83.大罪人は足掻きます
現在私、リズは、家族の前で正座中です。
「…それで、エリザベス。何か、弁明はある?」
ヒヤリとしたお母様の声に、背中を冷たいものが伝う。
しかし、何のことを言われているのかサッパリだ。心当たりが多過ぎて。
まず、王城侵入の件。そして、殿下と接触していた件。途中から侍女三人を巻き込んで(正式に)突撃した件や、牢にメイドを突っ込んで放置していた件…。
(うん、余罪が多すぎる)
観念したような、悟りを開いた仏のような顔になる。
(なら、せめて最後まで足掻いてみよう)
そうして、私はごくりと喉を鳴らし、白状した。
「その……。第二王子殿下と接触したのは…」
「……」
(表情から読み取れない‼)
この件で合っているのか。そしてこの件を弁明しなければならないのか。
流石は私のお母様、ポーカーフェイスで優秀だ。ただ、今だけは思いっきり表現して欲しかった。
仕方ないので、私は、探り探り情報を明かしていく。
「第二王子殿下とは、殿下のデビュタントのパーティで初めてお会いしました。殿下の立ち振る舞いからもわかる通り、婚約者にと望まれましたが、あくまで私はお断りし、友人として関われるようにと…」
何に対する言い訳か、最早わからなくなりつつあった。
というか、これって少し馴れ初めみたいだよなあと思っていると、フゥ……という押し殺したような溜息が聞こえた。お父様のもので、思わずビクッとしてしまう。
「……違う」
「……」
「私達が言っているのは、それではない。もっと、大きな問題があるはずだ」
周囲からの剣呑な雰囲気に、私はひいっと怯え上がった。
(ややややっぱり王城への侵入の件がバレちゃった…⁉ということは…下手すれば私、大罪人として…処刑?)
内心ガクブルだったもので、私の声は上擦った。
「も…、もっと大きな問題ですか……?」
「ああ。それは――」
お母様、お父様、そしてレオの三人の鋭い視線が突き刺さる。
使用人達も、どこか咎めるように私を見ていた気がした。
(…そうだよね。人を助けるため、友達に会いに行くためだったとはいえ、やってることは立派な犯罪だ。それに、バレなきゃいいって言葉があったけど、私の場合バレたから…完全にアウトだわ)
さよなら、私の令嬢人生。
よろしく、私の囚人生…。
自業自得なのに、心の中でほろりと涙を流す。
そして、遂にお父様の口が開いた。
「――それは、あの第二王子にデレデレしていたことだッッ」
「…はい?」
今のが幻聴でないなら、まさかまさかの理由だった。いや本当、衝撃的過ぎる親バカさ加減が覗いた瞬間だろう。
ぐっと拳を握りしめ、唇を噛むお父様。
お母様も、扇子で口元を隠しつつ、目を細めて殺気を放っている。
レオや使用人達の咎めるような視線も、もしかすると、私が殿下にデレたように見えたのが原因で…?
そして、その考えを裏付けるかのように、レオとお母様が追撃する。
「しかも、赤くなったところを沢山の人に見られてたから、噂の火消しも大変だし?その上、姉様は王城に不法侵入してまで逢瀬を重ねたかったみたいだし」
「へっ⁉あのそれは――」
「…そこまであなたが気に入ったというだけで業腹よ。ああ、今すぐにでもそのナンチャラ王子を刺し殺しに行きたいわ…」
「ちょ、迂闊な発言はやめてくださいお母様‼あと、私は気に入ったから不法侵入を繰り返してまで会いに行ってたんじゃありません‼」
そう言ってハッとする。
(あーナチュラルに不法侵入認めちゃったー…)
しかし、そんな私の考えを読んだかのように私過激派な家族が言い募る。
「容易く侵入出来るようなセキュリティの王城の方が悪いのよ」
「そうそう。それに、あっちにバレなきゃ犯罪じゃないし。ぶっちゃけ静観されてる気もするし」
「セキュリティの方は、私の方から進言しておこう。…二度と一人でエリザベスが侵入出来ないように」
…つまり、『王城の不法侵入はもういいよ!』ということらしい。
(公爵家がこれでいいのかな)
明らかな人選ミスに、頬がぴくぴくと引き攣った。
「そんなことより!」
「そんなことより⁉…ってそんなことより⁉⁉」
「不法侵入を繰り返してまで逢瀬してた理由のこと!ほら早く!」
「逢瀬じゃない!…いだっ、わかった、言う、言うからっ」
にゅーっと両頬を優しくだが引っ張られ、私はあえなく降参した。
「…でも、ここでは話せません。とりあえず、三人だけで、いいですか?」
そうして、殿下襲撃(?)事件から私達の推理まで、私の部屋で、洗いざらい吐くことになったのだった。




