65.軟派系王子様
いつぞやのキラキラしいパーティ会場で、私はイツメンとキャッキャウフフと会話に花を咲かせていた。
華美なだけでなんの面白味もないと思っていたパーティだが、最近は友達が増えてきたので、思いの外楽しい場所になりつつある。勿論、情報収集など課せられるタスクはあるものの、それが終われば遊び放題だ。
それに、高い位の家なので、安易にあちらから声をかけられることもなく非常に快適。おまけに美味しいお料理も付いてくるので、煩わしい視線さえなければ完璧だ。
……ああ…、あと、王家への挨拶に行かなければ。
家族に声をかけられたので、渋々イツメンの元を離れ、ウンザリしながら列に並ぶ。今回のパーティは、両親と兄同伴だ。位が高い家から挨拶をするので、私達の順番はすぐに回ってきた。
いつも通り、若々しい国王夫妻と、輝かんばかりの第一王子殿下に迎えられる。
…いや、違う。色々と違った。
(あれは……エルフの耳⁉)
第一王子殿下の耳が、エルフっぽい長い耳に変化していた。前までは確かに人間の耳だったのだが…。確か、半エルフは十四~十六歳くらいに耳が変化すると聞いたことがある。きっとそれだろう。
(こ、こんなところでお目にかかれるとは…!あれ?てことは……)
さりげなく、王妃殿下の耳元を窺う。すると……
(え…エルフ耳ー‼今まで長い髪に隠れていて見えなかったけど、エルフだったのか…‼異世界エンジョイ勢としたことが…何てこと……ッ)
くっとショックに内心打ち震える。その間に、私の家族は挨拶を始めていた。私も口をオートで動かしつつ、思考は全く別の場所に行っていた。
(それに…)
ちらり、ともう一人の少年を見る。
そして、「第二王子殿下の誕生日であり、デビュタントであるこの目出度い日にお招き頂けたこと…」と社交辞令を述べる父の言葉に反応する。
(そうだった。このパーティ、第二王子殿下の誕生パーティだった)
変なところで適当な性格が災いしていた。
(それにしても綺麗な子…。きっと攻略キャラなんだろうなー。第一王子殿下もだけど)
改めて、それはもうじっくりと二人の容姿を観察する。
第一王子殿下は、風精霊を思わせるエルフで、風のような爽やかな美形だ。王子らしい金髪碧眼で、容姿は完全に光系。金髪碧眼なのに私と被らない印象なのは助かった。
第二王子殿下は、噂に聞いた通りにヴァンパイア。濡れ羽色の黒髪に血のように赤い目を持つ美形で、容姿は第一王子殿下と対になるような闇系だ。
第一王子殿下の母親は王妃殿下で、第二王子殿下の母親は側室らしいから、容姿がかけ離れているのもなんとなく納得する。
(…ん?あれ?今、私、何か大事なことをさらっと紹介したような……?)
うーんと考えた末に、ハッと閃く。
(そうだ!そうじゃんそうじゃん、目の前にリアルヴァンパイアがいるんじゃん‼)
その途端、第二王子殿下をより食い入るように見た。危険そうで、それでいて少し軽薄そうな雰囲気を醸し出している。私が見ていると気付くと、さりげなくパチリとウインクをしてくるくらいには気障なようだ。
しかし、違う。私が見たいのは仕草でも顔面でもなく、その牙だ‼
(ヴァンパイアなら例外なく牙があるって聞いた……つまり、その牙を生で拝めるチャンス…‼口…口を開けぇーっ‼)
呪詛のように何度も何度も唱えていると、挨拶を終えてしまったようだ。目立たないように退散する。未練がましく第二王子殿下を見ていたが、遂に折れて、はあっと短めの溜息を吐くと、今度こそ視線ごと退散した。
それから家族とは解散した。エリザベスちゃん救出隊(だっけ?)の隊員として何か言いたいことがある様子のお兄様だったが、私がライラの元へ素早く近付くと、諦めたように肩を落として去っていった。それについて話し合うのは、定期集会だけでいいのである。
(それにしても、フレデリック第一王子殿下と、ヴィンセント第二王子殿下かー…)
こんな私でも、王子二人の名前は覚えているものだ。
(いつか、あの耳と牙だけでも観察させてほしいなぁ……)
イツメンで固まり、貰ったノンアルのシャンパンを揺らしながら、ぼうっと私はそんなことを考えていた。近寄ってくる影と波乱に、気付かずに。
年齢についての情報を変更しました(2025/8/17)




