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暴れん坊な姫様と傭兵(肉盾)  作者: オイラム
3/19

02

(;´Д`)「それでも僕はやってないんです!」


「ひぃー! 本当に知らないんですー!」



 現在、詰め所で絶賛(ぜっさん)取り調べ中だった。


 大勢の衛兵に囲まれて、連行されるように連れて来られた詰め所の狭い一室。

 壁は頑丈な作り、光源は窓と蝋燭(ロウソク)といった最低限の明るさ、椅子と机しかなく、尋問(じんもん)するための用途にしか使われないよう部屋。


 最初入った時、まさに尋問室(じんもんしつ)である事は一目見てわかった。 そして挙動不審(きょどうふしん)になるほど動揺した。

 わけがわからずここまで押し込められて、自分は震えながら取り調べを受ける事になった。


 取り調べと言っても自白させるとか、尋問(じんもん)拷問(ごうもん)に変わってるのだ、とかそういった苛烈な事はしてない。

 むしろとても温厚で、ただ色々と質問攻めされていた。

 名前とか出身地とか傭兵歴とか、初恋の相手がいてそれが実ったのかどうとか…。

 関係のない質問が混じっていて、それにすらつい答えてしまった…うぅ、恥ずかしい……。



 ―――しかし、だ。 


 いきなり連れて来られて尋問されて何だけど…怖いと思いながらも、あまり不愉快には思っていない。


 なにしろ、この扱いはむしろ有り難いくらいに穏便だからである。

 これと比べれば、戦場で置いてけぼりにされた挙句、捕虜になったあの時なんて…うぅっ…あまり思い出したくない。

 あの時と比べれば全然痛い事をされないんだから、この扱いはむしろ天国と言ってもいい。


 そう、天国だ……食べ物を食わせてくれたからね!

 最初の内は質問攻めを受けたけど、しばらくして顔を机に突っ伏して盛大に腹の虫を鳴らした。

 おぼろげながらも、自分は死にそうな声をさせながらこう言ったそうな…。


 ―――お願い……何でもしますから…何か食べさせて、と。


 我ながら情けない事この上ないが、尋問する人の一人が涙を浮かべる憐れんだのか―――豆だ…食え。と、ぶっきらぼうに言って、間食(オヤツ)用の炒り豆を恵んでくれたのだ。

