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恋する乙女の後悔

 魔王様ですか? そうですね、一言で言えば……馬鹿、ですかね。愛すべき馬鹿です。


 いえ、魔族の王と言っても、実質魔族領を治めているのって、東西南北の主さんたちらしいですよ。みなさんまとめて、四方主って言うらしいです。あとは側近さんたちですかね。四方主さんと側近さんたちで魔族領はまわってるんだそうです。

 だから魔王様は、何か問題が起こった時に力を見せる事ができればそれでいいみたいです。

 あとは四方主さんと側近さんたちに好かれていれば。どちらかというとそっちの方が大切かもしれないですね。


 魔王様は前の魔王様の息子さんだったらしいんですが、あんまりお父さんと話した事はないそうです。側近さんたちに育てられたんだとか。

 側近さんたちは魔族としても規格外な人たちばかりらしくて。そんな人たちばかりに囲まれて育ったせいか、魔王様、感覚がマヒしちゃってるんですよね。側近さんたちくらいが普通だと思ってしまうらしいです。


 はい。おかげで私は、何度も死にかけました。


 例えば……そうですね。

 魔王城に連れて来られた初日、お食事として生のお肉を出されたんです。食べ物の好き嫌いは無いつもりですけれど、生はちょっと……と思って、火を通して欲しい、と頼んだんです。そしたら魔王様、炎の魔法をですね、放ちました。私に向かって。


 いえ、側近さんが防いでくれまして、焼かれずに済みました。魔王様はどうも、私が炎を食べると思ったらしいんです。あの人悪気はないんです。いつだって、本当に善意に満ち溢れてるんですよ。人間が炎に巻かれたら死ぬって、側近さんに怒られて落ち込んでました。


 あとは……空を飛ぶのは気持ちがいいぞって言って、南の山の主さんの巣から放り投げられたり。溶岩浴をしようと言われて火山の火口に落とされそうになったり。マリンスノーが綺麗だからと言って、海の中に連れて行かれたり。他にもいろいろありましたよ。

 全部側近さんだったり、四方主さんだったりが助けてくれました。おかげ様で生きてます。


 そうやって私を殺しかける度に、あの人すっごく落ち込んでました。一度なんか部屋に閉じこもっちゃって。いつもは元気過ぎる程元気なのに。

 あの人が落ち込む度に、会いに行きました。

 そうするとあの人、すごーく不安そうに私に手を伸ばすんです。くすぐったいくらいに弱い力で私の手を握って、不安そうに「平気か?」って聞くんです。

 私はあの人から見ればあんまりに脆くて、力加減が全然分からないんでしょうね。「大丈夫ですよ。ありがとうございます」って言うと、泣きそうな顔で笑うんです。


 お礼を言うのはおかしいですか? でもあの人がやった事、全部私の為でしたよ。私を喜ばせようとしてやってたんです。

 私には溶岩浴どころか温泉の源泉に浸かるのも無理だって知ってからは、私の為に丁度いい湯加減のお風呂を作ってくれました。私の為に人間の料理が作れる魔族さんも雇ってくれました。一緒に南の山の主さんの背に乗って飛んでくれました。あの人、自分で飛ぶ方が好きなんでしょうにね。


 ええ、そうです。好きでした。村に居た頃、誰の事も好きになれなかった私が、初めて好きになった人です。


 何度も思いましたよ。私はどうして、魔族じゃないんだろうって。

 いえ、私が人間だからこそ、人間好きのあの人の目に留まったんでしょうから、こんなこと言うのもおかしいんですけどね。私が魔族だったとしても、あの人のお傍に行くことなんてなかったでしょうから。


 でもね、魔族だったらあの人ともっと色々な事ができたんでしょう?

 あの人は私と同じ食事を食べてくれました。同じ温度のお風呂に入ってくれました。「悪くない」って言いながら。

 あの人がそうやって私にしてくれた事を、私は何一つ返せないんです。生のお肉は試してみたんですけどね。結局お腹を壊してしまって、怒られました。魔王様にも、側近さんにも。


 悔しかったですよ。不公平だって、思いましたよ。私は結局、あの人の隣に並ぶ存在にはなれないんだって、悲しかった。

 あの人の好奇心が覚めたら、人間の小娘に過ぎない私はあの人にとって何の価値も無くなってしまう。実際に、追い出されちゃいましたし。


 結局、こうしてお城で雇って貰える事になったんだから幸運だったのかもしれませんけどね。魔王様に拾われなければ、野たれ死んでいたでしょうから。それでもいいかなって、少し思ってましたし。


 だから不満なんてありません。王様にも王妃様にも、勿論王子様にも魔法使いさんにも、良くして頂いています。本当に、感謝してもしきれません。


 ただ……思うんです。あの時、魔王様に言っていれば……「お傍に居たい」って言っていれば……同情でもなんでもいいから、お傍に置いて頂けたのかなって。


 本当に、今更、ですよね。王子様と違って私は魔族領を旅するだけの力すらありません。もう、魔王様にお目にかかる事もできないでしょう。

 せめて……「大好きでした」って伝えられれば良かったのに。


 ごめんなさい。魔法使いさん。でもお話を聞いて頂けて、少しすっきりしました。ありがとうございます。

 魔法使いさんも今は式の準備で忙しいでしょう? 私もそろそろ仕事に戻らないと。


 ? どうしたんですか? 何か……


 あ、あれは、まさか……南の山の主さん?


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