第11章
エリシアの光が影の王へ流れ込むほど、
王の黒い表面は剥がれ落ち、
本来の光が少しずつ戻り始めていた。
だが──
その奥で蠢く“別の影”は、
逆に濃く、鋭く、形を持ち始めていた。
影の王が苦しげに揺れる。
「……ちがう……
わたし……じゃ……ない……
なか……に……
“よそもの”……」
エリシアは王の手を握りしめた。
「……あなたを取り戻す……
その“よそもの”を……外へ出す……!」
レオンハルトは剣を構え直し、
低く言った。
「エリシア。
引き剥がした瞬間が勝負だ。
私が斬る。」
エリシアは頷いた。
エリシアは胸の光を強め、
影の王の胸元へ手を当てた。
「……お願い……
あなたの光を……返して……」
光が王の中へ流れ込む。
その瞬間──
王の影が大きく揺れた。
「……アアアアア……!」
黒い影が、
王の身体から“剥がれ落ちる”ように飛び出した。
兵士たちが叫ぶ。
「出た……!」
「これが……“よそもの”……!」
それは王とは違う。
形を持たず、
ただ黒い“穴”のような存在。
エリシアは胸が締めつけられた。
(……この気配……
何も……感じない……
痛みも、悲しみも、怒りも……
“空っぽ”……)
影の守護者たちが震える声で言った。
「……あれ……
ひかり……たべる……だけ……
なにも……もたない……」
レオンハルトは剣を構えた。
「エリシア、下がれ!」
“よそもの”は、
王から引き剥がされた瞬間、
形を変えた。
黒い霧が絡み合い、
人のような、獣のような、
しかしどれでもない“歪んだ形”を作る。
その中心には──
光を喰らった痕跡のような空洞があった。
エリシアは息を呑んだ。
(……この空洞……
光を奪って……
空っぽになった……?)
“よそもの”は声を持たない。
ただ、
空洞の奥から“吸い込むような気配”だけが広がる。
レオンハルトは低く呟いた。
「……これは……
意思を持たない“捕食者”だ。」
兵士たちが震える。
「どうやって……倒すんだ……?」
「斬っても……効かないんじゃ……」
レオンハルトは剣を構えたまま、
エリシアを見た。
「エリシア。
あれは光を喰らう。
だが──
君の光は“再生”だ。
喰われる前に、逆に“満たせ”。」
エリシアは胸に手を当てた。
(……空っぽなら……
光で満たせば……
この子は……壊れる……?)
“よそもの”がエリシアへ向かって伸びた瞬間、
エリシアは胸の光を解き放った。
「……っ!」
光が広間を満たし、
“よそもの”の空洞へ流れ込む。
“よそもの”は初めて反応を見せた。
苦しむように形を歪める。
レオンハルトはその隙を逃さない。
「今だ!」
光をまとった剣が、
“よそもの”の中心を貫いた。
黒い影が裂け、
空洞が崩れ落ちる。
兵士たちが息を呑む。
「……効いてる……!」
「光が……あれを壊してる……!」
“よそもの”は形を保てず、
霧のように崩れ始めた。
エリシアは胸に手を当てた。
(……この子……
何も持ってなかった……
ただ……光を奪うだけの……
“空虚”……)
最後に、
“よそもの”はかすかな音もなく消えた。
“よそもの”が消えたあと、
影の王はゆっくりと崩れ落ちた。
だが──
その身体からは、
黒ではなく、
淡い金色の光が漏れていた。
エリシアは駆け寄った。
「……大丈夫……?
あなた……」
影の王はかすかに頷いた。
「……ひかり……
かえった……
ありがとう……」
影の守護者たちが泣きそうな声で言った。
「……おう……さま……
もどった……!」
レオンハルトは剣を下ろし、
静かに息を吐いた。
(……あの子の光が……
本当に王を救った……)
エリシアは王の手を握りしめた。
「……あなたの光……
まだ全部じゃないけど……
取り戻せた……」
影の王は、
かすかに微笑んだように揺れた。
「……のこり……は……
そと……に……
“ひかりのかけら”……
ちらばって……る……」
エリシアは息を呑んだ。
(……光の欠片……
まだ……外に……?)
レオンハルトはエリシアを見た。
「……つまり、
この国の汚染は……
まだ終わっていない。」
エリシアは静かに頷いた。
「……はい。
でも……
もう“核”は救えた。
あとは……光を集めれば……」
影の王は最後に言った。
「……たのむ……
ひかり……
あつめて……
このくに……
すくって……」
エリシアは胸に手を当てた。
「……必ず。」




