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異世界エンジョイ勢は無自覚逆ハーレムを築く  作者: ごん
リズと軟派系第二王子
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74.嫌われ呪われヴァンパイア


 ヴィンセントは、これ以上ないほどに狼狽していた。

 私室に一人蹲る彼は、まさか、こんなことになるとは思っていなかったのだ。



 ♦ ♦ ♦ ♦ ♦



 少女に痴女から救ってもらったばかりの朝のこと。

 すぐ耳に入ってきたのが”オレの呪いが二人を蝕んだ”という囁き声だった。


 別に、実母メイベルはどうでもいい。

 顔を合わせたら合わせたで、薄気味悪い不気味な笑みを浮かべているだけで、何もしてくれなかった赤の他人だ。


 しかし、ジェラルドは別だ。

 恩人で、従者で、家庭教師で、家族で。生き方を教えてくれた人で、とても大事な人だ。


 その人が亡くなったという事実と、その人が自分のせいで死んだかもしれないという事実は、どちらも耐えがたいものだった。


 だからオレは、部屋に寄り付く者がいなくなったことも、社交や政治の打ち合わせがぱったりと途切れてしまったことも、気付いていたが何も思わなかった。


 自分の立場が危うくなり、野望を半ば手放す危機に瀕しているのに、何も思わなかったのだ。


 ただただ、酷い喪失感に酔っていた。

 随分久しぶりに、オレは嗚咽をもらして泣いた。


(…オレのせいだ)


 ぐしゃぐしゃと頭を掻きむしる。


(オレの周りにいたからあの人は死んだ…しかも、あんな紋章を、体を削る形で書き込まれて……ッ)


 オレは、これは呪いなんかではない、意図的な誰かの犯行だと睨んでいた。

 しかしそうだとしても、彼がオレの周りにいたから巻き込まれたという事実は、依然として残るまま。



「……こんなことになるぐらいなら…ジェラルドをオレから逃がせば良かった…ッごめん…ごめんジェラルド……ッ」



  …最近、順風満帆だと感じていた。

  政治で活躍して。

 一目置かれて。

 

  …だからだろうな、とオレは諦観を抱く。

  きっと、オレが活躍するのを良く思わない奴が、オレを貶めるためにそうしたのだ。


 オレは失念していた。

 今の立場が、それほど弱く脆いことを。

 オレは所詮、狂った側室の子で、忌み嫌われるヴァンパイアなのだということを。


 『俺がジェラルドを殺した』ということに囚われ、オレはなかなか泣き止めない。

 思考も纏まらなくて、何かを考える気分にもならなかった。


 早く弁明した方が身のためだと分かっていたけれど、それをするだけの気力もない。

 こんな時、優しく慰めてくれる人が居たら……と、オレはつい願ってしまう。


 そんな人、ジェラルドしか居ないのに。

 そして、もうジェラルドは、この世には居ないのに——。



「失礼しま~す」

「…は?」



  このシリアスな場にそぐわない、呑気な声。

 つい先日に聞いた、この声は…。



「……エリザベス嬢?」

「全く。世話の焼ける坊ちゃんです」



 そう言って楽しそうに笑った彼女を、オレは凝視して迎え入れた。

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