とある魔王の望み
久しぶり、だな……。元気にしているようで、良かった。
うむ、心配と言うのもあるが、南のが行けとうるさいから……いてっ! 何をする南の!
う……いや、俺の意思だ。
つまりは、顔が見たくてだな。元気そうで良かった……って、これはさっき言ったな。
何だ、その、さっきは随分騒ぎになっていたが、大丈夫だろうか。
……そんな風に言わなくてもいいだろう。俺だって成長しないわけではない。まあ、例の魔法使いも居たようだし、誤解はどうにかなるだろう。後でここの王に挨拶してもいいかもしれんな。
む……人間の国と交流か。それはよいが……いや、今はそんな話をしに来たのではないのだ。
お前に、言いたいことがあってな。
あの料理人だがな。お前の為に雇ったものだから、お前が居なければ腕の振るいようがないとうるさいのだ。勿論俺はあれが作った料理を食べるが……お前が居なければあまり旨く感じない。あれにはそれも不満なようだ。
それにな、あの風呂というのも、お前の為に作ったのだぞ。今でも皆、使ってはいるが前の様に賑やかでは無い。お前が居なくなってからだ。
空を散歩するのも、まるで楽しくなくなってしまった。前は何より好きだったんだがな。何をしても楽しくないのだ。
どうしてだろうな。魔王城が、耐えがたい程に広くて静かに感じられてな。……まあ、今はちょっと壊れているが。
……それは違う。人間だからいいというものではないのだ。少なくとも俺はあの王子や魔法使いを魔王城に置きたいとは思わんぞ。むしろあの王子はぶちのめしたい。あ……いや、勿論そんな事はしない。
俺が魔王城に誘った人間はお前が初めてでは無い。お前に合う前にも、何度か人間の国に行って、何度かお前にしたように誘ったよ。皆に断られたが、人間の話を聞かせてくれた者もいる。俺は人間をお前しか知らぬわけではない。
でも俺に笑いかけた人間はお前だけだ。魔王城まで来てくれた人間もお前だけだ。それが例え、お前が人間の国に居場所が無かったからだとしても、俺は嬉しかったよ。
どうして、お前はいつも笑っていた? あれほど危ない目に会わせて、それでもお前は俺の元に来た。笑って俺の手を取った。他に居場所が無いお前は、ただ必死だっただけかもしれん。けれども、俺にはお前の笑顔が、嬉しかった。
……善意であればいいという物でもないだろう。それでもお前は、そうやって笑うんだな。
お前は俺の事を馬鹿だと言うが、お前だって人の事は言えまい。いくら人の事に疎い俺でも、お前のような馬鹿がそうそう居ない事は分かるぞ。
だから、お前でなければならんのだ。
今のお前には、人間の国に居場所がある。だから俺の所に来て良いことなど無いだろう。それでも、もし、お前がいいと言うのなら、もっと教えてほしいのだ。人間の事を。それよりももっと、お前の事を。
つまり、だな……
俺と共に居てくれないか? できれば、ずっと。