90.真相まで、あと一歩
朝の日課から戻ると、まだ約束の時間ではないというのに、すぐさま謁見室へと連れて行かれた。
重々しい空気と急展開のためか、少し警戒しつつ進んでいく。用意された椅子に座ると、ぐるっと並んでいる顔を見回した。
ここには、国王陛下と王妃殿下と第二王子殿下、そして、私とアレク、グレンと、それぞれの両親がいるだけだった。事件に関わる者という点では、最低限集めなければいけないメンバーだった。
全員が集まると、国王陛下は、口を開いた。
「皆、早朝から招集することになってしまい済まない。しかし、どうしても言わなければいけない事件が起きた」
全員が、緊張の面持ちで陛下と王妃殿下を見ていた。
そして遂に、陛下が言った。
「……今朝、王宮から、ある一つの魔道国宝が盗まれていることが確認された」
ピシリ、と、空気が凍った。
(え……?い、今…魔道国宝が、盗まれた…って……)
魔道国宝とは。
その名の通り、魔道具の国宝のことである。つまり、紛うことなき国宝が、盗まれたらしい。
(えっ。そんな重要なこと聞いて大丈夫?帰りに首、刎ねられるかな)
…そのレベルの話なのである。
それぐらい、私でもわかる。
案の定、「それは……」とお父様が深刻そうに目を伏せた。
「…ああ。大事だな。しかし、その他の情報は、思いの外簡単に割れた。ここにいる三家には、どうせ話すことになるだろう。その上、事件の当事者であり、英雄だ。ここは、一足先に話させてもらおうか」
陛下は、一旦言葉を区切ると、凄まじく鋭い眼光で、続きを話し始めた。
「裏で動いている組織は二つ。一つは実行犯役で、例のメイドに情報を盗み聞きされた輩らしいな。そしてもう一つは――今回の黒幕であろう、アルヴェル帝国だ」
「……」
…アルヴェル帝国。
レオを攫った国だ。リムダ教の奴らだったけど。
そして恐らく、今回もそう。だって、あの黒と赤と、そして焼き印の印は、見間違えるはずもないものだから。
(それにしても、大胆に国を特定させるなんて。よっぽどコッチをなめてんな…)
確かに、あちらは大国だ。武力面で言えば、大陸のNo.2。
しかしこちらも負けず劣らずの大国だ。というより、アルヴェルを少し抜いているので大陸のNo.1だろう。
アルヴェルの余裕が、とても薄気味悪く思えた。
「それで…。もう気付いているだろうが、今回、我が息子と、雇った何でも屋を囮とし、帝国は国宝を盗み出した。セキュリティもしっかりと突破した上で、な」
瞼の裏に焼き付いたアイツの姿が、じりじりと痛みと共に蘇る。とてもとても、腹立たしかった。
死ぬ気で積み上げた実力は通用せず、レオの仇を取れるチャンスも無碍にしたのだから。
「…そして」
意識が、バリトンボイスで引き戻された。
「デイヴィス侯爵、エヴァンス公爵、レイナー公爵は、この件について話し合いたいので残ってくれ。デイヴィス侯爵令息、エヴァンス侯爵令息、レイナー公爵令嬢は、済まないが、城内に居て貰いたい。そして……ヴィンセントには、これを渡そう」
殿下は、「これは…?」と、悠々と差し出されたものを手に取る。
「…中身は、一人の時に確認するといい。以上だ」
陛下のその声で、私達四人は席を立った。
ヴィンセントに渡された紙と日記のような本が気になりつつも、優等生な私は、すごすごと大人しく自室へと帰って行った。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
他の三人が各々城内で好きにしている時、ヴィンセントは、自室に鍵をかけ、手にした紙と日記を見つめていた。
紙は、何でも屋が簡単に吐いた事実――事件の真相について。
そして、日記は――亡き、メイベルのものだった。




