序章
魔法学園グランフォート99期生。これは、のちに様々な伝説となった〇〇すぎる魔道士たちの語り継がれぬ真実のお話。
序
他の受験者同様、控え室で待つ一人の少女。高校生の平均身長を大きく下回る身体と栗毛のツインテールが、深呼吸のたびに揺れていた。
「では、次1245番の方、入ってください」
「はい!」
彼女は大きくはっきりと声を上げ、教室に入っていくが、極度の緊張で、声が震えていたし、歩き方もロボットのように、ぎこちない。
「何あれ?」
「みっともないよな」
右足と右手が同時に出る様をクスクスと笑いながら、彼女の背を見送った。
彼女の姿を見た受験者全員が思ったに違いない。
『受かるわけがない』と。
彼女が実技試験会場である隣の教室に呼ばれて、数分後……。
「うわぁー!」
「ぎゃー!」
「やめてー!」
「死ぬー!」
「神様!仏様!死神様! 誰かー、助けてください!」
ドカンドカンという何かが落下し、ぶつかる音や振動とともに聞こえる試験官たちの阿鼻叫喚。
控え室にいた者全員が何事かと立ち上がり、隣の教室との隔たりである壁を見つめていた。
しばらくすると、静かになる。
「なんだったんだ?」
ほっとしたのも束の間。
「ぎぃやーーーー!」
断末魔の叫びとともに、ドゴ-ンと壁に重量級のクリスタルのような塊がぶつかり、壁際にいた受験者たちのほほをかすめて、隕石のごとく控え室の中心にめり込んだ。
そして、壁にくもの巣のような亀裂が入り、ガラガラと音を立てて、崩れ落ちる。
その後、今は無き壁の向こう側から、頭をかきつつ、顔をのぞかせたのは、先程の女の子。
彼女のさらに後方を見れば、この学園の名だたる魔道士たちが、机というもろい物を盾にし、泣きべそをかきながら、こちらを見ていた。その姿は、使用不能となった教室と同じくボロボロだった。
受験者たちは、青い顔で一斉に彼女を見つめる。すると、視線を感じ、彼女は舌を出して、こう言った。
「ごめんなさい~。やっちゃいました。てへっ」
この試験で彼女は、学園史上初の『マイナス100点』という得点を叩き出し、史上最低得点で入学を果たしたのだった。
もちろん、この試験の被害にあった試験官および一部始終を目撃した受験者たちは、二度と彼女のいる学園を訪れることはなかったという。