歯車
(た、助かった……)
馬車を囲んでいた狼達は、突然現れた大勢の人達にボコボコにされて倒された。
(というか、指揮取ってた女の人、強すぎだろ…)
全く動きが見えなかったし、気づいたら狼が細切れになってた。周りの人達も凄まじいほど強かったが、それでもなお、彼女は次元が違っていた。
「…オルフェン君…助かったよ…ありがとう…」
馬車のおじさんは、息を切らしながら俺にお礼を言ってきた。
「…俺は何もしてない。」
何もしてないよ、俺は。本当に。
立ってたら突然狼達が止まったんだから。
「失礼、救助が遅れてしまい申し訳ありません。我々はアストレア王国軍です。お怪我はございませんか?」
さっき狼達相手に無双してた女性が、落ち着いた声でこちらに話しかけてきた。あんなに激しく動いていたのに、全く息が切れていない。
「ええ、特には…しかし、このあたりで魔獣が現れるとは……」
「近頃魔族の侵攻が激化しています。この地もその余波を受け始めたのでしょう。」
「そんな……」
馬車のおじさんの顔が青ざめる。
あの狼みたいなのが、魔獣ってやつなのかな?
というか魔族とか魔獣って本当にいるんだ。辺境の村出身だから何も分からないな…
ん?
なんかこの人めっちゃ俺のこと見てないか?
「…何か?」
「いえ、失礼!ともかく無事で何よりです。あなた方はこれよりどちらへ?」
「私達は王都へ向かっております。」
「ならば、本日中には到着できそうですね。我々はこれより周囲の警戒を続けます。どうかお気をつけて。」
そう言い残し、彼女は去っていった。
……何だったんだろう。
「オルフェン君、荷台に乗って。すぐに出発するよ。」
「…ああ」
なんか一気に疲れたな。瞼が重い。
ともあれ無事に着きそうでよかった。
(ね!私の力はすごいでしょ!!)
頭の中に興奮したレオナの声が響く。
いつもより、少し声が高い。
(…レオナが…あの力を…使ったのか?)
(そう!まだオルフェンの体に順応しきってなかったから、出力は控えめだけど、それでも凄いでしょ!)
凄い嬉しそうだ、この女神。
(ああ……助かったよ……本当に…ありが…とう)
そこまで言ったところで限界が来て、俺は意識を手放した。
(ふふ、おやすみ、オルフェン)