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暗いと捨てられた令嬢は、隣国で光を取り戻す  作者: かも@ろん


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第9章

影が膝をつき、

かすれた声で「たすけて」と呟いたあと、

倉庫の空気は一瞬、静まり返った。

エリシアはその声に胸を締めつけられた。

(……この子……

ずっと……誰にも届かなかったんだ……)

レオンハルトは剣から手を離し、

影とエリシアの距離を慎重に見極めていた。

(……意思がある。

だが、これは“何”だ……?)


影はエリシアの手を握ったまま、

かすかに震えていた。

その震えは恐怖ではなく、

長い孤独から解放される直前の、弱い命の震えに近かった。

エリシアはそっと声をかけた。

「……大丈夫……

もう……ひとりじゃない……」

影の輪郭が揺れ、

淡い光がエリシアの指先に吸い寄せられるように集まった。

兵士たちは息を呑む。

「……光が……」

「彼女に……流れ込んでいる……?」

レオンハルトは一歩前に出た。

「エリシア、離れろ。

それは……」

だが、エリシアは首を振った。

「……この子……

“見てほしい”って……

そう感じます……」

レオンハルトは言葉を失った。

(……あの子は……

どうしてここまで……)


影の光がエリシアの胸元へ流れ込んだ瞬間、

視界がふっと揺れた。

エリシアは思わず目を閉じる。

(……なに……?

ここ……どこ……?)

暗闇の中に、

断片的な映像が浮かび上がる。

- 白い石造りの部屋

- 祈るように手を組む人々

- その中心に立つ、光をまとった“誰か”

- そして──

黒い影が天井から落ちてくる瞬間

エリシアは息を呑んだ。

(……これ……

この子の……記憶……?)

影の声が、

直接胸の奥に響いた。

「……まも……る……

はず……だっ……た……」

エリシアは震える声で返した。

「……守る……?

あなたは……誰を……?」

影は苦しげに揺れた。

「……ひかり……

まも……る……

ため……に……」

レオンハルトはエリシアの異変に気づき、

彼女の肩を強く抱いた。

「エリシア! 何が見えている!」

エリシアはゆっくりと目を開けた。

その瞳には、

影の“記憶”が映っていた。

「……この子……

もともとは……

“光を守る存在”だった……

でも……

汚れに……飲まれて……」

兵士たちがざわつく。

「光を……守る……?」

「汚れに……飲まれた……?」

レオンハルトは影を見つめた。

(……守護の存在……?

ならば、これは……敵ではない。)


影はエリシアの手を握りしめ、

かすれた声で続けた。

「……ひかり……

こわされ……

まもれ……なかっ……た……」

エリシアの胸が痛んだ。

(……この子……

守れなかったことを……

ずっと……悔やんで……)

「……大丈夫……

あなたは……悪くない……

ずっと……ひとりで……

苦しかったんだね……」

影の輪郭が揺れ、

淡い光が涙のように零れ落ちた。

レオンハルトはその光景を見つめ、

静かに息を吐いた。

(……あの子は……

“穢れ”にすら寄り添うのか。)


影はエリシアの胸元に額を寄せるように近づき、

かすれた声で言った。

「……ひかり……

もどし……て……」

エリシアは目を見開いた。

(……光を……戻す……?

私に……?)

レオンハルトはエリシアの肩を掴み、

低く言った。

「エリシア。

その願いを聞くかどうかは……

君が決めろ。」

エリシアは影を見つめた。

その存在は、

恐怖ではなく、

深い悲しみと後悔に満ちていた。

(……この子……

本当に……助けを求めてる……)

エリシアはそっと影の手を握り返した。

「……わかった……

あなたの光……

取り戻すのを……手伝う……」

影の光が、

かすかに温かく揺れた。


影が「ひかり……もどし……て……」と願ったあと、

倉庫の空気は張りつめたように静まり返った。

エリシアは影の手を握り返し、

胸の奥に広がる熱を確かめた。

(……この子の光……

取り戻せる……?

私に……?)

レオンハルトは彼女の横に立ち、

影とエリシアの間に流れる光を見つめていた。

(……これは浄化ではない。

“何かを戻す”力……?)


影はエリシアの手を離し、

ゆっくりと核の方へ視線を向けた。

まるで──

「ここに触れてほしい」と示すように。

エリシアは胸に手を当てた。

「……この核に……触れれば……

あなたの光が……戻るんですね……?」

影はかすかに頷いたように揺れた。

レオンハルトはすぐにエリシアの腕を掴んだ。

「待て。

昨日の“逆流”を忘れたのか。

あれ以上の危険がある。」

エリシアはレオンハルトを見上げた。

その瞳には、恐怖ではなく、

静かな覚悟が宿っていた。

「……大丈夫です。

この子は……私を傷つけようとしていません。」

レオンハルトは言葉を失った。

(……あの子は……

どうしてこんなにも……)

だが、彼は手を離した。

エリシアの選択を尊重するように。


エリシアはゆっくりと核に手を伸ばした。

指先が触れた瞬間──

光が爆ぜるように広がった。

「……っ!」

胸の奥に強い熱が走る。

だが、痛みではない。

(……これは……

“呼ばれてる”……)

影の光がエリシアの手に流れ込み、

核のひびに沿って広がっていく。

兵士たちが息を呑む。

「……浄化じゃない……」

「光が……戻っていく……?」

レオンハルトは目を細めた。

(……彼女の力は……

汚れを消すのではなく……

“本来の姿”を呼び戻す……)


