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異世界エンジョイ勢は無自覚逆ハーレムを築く  作者: ごん
リズと軟派系第二王子
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86.幕開けの弓矢


 ワインを飲み干した殿下を見届けると、みんなで軽く雑談をしたのちに退散した。

 そして、さりげなく周りを見回した。


 みんな、私達を、いや殿下を遠巻きに眺めている。殿下の噂が招いた結果だ。

 前は殿下にすり寄っていた令嬢も、手のひらを返したようにヒソヒソ話をしている。


 それから、そんな人群れの中に紛れる、王家の特殊部隊に視線を遣る。すると、いつの間にか、例の貴族二人と給仕は、跡形もなく消えていた。


(それにしても、王家が人員を貸し出してくれるなんて)


 紹介したことはなかったが、この国は”フォグラム聖王国”と言う。


 そして、フォグラム王家は切れ者が多いことで有名だが、その反面、その優秀さを恐れる者も多い。猶のこと近寄り難い存在だと思っていたのだが、お父様が拍子抜けしたような感じで貸し出しまで捥ぎ取って来たので、本当に貸し出してくれるのか?と半信半疑だったのだ。


 しかし、実際には、本当に貸してくれた。しかもタダで。

 タダより怖いものはないというが、今だけは話が別だ。


 なんでも、「息子に関することだから、親であり国王である私が自ら動かねば、下の者に示しがつかない」ということだ。人格者である。


 それに、陛下は殿下のことも「大切な息子」だと思っていたことがわかり、ほっとした。


(何はともあれ、計画は勢いに乗って来た。この調子で…)


 その時、視界の端に、会場をふらふらと覚束ない足取りで出て行く殿下を捉える。

 殿下の顔はあまり見えないが、遠くからでも少し赤くなっているのがわかった。


 そして、私は、息が止まるかと思うほど、驚いた。

 それと同時に戦慄する。


(…なんでちゃんと()()()()()?)


 私達は、毒や媚薬の類を盛られることは百も承知だった。


 だから、公爵家の方で、国家レベルでの要人にも使うような、毒浄化の魔法が仕込まれた魔法具を、殿下に付けていたのだ。


 更に、各部屋に一人ずつ、秘密組織の人間に張って貰っているし、巡回までして貰っているため、素面の殿下に誘き寄せて貰おうとまで画策していたのだが……。そう簡単には、嵌められてはくれないらしい。


 冷や汗をタラリと流しつつ、深い笑みを浮かべる。

 そして私は、殿下から目を離さず、傍らに立っていた王家組織の一員にボソッと告げる。



「…追って」



 瞬きも、頷きも、何一つなく、幻のように人が消える。

 そして、行ったのを確認すると、アイコンタクトで、遠くに散った友人達と目を合わせる。それぞれ、きっかり二秒ずつ。


 それは、



『行ってくる』



 という合図と、アレクとグレンへは



『一緒に来て』



 という意味も含んでいる。

 出入口付近に固まっていたアレクとグレンが先に出る。私も、しれっと会場から出て、全員に隠密(ステルス)をかけた。


(上の階の、手前から三番目、右の客間)


 あの状態の彼では、どこまで出来たかはわからない。

 ……けれどそれでも、私は、彼が復讐と改革を語った時の顔を知っている。


 だからこそ、殿下を信じ、その部屋へと直行した。



 ♦ ♦ ♦ ♦ ♦



「〈〈風の便り(イヴィスドロップ)〉〉」



 アレクが、美しく正確な魔法陣を生み出した。

 そして、ドアを避けるようにして、三人でぎゅっと集まり、聞こえてくる声に耳を澄ます。



 ――ガサッ、ゴソッ。


 ドゴ、ガゴンッ!



(物が落ちてる…?いや、これは…静かな、戦闘音…⁉)



 反射的に出て行こうとした私の腕を、がっしりとグレンが掴む。

 なぜだと眉をハの字にしてグレンを見ると、ふるふると首を振られた。続いて、アレクにも。

 そして、アレクに、耳元で、小さく囁かれた。



「……動くにしても、他のメンバーに知らせてから、でしょ」

「……だって」



(殿下は、…本当は、トラウマになっているかもしれない状況なのに)


 悔しさに、奥歯をぎりぎりと噛みしめる。

 そんな私に、グレンは優しく微笑みかけた。



「…大丈夫だ。逆に考えれば、他の奴に知らせさえすれば、思う存分暴れられるんだろ?なら、さっさと済ませて助けてやろうぜ」

「……うん。そうだよね、ごめん」



 いくらなんでも冷静な言動ではなかったと思い、謝る。



「じゃあ、アレク」

「わかってる。…いくよ」



 私とアレクは、利き手を重ねて魔法陣を発動した。



「「〈〈風の囁き(コンタクト)〉〉」



 緑色の光が、一層強い光を放つ。



『…繋がった』



 脳内の言葉が、そのまま送られる感覚だ。

 アレクも、私の声が聞こえたのか、ちょっとだけびっくりしている。

 しかし、すぐに平静を取り戻し、淡々と全協力者に告げた。



『予定通りの部屋に、交戦中と思われる音を確認。応援要請と、これから突撃することの連絡。…切ります』



 マジで淡々としてんなあ…と思っていると、ブツッと電源が切れる音に近い音が脳内に響く。

 きっと、通信魔法が切れたのだろう。



「…じゃあ、いい?」



 私は、ナイフを手にして二人に尋ねる。

 そして、アレクとグレンの力強い頷きを確認すると――、私は、扉を開け放った。


 その瞬間、矢が、私の首の薄皮を巻き込み、後ろの壁に突き刺さった。

実は、三人でぎゅっと集まったとき、アレクとグレンは照れてました。裏設定(?)です。

あと、リズちゃんに計画のことでお願いされたとき、「あんなに頼ってくれなかったリズが…!みたいにイツメン全員がなりました。中には感涙した人もいるとかいないとか。

(たまにはこういうのもいいかなと。ブクマ50突破記念です、これからもよろしくお願いします!)

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