78.恐怖のメイドとおしゃべりを
「あのメイドの元へ、オレがまた……?」
愕然とした様子で問うヴィンセントに、リズは眉をハの字にした。
「…確かにそう言っていました。連絡も今日中に来るはずです。ですが、無理に行く必要もありませんよ。だって、あのメイドの罠かもしれないじゃないですか?」
リズがそう言ってにこりと笑うと、少し強張った顔でヴィンセントも笑い返した。
「……ところで、他にわかっていることはあるの?」
「調査中です。じきにわかりますのでお待ち下さい」
圧のかかる顔面を、二人揃って突き合わせる。
「わざわざ行ってやる必要あります?」
「でも行かなきゃ。そうしないと得られない情報だって、きっとあるよ」
「……」
「……」
そして、最終的に折れたのは…。
珍しく、リズの方だった。
「はあ~っ……。仕方がありませんね…」
「わかってくれて助かるよ」
満足げに微笑んだヴィンセント。
しかし、すかさずリズはヴィンセントの腕を掴んだ。
「……ただし、私も連れて行くという条件付きです」
「えっ……。…いや、流石に」
「嫌です」
「だーめ」
「行きます‼」
「だーめ‼」
「……わかりましたよ。大人しくしています」
ヴィンセントは、渋々といった宣言を引き出すことに成功した……のだが、逆に(…ちょっと待て)とある勘が頭に過る。
(…なぜか、一人で放置しておいたらもっと凄いことをしでかしそうな予感がする…)
ヴィンセントの中でも、既に問題児枠に収まっていたリズなのだった。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
そんなこんながあり、結局、地下牢へは二人で行くことになった。
リズは、隠密を使って付いていくということに決まった。ちなみに、一応、牢の前までは行かず、物陰で待機することになっている。
二人は、豪奢な城の中を歩いていく。幸いにも、殆ど人と会わずに地下牢に到着した。
地下牢は、じめじめとしていて薄暗く、闇の中でもぎらぎらと光るような囚人の目が、二人に緊張と恐怖を与えた。そして、大分奥まで来たとき、リズがこそっと耳打ちした。
「…居ました。あそこです」
リズの視線を辿ると、そこには、ぼろ布を着せられた女がいた。備え付けられた固いベッドに深く座り、ぼうっと虚空を見つめている。まるで、糸の切れた人形のようだった。
寒気を覚えたリズは、「やっぱり私も…」と言うが、ヴィンセントはそれを少し制して、女の前まで歩いて行った。彼の頭の中は、ジェラルドの無念を晴らしてやるという思いで染まっていた。
「……こんにちは。よくもオレを襲おうとしてくれたものだね」
そんなヴィンセントの様子を見て、リズは、警戒しつつも、一番近くにある障害物に身を隠した。(…どうか無事で)という思いを込め、じっと二人を見つめていた。
一方、メイドはというと、グルリと首だけ回してニタリと嗤った。
「アハハ、やっぱり来てくれた!可哀そうなヴィンセント様‼」
「……」
ヴィンセントはぐっと堪え、目の前の狂気に甘く微笑んだ。
「…今日は、君と少し話がしたくてここに来たんだ」
「へへへ……へへへへへへへッ…。あのことでしょう…あなたの大切な老いぼれが死んだ事件のことでしょウ?」
「…?いいや、違うよ。オレは今日――」
「――君を、口説きに来たんだ」
本日は少し短くなってしまいました…
ちょうど区切りが良かったもので…明日にまたご期待下さいすみません!
(by作者)




