アイドル(商品)たちの市場調査(スカウト活動)
あの一夜にして、俺のアパートは完全に飽和状態となった。20体以上の魔族の少女たち――俺は彼女たちをまとめて『ノワールズ』と名付けた――が、狭い部屋にひしめき合っている。食費も、生活費も、とんでもないことになっていた。
「さすがに、全員を王城に売りつけるわけにはいかないな……。一度に売れば価値が暴落するし、そもそも怪しまれすぎる」
俺が頭を悩ませていると、最初の『商品』であるノワールが、おずおずと口を開いた。
「……あの、マスター。実は、私たちを追って、まだ街に紛れ込んでいる仲間たちが、たくさんいます」
「……なんだと?」
詳しく話を聞いて、俺は愕然とした。
作者(神)は、俺を確実に社会的に抹殺するため、相当な数の魔族を、この王都に送り込んでいたらしい。その多くは、人間社会に紛れ込む術を知らず、路地裏などで息を潜めているという。
(……作者め、そこまで俺が憎いか)
普通なら、絶望するところだろう。街に、いつ暴発するかわからない『爆弾』が大量に仕掛けられているようなものだ。
だが、俺の拝金主義に染まった脳は、それを『潜在的な市場』と『未開拓の資源』として認識した。
「……ノワール。お前たちに、最初の『仕事』を与える」
「仕事……ですか?」
「ああ。街に散らばっている、お前たちの仲間を探し出し、『勧誘』してこい」
俺の言葉に、ノワールズ全員がきょとんとした顔をする。
「いいか、勧誘の際のセールストークはこうだ。『路地裏で飢えて死ぬか、人間に見つかって討伐されるか、それとも、最高のプロデューサー(俺)の手で、自分の価値を見出し、安全で文化的な生活を手に入れるか。選びなさい』と」
それは、もはや勧誘というより脅迫に近い。だが、彼女たちにとっては、それが最も響く言葉のはずだ。
「そして、連れてきた仲間たちは、俺の『副業』を手伝ってもらう」
「副業……?」
「そうだ。題して、『モブ・ネットワーク・サービス』だ」
俺の計画はこうだ。
勧誘した魔族の少女たちは、その人間と見分けのつかない姿を利用し、街の様々な場所に潜入させる。パン屋の店員、酒場のウェイトレス、貴族の屋敷のメイド、そして、冒険者ギルドの新人として。
彼女たちは、そこで働きながら、街中のあらゆる情報を収集し、俺に報告する。
誰と誰が密会していたか。どの商会が儲かっているか。騎士団の次の遠征先はどこか。どの貴族がスキャンダルを抱えているか。
そう。彼女たちは、俺の『スパイ』となるのだ。
そして、その情報こそが、金になる。
「集めた情報は、重要度に応じてランク分けし、それを必要としている相手に高値で売りつける。あるいは、その情報を元に、こちらが有利になるように立ち回る。俺たちは、王都の全てを裏から操る、最強の情報屋になるんだ」
俺の壮大な(そして悪辣な)計画に、ノワールズはゴクリと喉を鳴らした。自分たちが、ただの見世物やペットではなく、もっと大きな役割を与えられたことに、ある種の興奮を覚えているようだった。
「これは、お前たちのためのビジネスだ。稼いだ金は、お前たちの生活費や、より良い生活環境の整備に充てる。俺の取り分は、プロデュース料として、たったの9割でいい」
「……ほとんどじゃないですか」
「うるさい。嫌なら、今すぐ路地裏に帰って飢えるか?」
俺のその一言で、彼女たちの小さな反論は霧散した。
こうして、作者が俺を社会的に孤立させ、破滅させるために送り込んだ大量の魔族たちは、皮肉にも、俺が王都の裏社会を掌握するための、最強の『スパイ軍団』へと変貌を遂げることになった。
数日後、街のあちこちで、やけに仕事のできる、可愛らしい新人たちが働き始めたことを、まだ誰も知らない。
俺の部屋には、今日も新たな『商品』候補たちが、ノワールズに連れられてやってくる。
俺のビジネスは、もはや俺自身にも止められないほど、巨大なうねりとなって拡大し始めていた。
作者よ、お前のせいで、俺、本気で世界征服できちゃうかもしれないぞ。どうしてくれるんだ。




