84.決戦へと狙いを定めて
「……なるほどね。事情はわかったわ」
納得顔の三人。
組織は今も殿下を狙っている、という情報まで共有したので、かなり深刻な事態だということは伝わっているだろう。
そして、だからこそ私は言った。
「お母様、お父様。殿下の御身が危ういこと、陛下に連絡出来ないでしょうか」
けれど、その発言を読んでいたかのように、お父様が鋭く切り返す。
「何を狙って連絡するんだ?」
「御身をお守り頂けるよう、警備を厳重にして頂ければと」
「そうか。…ただ、側室が斃れたあとの子の権力は、皆無に等しい。側室の家族には縁を切られているだろうし、側室自身が持っていた価値も引き継げない。相談するのさえ難しい問題だ」
「……ですが」
わかっていても尚食らいつく私に、「それに」とお父様は続けた。
「なぜこちらから掛け合ったのかと言われるだろう。もしかすると、不法侵入の件も芋づる式でバレるかもしれない」
「そ、それはそうですが」
「そもそも、そんなに殿下を助けたいなら、殿下の口から陛下へ進言すればいい。命が狙われているから助けてくれ、とな」
正直、私に他家の親子関係はわからない。王族なんて猶更だ。
けれど、多分無理だ。権力も後ろ盾もない子を、正妻の前であからさまに庇えないだろう。例えそれが、エルザ様でもだ。
「……」
やはり、国王陛下に助けてもらうのは難しい。
しかし、王城は紛れもなく陛下の管轄。我が家が口出し出来るものでもない…。
(詰んだ…)
暫くは猶予があるはずだ、と殿下は言っていたが、今この瞬間にも襲われている可能性があるのだ。うかうかしてはいられない。
なのに、打つ手はない。…歯痒かった。
しかし、そんな時、私の頭上から、どこか明るいお父様の声が降ってきた。驚きの言葉と共に。
「――だが、やりようはある」
「えっ…」
目を瞠ると、お母様が、珍しく楽しそうに微笑んでいた。
「ちょうど三日後、王城で建国三百周年記念パーティがあるのは知っているわね」
「はい」
「だとすると、恐らく狙い目はそこよ。必ず、その日に何かが起きる」
(パーティが、狙い目?それはなんで……)
私の考えを見透かしたように、お父様が言う。
「そのパーティは、最大規模だ。全家の貴族が集まる。その分、勿論警備は厳重だが、その組織は恐らく手練れだ。逆に、紛れ込むことで安全に侵入するだろう。…大体、その組織も目星は付いているからな」
すっと目を眇めたお父様は、冷たい空気を放っていた。
しかし、そういうことなら、少しは安心出来る…かも。三日後であまり日にちもないし、それに、『パーティで来る』と思っていれば、緊急事態でも対応出来る気がしていた。
「とはいえ、三日間のうちに出し抜かれては元も子もない。三日間だけと、陛下に掛け合っておこう」
「!いいんですか……?」
「当たり前だ。陛下には、『優しい娘が王子を心配したので、三日だけ』とでも言っておく」
それは…、何か、曲解されなければいいけれど。
「そうと決まれば手配しましょう」
お母様は、もういつもの無表情に戻っていた。
バリバリの仕事人のような顔つきだ。
私は、いい家族に恵まれたと、そう思った。
そして、そうしている間にも、パーティの日は、刻一刻と迫っていた。
――殿下護衛戦が、迫っていた。