 それを涙ながらに噛みしめた。 本当に…本当に、有り難い事この上なかった。



 さて……そんな風に、尋問(じんもん)とは言うものの、ただ質問に答えるだけものだった。

 それなのに、なぜ自分はこんなに必死になって否定するほど狼狽(ろうばい)しているかと言うと、だ…



「だから本当に、他のスパイとかじゃないんですってー!」


 そう、スパイ。

 回し者、枝、間者……言い方は色々あるけど、まさかそんな疑いをかけられているとは思わなかった。


 情報の大切さはわかっている。

 相手国の情報であれば大勢を左右すると言われる…それがスパイとしての役割。

 噂でしか聞いた事がないような存在。


 この国の事を探りに来たんじゃないのか?って()かれただけで、腹の中まで真っ黒なのだと疑われてるような小市民的な思い込みが働いてしまい、とても冷静になれなかった。


 別にそれほど強く詰問(きつもん)しているわけでも無いのに…。


「本当なんです! そんな大それた事出来るわけがないですよ、お願いだから信じてぇー!!」


 そのスケールの大きさにすっかり動転して、尋問(じんもん)そっちのけで弁明(べんめい)のワンマンショーになっていた。




―――。



 せいぜい公害レベルで臭いとか、挙動不審すぎて怪しい人に見える、とか思ってたのに…なんでこうなったのやら……。


 一人で大騒ぎするものだから、尋問(じんもん)という流れにならず、尋問(じんもん)の人達はしばらく自分を一人にする事にしたようだ。

 尋問室(じんもんしつ)で一人残されて、弁明(べんめい)する相手がいなくなって…改めて冷静になって、顔を両手で(おお)った。

 情けないやらみっともないやらで……恥ずかしい。


「何やってるんだろう僕……」


 自分でもこういった事態には弱いとはわかっていても、恥を(さら)しまくりである。


 うぅ…尋問(じんもん)が中断されたとはいえ、スパイと疑われてるとなると、どんな方向に転がるかわかったものじゃない。

 こういうのは気分次第なのだ。 貴族(おえらいさん)と関わる事があるから、その気まぐれで良くも悪くも結果が二転三転する。

 国民ではない外部の人間なんだから、偉い人が出張ってきて自分を処断する、とか言い出したりしたらどうしよう…。


「はぁ~~~……」


 グゥ~~~。


 長い溜息と一緒に、腹の虫まで合唱した。


 豆の人に恵んでもらってだいぶマシにはなったけど、やっぱりお腹は空く。

 尋問室(じんもんしつ)に一人にしてもらってしばらく経つけど、この待たされている間ってのが腹に響いて仕方ない。


 空腹を誤魔化(ごまか)すためにも水でも貰おうかな、とノックして聞いてみようと思い、扉へと近づいてみる―――その時、話し声が聞こえてきた。



『もう来たのか、早いな』


 扉越しに聞こえる誰かの声にビックリした。

 ビビって声に出さなかった自分を褒めてやりたい。


 扉越しに聞こえたのは初老(しょろう)の男性の声だ―――(おごそ)かで年齢の重みのある声である。

 扉にかなり近づいていないと聞こえないほど小さいが、自分一人しかいない尋問室(じんもんしつ)で、そのか細い声を確かに拾っていた。


 もう来たのか、とは自分の事ではないのだろう。

 二人か?そう思った時、別の声が扉越しに響いた。


『あぁ、一応経歴は掴めたよ』


 さっきの初老の声よりは若く、ダンディーさを醸し出す落ち着きのある声がした。

 最初の人と年の差が感じられるけど、こっちはこっち只者ではない落ち着いた口調が印象的だ。


 尋問室(じんもんしつ)の前で何を話しているのやら、と気になっていたら、ダンディーな声は言葉を続けた。


『傭兵の間ではちょっとした知れた名前らしくて、思いの外早く情報が入った』


 傭兵の間って…まさか……もしかしなくても、もしかして……。

 自他ともに認めるほど鈍くても、話してる内容が何なのか段々と察しがついてきて、こめかみに冷や汗が伝った。


『噂か…確か、レヴァンテン・マーチンと言ったか…どこの国に雇われたと思う?』

『いや。 噂と言っても黒い方面じゃない、残念な噂ばかりだ』

『残念…か?』

『ざっくり言えばヘッポコって奴だ、ちょっと同情しそうなくらいにな』


 はぅっ…! 僕への悪口が痛いほど心に突き刺さった。


『一応訊くが、誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)の類という線は?』

『無いな。 事実無根(じじつむこん)ではなく、実績のある残念ぶりだ。 “セクァレノン”と敵対国の間で起きた先の小競り合い…あれは覚えてるか?』

『魔法共和国の、か? 確か、魔法技術の利権を奪おうとしての抗争だったな』


 それを聞いて自分は、少なくはない知識から概要を引き出した。


 魔法共和国セクァレノン……名前の通り魔法を使う国であり、剣や鎧を使う兵力とは全く違う系統の勢力。

 魔法という他国にはない強みで成り立っていて、日常から兵器に至るまで魔法という技術を使っているのだとか。

 その特性上、魔法を扱う者で組織されているため…傭兵を雇う事もなければ、その必要もない。


 だからそこで雇われた事はない……だけど、確かアレって…。


『そこでセクァレノン側は新開発した攻性魔法の試し撃ちとかあったらしいが…逃げ遅れて死にかけたらしい』



 い…嫌あぁぁっ!


 思い出したぁ! 思い出したくないけど、思い出しちゃったぁ!


 嗚呼、魔法が後ろに…後ろにぃ!?


