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南の山の主の説教

 おい、我が王よ。おぬし、いつまで引き籠っておるつもりじゃ。いつまでもうじうじうじうじうじうじうじうじうじうじうじうじうじうじうじうじしとるでない。全く、これが魔族の王だと思うと泣けて来るわ。


 なぜ尾羽を渡したとな? どうして妾が責められねばならん。妾の尾羽じゃ。妾の好きにするに決まっておろう。

 そもそも、下らん茶番に我らをつき合わすでないわ。北のも東のも西のも皆そう思っておるじゃろうよ。なんじゃ試練て。それで王子の真剣さを試すことになると、本気で思うとったのかおぬしは。あれで分かるのは強さと根性と鬱陶しさくらいなもんじゃろうて。


 確かにな。妾とて、妾の巣にたどり着く事ももできんような男であれば尾羽を渡そうとは思わんかった。けれどもまあ、あの王子と魔法使いは人間にしてはやりおる。少し話した限りでもそう悪い者とは思えんかったしの。少々鬱陶しかったが。

 何よりぬしの思惑通りになるのも嫌じゃったしな。尾羽をくれてやったわ。決して王子が鬱陶しくてさっさと帰って欲しかったからではないぞ。

 まあ、妾が最後だとは知らんかったからな……そうと知っていればもう少し考え……む……なんじゃその顔は。言いたいことがあるなら言うがいい。


 ええい! とにかく妾のせいではない!

 あの娘を手放したくなかったのなら、そう言えば良かったのじゃ! それを回りくどい方法で止めようとするからこうなるのじゃ!


 いや、王子を倒せとは言っておらん。どうしてそうなるのじゃ。おぬし、力でばかり物を考えるのはいい加減にせい。


 いやじゃからな、娘に言えば良かったのじゃ。行くな、と。ここに居ろ、と。たったそれだけの事じゃろうが。


 おぬしが娘に好かれているかどうかなんぞ、妾が知るか! 妾が人間の娘じゃったらおぬしなんぞ御免こうむるがの! 命がいくつあっても足りんじゃろうよ! おぬしが妾の巣からあの娘を放り投げた時には、流石の妾も驚いたわ!

 言うておくが、普通の魔族でも飛べんものはおるし、あの高さから落ちたら死ぬぞ? おぬしは人間の事より前にまず常識と言うものを学ぶべきじゃ。


 だからうじうじするでないわ!

 そんなに人間がいいなら新しい娘の一人や二人、攫って来たらどうじゃ。そのうち、あの娘のようにおぬしの元に留まりたいとぬかす酔狂も現れるじゃろうよ。


 ……そう思うなら娘に言ってやれば良かったではないか。なぜあの王子に渡したのじゃ。


 あの娘の幸せなんぞ、あの娘にしか分からんじゃろう。少なくとも妾の目には、あの娘が王子の元に行きたがっているようには見えんかった。


 じゃから! 娘の気持ちなど妾は知らん! あれだけ死にそうな目にあっておきながら、おぬしの隣で嬉しそうに笑える娘の気持ちなど知らんわ!


 第一、おぬしの人型はあの娘と頃合いの年ごろではないか! おぬしの容姿は人から見ても美しいのじゃろ? 妾の事を考えてみよ! 妾の人型を人間が何と呼ぶか知っておるか!? 幼女じゃぞ! 幼女! 人間の男にとってみれば、妾はそれだけで対象外なのじゃぞ……よりによって人間にまるで興味がない西のの人型がぐらまらすな美女なのには納得がいかん……


 なんじゃその目は。

 ふん! まあ妾の容姿はあの娘には気に入られたようじゃがの。膝の上に抱き上げられて撫でまわされたぞ。羨ましかろ?


 やめんか! おぬしに本気で攻撃されたら流石の妾も危ういわ!

 ええい! 落ち着かんか! このたわけ!




 …………。


 正直なところを言えば、おぬしの気持ちも分からんでも無い。おぬしとあの娘はあまりに違う。人間の脆さには恐ろしくもなろう。知らぬことばかりで戸惑いもしよう。

 妾にも覚えのある迷いじゃ。……随分と昔の話じゃがな。


 じゃがな。その妾だからこそ言ってやれることがある。おぬしより遥かに永く生きたものからの助言じゃ。ありがたく聞くがよい。


 よいか。人間の生は短い。おぬしには迷っている時間なぞ無いのじゃ。人間の生などあっという間じゃ。迷うほんの少しの間に終わってしまう。

 じゃから思う事も望む事も、伝えられるのは今だけじゃ。このままでは後悔するぞ。必ずな。妾がそうじゃったのじゃから間違いない。


 なに、安心するが良い。娘に拒絶されたら存分に馬鹿にして笑うてやろう。そしてもし、想いが通じたなら……

 寿命の問題くらいは妾と北のでなんとかしてやろうではないか。伊達に長く生きてはおらん。力だけのおぬしと一緒にするでないわ。


 ふん。少しは見られる顔になったではないか。さっきまでのうじうじうじうじした顔よりはよほどましじゃ。

 よかろう。娘の所まで、妾が連れて行ってやろうではないか。魔族の中でも最も速いと言われる妾の翼を貸してやるのじゃ。出血大さあびすというやつじゃ。感謝するがよい。

 ……先ずは傷を癒さねばならんがの。



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