物語の強制力
「待てよ、お前ら」
自分の口から、自分のものではないような声が出た。
俺の足は、意思に反して路地裏へと踏み出していた。
(は? なんで? 動くな俺の体! 曲がれ、右に曲がって家に帰るんだ!)
心の中の絶叫も虚しく、俺の体はチンピラたちの前に仁王立ちする。まるで、見えない糸に引かれる操り人形のように。これが、作者(神)による「物語の強制力」か。
「ああん? なんだテメェ」
「その子を離してもらおうか」
口が勝手に、ヒーローみたいなクサい台詞を紡いでいく。内心では、頭を抱えて床を転げまわりたい気分だった。
男たちが下卑た笑いを浮かべ、一斉に襲いかかってくる。絶体絶命。普通ならそう思う場面だろう。だが、俺はもう何も期待していなかった。どうせ、ご都合主義的な何かで勝つに決まっている。
案の定、俺の体は覚醒したかのような超人的な動きを見せ、チンピラたちをあっという間に伸してしまった。まるで、最初からそうなることが決まっていたかのように。
静まり返った路地裏で、俺は呆然と自分の拳を見つめる。そして、おずおずと顔を上げたエルフの少女と、目が合ってしまった。透き通るような紫色の瞳が、俺をじっと見つめている。
「あ、あの……助けてくださり、ありがとうございます」
少女はか細い声で言うと、お約束のように俺の服の裾をぎゅっと掴んだ。
(ああ、もうダメだ……)
俺の平穏なモブライフが、今、音を立てて崩れ去っていく。作者の邪悪な笑い声が、聞こえた気がした。