核のひびから、

淡い金色の光が溢れ始めた。

影はその光を浴び、

輪郭が少しずつ整っていく。

エリシアは震える声で呟いた。

「……あなた……

本当は……こんなに綺麗な光を……」

影はかすかに微笑んだように揺れた。

「……まも……る……

ため……に……

うまれ……た……」

エリシアの胸が強く締めつけられた。

(……この子……

守るために生まれて……

汚れに飲まれて……

ずっと……苦しんで……)

光がさらに強くなり、

影の姿がはっきりと見え始めた。

それは──

人の形をした“守護者”だった。


そのとき、

倉庫の奥で“ざわり”と空気が揺れた。

兵士たちが一斉に振り返る。

「……今の音……?」

「何か……動いた……?」

レオンハルトは剣に手をかけ、

影とエリシアを庇うように前へ出た。

(……まだ何かいる……

この核だけではない……)

エリシアは影の手を握りながら、

奥の闇を見つめた。

胸の奥が、

また別の“痛み”でざわついた。

(……この奥にも……

誰かが……?)

影は震える声で呟いた。

「……まだ……

のこっ……てる……

“おなじ……もの”……」

エリシアは息を呑んだ。

(……同じもの……

つまり……

この子と同じ“守護者”が……

まだ……?)

レオンハルトは低く言った。

「エリシア。

ここから先は……

さらに危険だ。」

エリシアは影の手を握りしめたまま、

静かに頷いた。

(……でも……

この子を助けられたなら……

きっと……)


影の守護者の光が少し戻ったその瞬間、

倉庫の奥で“ざわり”と空気が揺れた。

兵士たちは一斉に武器を構える。

「……今の音、明らかに何かいるぞ。」

「核だけじゃなかったのか……?」

レオンハルトは剣を抜き、

影とエリシアを庇うように前へ出た。

影は震える声で呟いた。

「……まだ……いる……

おなじ……もの……

くるし……んで……る……」

エリシアの胸が強くざわついた。

(……この子と同じ……

守護者が……まだ……)

レオンハルトは短く命じた。

「奥を確認する。

エリシア、ついて来い。

影は後衛で守らせる。」

兵士たちが影の周囲に防御陣を組む。


倉庫の奥には、

さらに下へ続く細い通路があった。

黒い筋が壁を這い、

まるで“何かが引きずられた跡”のように続いている。

エリシアは胸に手を当てた。

(……ここ……

さっきより……ずっと重い……)

レオンハルトは彼女の横顔を見て、

低く言った。

「感じるのか。」

「……はい……

この先……

もっと……苦しんでる……」

レオンハルトは短く頷いた。

(……あの子は、痛む場所を避けられない。

だが、その感覚が道を示す。)


通路の先にあったのは、

小さな部屋だった。

中央に──

先ほどと同じ“核”があった。

だが、こちらは完全に黒く染まり、

ひびも光もない。

兵士たちが息を呑む。

「……これは……」

「さっきの核より……状態が悪い……」

エリシアは一歩前に出た瞬間、

胸が強く締めつけられた。

「……っ……!」

レオンハルトが支える。

「エリシア!」

エリシアは震える声で言った。

「……この子……

もう……声も出せないくらい……

苦しんでる……」

レオンハルトは核を見つめた。

(……完全に飲まれている……

だが、まだ“存在”は残っているのか。)


エリシアは迷わず核に手を伸ばした。

レオンハルトが止めるより早く──

指先が触れた。

瞬間、

黒い核が“悲鳴”のように震えた。

「……っ!!」

エリシアの指先が強く光り、

黒い表面が一瞬だけ剥がれた。

兵士たちが後ずさる。

「……反応した……!」

「まだ……生きてる……!」

エリシアは震える声で呟いた。

「……この子……

助けてほしいって……

叫んでる……」

レオンハルトは剣を握りしめた。

(……あの子の力は、

“浄化”ではなく“呼び戻す”……

ならば、この核も……)


エリシアの光が核に流れ込むと、

黒い表面がぱきりと割れた。

中から──

弱々しい光が漏れた。

「……っ……!」

エリシアは胸を押さえた。

痛みではなく、

深い悲しみが流れ込んでくる感覚。

(……この子……

ずっと……

暗闇の中で……)

核が割れ、

中から“影”が崩れ落ちるように現れた。

一体目よりもずっと弱い。

輪郭も曖昧で、

光はほとんど残っていない。

エリシアは駆け寄った。

「……大丈夫……

もう……ひとりじゃない……」

影はかすかに揺れ、

声にならない声を漏らした。

レオンハルトはその光景を見つめ、

静かに息を吐いた。

(……あの子にしか……

届かない声だ。)


二体目の影がエリシアに寄り添った瞬間、

さらに奥の闇が“どろり”と揺れた。

兵士たちが一斉に構える。

「……まだいるのか……?」

「いや……これは……」

レオンハルトは剣を構え、

低く言った。

「エリシア。

この奥にいるのは……

“守護者”ではない。」

エリシアの胸がざわついた。

(……違う……

この気配……

さっきまでの“痛み”じゃない……)

影の守護者たちも震えた。

「……くる……

あれは……

ちがう……」

レオンハルトはエリシアの前に立った。

「ここから先は……

本当の“敵”だ。」


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