67.かまちょですか
(むっかつく…むかつくむかつくむかつく‼こんの軟派王子めぇぇ…っ‼)
私は、今も私に引っ付いてくる迷惑極まりない王子を胡乱気に見る。
ニコニコとしていて真意は見せないし、距離は近いし、何より大衆の目の前で私が照れてしまったせいで図に乗っている。
(そもそも…‼誰が相手でもあれだったわ‼だって、あんな至近距離、私に耐えられるわけないし…‼ちょおっと顔がよくて、ちょおっと女性に刺さるくらい優しかっただけで‼私も、ちょおおおおっと、アイツの熱を浴びて脳が恋愛モードになっちゃっただけでー‼‼‼)
悔しすぎて、脳内は言い訳祭りだ。本当に、いい迷惑である。
私は、エスコートしてくれているレオを小突き、もう少し速足で歩くように急かした。申し訳なくは思うが、私もまあまあ自分のそういう名誉は気にするものなのである。
「弟君にばっかり構ってないで、もうちょっとオレのことも構って欲しいなぁ……な~んて」
「ふふ。お戯れを」
私の背後に吹き荒れるブリザードに早く気付け、と絶対零度の瞳で見やる。それでも飄々として折れる気配がないのも全く困りものだ。
「そういえば殿下。殿下に声をかけてほしそうな花達がいらっしゃいますよ」
「え~?うーん…オレがその花達を愛でたら、君は妬く?なら構って来ようかなぁ」
「何事も挑戦です。ほら殿下、手始めにまずはあの令嬢に声をかけて来て下さい」
「えぇ~…?でも…」
「早く」
「え」
「ほら」
「……はぁ~…。わかったよ、じゃあ君を精一杯妬かせるように頑張るから。…見ててね?」
「…ハイ」
「今絶対間があった…」
早く行け。そしてもう二度と私の前に現れるな。
そういう思いを込め、渋々といった様子で離れていくヴィンセント様、いや殿下(ちょっと距離を意識的に離した呼び方に改めた)を見送った。
そして、レオ以外の全ての人から十分な距離を取れるところまで来ると、はあーーーーーーっ……と盛大に溜息を吐く。
「…やってしまった…」
「ホントにね、ね・え・さ・ま。アレ、お義父様とお義母様も見てたんだよ?どーするの??」
「うぅっ…あとで…あとでしっかり弁解するからぁ……」
メソメソと泣く私の前には、魔王のような可愛い天使が立ちはだかっていた。
「ていうか、ボクがいるのにちょっとでもその気になったってことだよね?ねぇ。そこらへん、どうなってるの?」
「だって…あの距離は私には無理だってぇ~……。ゼロ距離だよ?ゼロ距離…」
完全にイっちゃってる目に怯えつつ、ちょんちょん指を胸の前でつきつつ言い訳をする。
すると、少し恥じらいながら、レオが言った。
「……じゃあ、ボク相手でもああなる?」
「いや。レオ相手は恐れ多すぎてちょっと出来ない」
それがいけなかったのかもしれない。
完全に間違った答えを即答した私に、レオはすんと真顔になり、がしっと私の手首を掴んだ。
「ハイ強制調査決定。姉様、人の来ないところに行くよ」
「えっ?えっ?ちょ、待ってー‼それ、色々とまずっ…」
「さっきまでまずかったんだし大丈夫。ちょっとまずいことが増えるだけだよ!」
「いやそれ全然大丈夫じゃないよ⁉⁉」
ニコニコ笑顔で黒い気配を醸し出すレオ。
「でっ、でも!流石に姉弟とはいえ、あのダンスのあとで二人だけで抜け出すのは……」
私がそう渋ると、三拍くらい置いて、はあっとレオは肩を落とした。
「…まあ、ボクも、姉様の評判を落としたいわけじゃないし…」
「!じゃっ、じゃあ……」
期待を込めて目を輝かせると、よく開けた視界に、ほんの一瞬だけ、エンジェルフェイスが近付いてきた。殿下よりも、もっと近くに。
「ばッ……⁉⁉」
「ほんとだ。姉様って、普段人を揶揄うくせにす~ぐ赤くなるんだね。なんだ、心配して損した」
どくんどくんと気持ち悪いほど脈打つ心臓を両手で押さえつつ、レオを凝視する。悪戯っぽく笑うレオは、どこか蟲惑的だった。本当、人の目を盗んでやるところが我が義弟ながら流石過ぎる。
「じゃあ、これからはもっとボディタッチを多めにしよっと……」
「…へぇ⁉いっ今……今、なんか恐ろしいことが聞こえたような気が……ッ‼!?」
「大丈夫、大丈夫。人のいないところでやるから。…あっ!次のダンス曲来る!姉様早く、ダンスホールに行くよ!」
「えええええ⁉行動速っ…ちょっと待ってぇー‼」
そうして私は、ちょっと強引だけど、可愛くあざとい自慢の弟に手を引かれて行ったのだった。
【簡単に】
祝・初感想&200pt突破!
そして、本日から24日まで2話連続投稿です!
【ちょっと長めに】
ブクマやリアクション、評価や感想、どれも本当に嬉しいです!
ですが今回、感想への返信が遅くなってしまい…送って下さった方、本当にすみませんでした。理由は少し言いにくいのですが……実は、旅行に行っていました。
本当は事前にお知らせできればよかったのですが、スマホで返せない+PCなし+Wi-Fiなしという三重苦で…。まさか感想が来るとは夢にも思っておらず…!
「無視された…?」と心配させてしまったら本当にごめんなさい。今後は、返信が遅くなりそうな時はちゃんと事前にお伝えします!
感想も評価もすごく励みになりました。本当にありがとうございました!




