!」
「すいません、大丈夫ですか?」
そう言って倒れた私に手を出してきたのは、灰色のフードをかぶった人だった。フードのせいで顔が見えないが、声を聞くからに男の人だ。身長からして多分自分と同じぐらいの年齢っぽい。
「ありがとうございます。大丈夫ですよ」
私はその人の手を掴み、立ち上がって言った。すると彼は驚いたように反応し、小さな声を出した。
「優莉乃?」
私は目を丸くした。優莉乃。それは私の名前である。でも、私はこの人を知らない。なぜ? なぜ、彼は私の名前を知っているのだろう。その疑問を口にしようと口を開いたが……
「川岸さん。お待たせ。この人誰? 川岸さんの友達? ごめんね、君。川岸さんは俺と回るんだ。ごめんね。行こっか」
中川君が来て、無理矢理に彼と引き離され、訊けなかった。
それから、私と中川君は20分程バトルを見ていた。アナウンスが流れた。
「エントリーナンバー55番の方と56番の方は第二バトルステージまでお越し下さい」
それを聞いた中川君は『エントリーナンバー55番』と印刷された紙を手に持って見せてきた。
「えっと、もうすぐ対戦だ。その前に君に伝えたいことがあるんだ。聞いてくれるかな?」
彼は真剣な顔をして言った。私は別に断る理由もないので「いいよ」と言う。
「俺は川岸さんが好きです! 付き合って下さい。」
世の中では『好きです。付き合って下さい』と言われることを何というだったっけ。そう。告白だ。私は今、告白されたのだ。
「えっっ、あっ……あのっ…………」
何か話そうとするが、告白されたという事実に動揺してしまって言葉をきちんと発せられない。そんな戸惑っている私に中川君は冷静に声を掛ける。
「返事は俺の試合を見てから聞きたいんだ。いいかな?」
私は彼の言うことを理解して頷いた。そして、私たちはバトルマッチが行われる第二バトルステージに向かった。
たくさんの観客が見ているなか、中川君は登場した。わぁーと観客が盛り上がる。その中には世界ランク32位の中川だと気付いているひともいるだろう。そして、もう一度観客がわぁーと盛り上がった。私がステージを見ると、中川君の対戦相手が出てきていた。
「あっ」
その対戦相手を見て、私は声を漏らした。なぜなら、その人はなぜか自分の名前を知っているフードを被った男だったからだ。先程と同様、顔は見えない。
審判がバトル開始のカウントダウンを始める。中川君は両腕を前に出して構えた。構えから見て、中川君は佐伯流だ。それに対してフードの男は何の構えもしていない。カウントが「2,1」と告げる。なのにまだ、構えようとしなかった。
「Fight!(ファイト!)」
審判がバトルスタートのコールを掛けた。それを合図に中川君は飛び出た。一発で終わらせるらしい。中川君は右の拳を握り、それはフードの男の顔に吸い込まれていった。完璧なパンチだった…………はずだった。しかし、フードの男は殴られる寸前に顔を動かしてパンチを避け、足を掛けながら、同時に中川君の鳩尾にパンチを叩き込んだ。パンチを避ける、足を掛ける、パンチを叩き込む、の3つの動作をほぼ同時に行ったのだ。しかも、最後のパンチの速さは尋常ではなかった。その技は三大流派の技でない。その他のどの流派でもないだろう。ただ、航乃流を覗いては。
「なんで。なんで、あの技を使える人がいるの……」
私はステージに向かって走った。会場はとても歓声を浴びているが、そんなことはどうでもよかった。ステージの下に着くと私はステージによじ登った。警備員の人が止めようとしたが、その手を払ってステージに立った。そこには中川君が倒れていた。正直、それもどうでもよかった。私はフードの男に向かって、声を上げて言った。
「なんで、あなたがその技を使えるの!?」
私が知りたいのはそれだけだった。だが、私の質問に対する答えは教えてくれなかった。
「なんでだろうかな」
頭に血が上った。私はかつてない怒りを感じていた。
「このーー!」
私は叫びながら、フードの男に向かってパンチやキックなどあらゆる技を繰り出した。だが普通のパンチやキックではない。航乃流の技を使ってだ。私の相手がフードの男でなければ、私がその者をぼこぼこにしただろう。たとえ三大流派の達人でも。中川君であってもだ。なぜなら、航乃流は最強の流派なのだから。文字通り、航乃流は最強で、どの流派に対して弱点がない。だが、私は負けた。理由は簡単。相手が自分より強い航乃流の使い手だからである。
私は倒れた。仰向けの状態で。私は天井を見る目で涙を流した。
なんで航乃流を使える人がいるのかな。私たち2人だけの技なのにね、航汰……
読んでくださりありがとうございます。
とても下手ですが、一生懸命書いていきます。