 以前、威力偵察と言うピコ役の部隊に数合わせ参加した時、その標的として狙われた事があり…その魔法の威力はその身を以て知っている

 痛い記憶で身悶(みもだ)えそうになりながらも、扉の向こうで話は続いた。


『何だそれは…笑い話じゃないか』

『そう、笑い話にしかならないね。 決して有能ってわけでもないし、特殊な訓練を受けたわけでもない…実際、散々な言われ様だ』


 ダンディーの人の言う通り…どうしようもないほど散々言われてる事である。

 ヘッポコ…悪く言えば“役立たず”が代名詞(だいめいし)になるほど、雇われた後でそれはよく言われるけど…もはや悪名じみている。


『…で? お前の勘ではどう思う?』

『白、だな……これを黒だと思う方がどうかしてる。 と言うか、餓死(がし)しそうになってたって言うじゃないか? 餓死(がし)しそうになるスパイがどこにいる』


 スパイじゃないけど、ここにいます…餓死しそうになった傭兵がここにいます……。

 おかしいな…今、スパイの疑いが消えたような会話をしてたのに…嬉しい会話のはずなのに…どうしてこんなにも心が痛いんだろう…。


 泣いていいですか…? もう泣きそうです…。


「シクシク……」


 はい…もう、泣いてます。


『……聞こえるか』

『ああ、聞こえるな…』


 扉一枚(へだ)てて、尋問室(じんもんしつ)で一人寂しく(すす)り泣く。

 それが狭い部屋に反響するものだから、扉向こうにいるお二人さんにも聞こえただろう。

 それを気を悪くしたのか、話の邪魔をしたのか……二人が遠ざかっていく足音が聞こえ、精神的にボッコボコにされた自分は…しばらく扉の前でしょっぱい水たまりを作っていた。


 シクシク……。



―――。



 涙を流して心の痛みを癒やした頃、待ちに待ったその一言をかけられた。


「釈放だ」


 一人の兵士がやってきて、薄暗い尋問室(じんもんしつ)を開けて第一声がそれだった。

 自分の(もろ)いハートの悲しみは癒えて、その一言に表情が明るくなった。


 いきなり拘束されてスパイの疑いをかけられたけど、そんな事も気にせず現金(ちゃっかり)なものではある。

 このままどうなるかと思ったけど、解放されるのなら文句などない。


 それに…お腹が未だに空腹を訴えているから、出来ればすぐに食事を取ろうと思う。 うん、そうしよう。



 ―――しかし、その予定はあっさりと見送る事となる。


「釈放の手続きはないが…領主であるエンリコ・W・ファーン伯爵が面会を求めている」


 兵士は淡々とそう言った。


 最初に思ったのは、ちょっと長い名前だなぁ、だった。

 次に思ったのは、それは上から何番目に偉い人なんだろう、だった。


 そして最後に思ったのは―――…えっ、僕そんな偉い人と会う事になってるの?だった。


 一拍おいて、驚きのあまり絶叫(ひめい)のような疑問が飛び出た。


「え……ええぇぇええっ!? は、ははは、伯爵ぅっ!?」


 そんなお偉いさんが僕と面会!?

 一体なぜっ!?


 疑いが晴れた、みたいな会話を聞いた気がするけど…しがない傭兵でしかない自分に、伯爵が何の用なのか?

 今さっき、釈放の手続きは無い、と言ったけど…それはつまり、処刑するから手続きなんていらないのだからって意味じゃ…。

 あ、ありえる…ありえるかもしれない…多からず少なからず、そういう短絡的(たんらくてき)な貴族というのはいて、運悪くその類に目を付けられて酷い目にあった事もある。


 やばい…まずい…足が小市民的反応を起こして、緊張でガクガクと震え始めた。


「しゃ…釈放なんですよね? この後で、“あれはなしね”、とか言ったりしないですよね?」

「何を言っているんだお前は。 面会する部屋まで案内するぞ、付いてこい」


 自分の心中など、兵士さんに知る由もなし。

 生きた心地がしないまま、漫然(まんぜん)と伯爵の所まで付いて行くしかなかった……。


魔法共和国セクァレノン:魔法技術と魔法文明を築く事に腐心してる国。 関わるのはだいぶ先の事(未定)。

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