【閑話8】ぷよっとぷよ丸冒険隊!
ソレはぷよっとはりつやボディを揺らし、キラリとつぶらな瞳を輝かせる。
そして、リズが誂えてくれた探偵用の帽子とフードを被った。
『ぼくはぷよまる。きょうはりぃずを”びこう”する!』
虫メガネを触手で掲げた。
そんなぷよ丸を見て、リズはいつも通りデレデレになって頭を撫で、そして出かけた。
(りぃず…お世話も、なでなでも、ぎゅーもしてくれる…おいしいものもくれるしあまいのもくれる、お願い事もすぐかなえてくれる…いきたい場所にもつれてってくれる…でも…)
ぽろっと、スライムの涙が零れた。
(きけんなばしょ、連れてってくれない……!)
そしてぷよ丸は、目を瞑って涙を落とし、キッとドアの方を見据えた。
(だからぼくがりぃずに付いてく‼)
ぽよーんっぷよーんっと跳ねながら、うんしょ、うんしょとぷよ丸はドアへ向かう。そして、ドアの隙間を器用に潜り抜けた。
(!たーげっと、はっけん。たーげっと…”ばしゃ”!)
馬車に乗ろうとするリズを見つけ、慌ててぷよ丸は馬車の隅に乗り込んだ。
ギリギリセーフで、次の瞬間には馬車が走り出していた。
(たーげっと、ろっくおん)
そして、ぷよ丸側にある窓に顔をべとーっと張り付けてリズを見る。リズは……窓全体にべとーっと張り付いている、わかり易過ぎるぷよ丸に、まだ気付いていなかった。視線を下に落としているからだ。
(……ひょうてき、気付いてくれない……)
気付かれたら意味がなくなることを忘れ、ぷよ丸は寂しさを感じた。つぶらな瞳がまたもや潤む。しかし、リズが顔を上げた途端、ぷよ丸は窓から離れた。
(…”びこう”、気付かれちゃ、ダメだった…)
気付いた。
(!とまった)
その時、馬車が緩やかに停止した。そして、リズは馬車から降り、大きな屋敷の方へ向かっていく。
(ま、まって…りぃずぅ…)
ぷよっと跳ねながら頑張るのだが、リズはなかなかに足が速い。みるみるうちに距離が離れていく。
(……疲れた…)
そこで、ピコン!とぷよ丸は閃いた。
(こうなったら……)
そしてぷよ丸は、門のてっぺんまで登ると、そこから大ジャンプをした。
『うわわわわわわわ……』
ぽろぽろと涙がアメのようになりながら落下する。そしてようやく地面につくと、三回バウンドしてやっと着地した。だが――
(……いたい……)
あまりに高いところから落ちたためか、自慢の高性能ボディでも衝撃を吸収しきれなかったらしい。ぷよ丸は、溶けるように地面に寝転んだ。
『…とけちゃう…りぃずぅ……』
「はーい、リズだよー」
その時、いつも通りの呑気な声が降ってくる。ぷよ丸は、痛みなど忘れたかのように『りぃず!』と嬉し気にタックルする。それを「ぐえっ」と言いながら、なんとかリズは抱き留めた。
「その子が例の”ぷよ丸”?」
赤髪赤目の吊り目の女子がそう聞くと、リズは「うん!」と嬉しそうに答える。
「…ああ、本当だ。久しぶりだね」
「お、シスは知り合いなのか。俺はグレンだ、よろしくな?」
『よろしくねぇ~』
「お前、可愛いなー!」
「リズがいっつもデレデレしてたよね…うわ、またしてる」
アレクとグレンがぷよ丸を構い倒す。ライラは、撫でていいかどうか迷っているみたいで、手が行き場所をなくしフラフラしている。そしてもう一人、リズの元へ駆け寄る人物がいた。
「姉様ーっ!ぷよ丸だけじゃなくて、ボクも構って?」
「わっ!レオ!」
その瞬間、ぷよ丸とレオの間に火花が散った。
――何を隠そう、この二人は、そういう意味での宿敵同士なのである。
『りぃず……』
「姉様!」
「可愛すぎる」
リズは、一匹と一人に腕を組まれ悶絶した。
「てか君、魔物相手に嫉妬するって、心狭すぎじゃない?ライラ嬢だってそこまでじゃないのに…」
「ハア?違うよ?ただの魔物相手じゃない。コイツは……ぷよ丸は、姉様を奪うボクの宿敵なんだから」
『うん…しゅくてき』
「お前も認めてんのかよ…」
「というか、リズ様は元々誰のものでもないんだからね?」
「えー?姉様、姉様はボクのでしょー?」
『りぃずはぼくの‼」
「はうっ……し、幸せ……っ」
危うく約一名が天に召されそうになる。
しかし、ふとした疑問が降ってきたことでなんとかそれは阻止された。
「…そういえば、なんでぷよ丸は私を尾行していたの?」
『……して、ないよ…?』
「いやそれは無理があるだろ」
グレンの鋭いツッコみが入り、『うぅ…』と言ってぺちゃんと潰れる。
「何かしてほしいことでもあった?」
『……あのね…』
「うん…」
『…きけんなばしょ、つれていってほしかったの』
ピシャアアアンと、リズは雷に打たれた。
『…きょうはちがった…けどりぃず、きけんなところによくいく……だからびこうしたの…』
「……リズ、もしかして主人失格なんじゃない?」
「……………」
辛辣なアレクの言葉に、返す言葉も見つからないのか、リズは言葉を失っていた。
『……だからこれからもびこうする……』
「いやこれからもするのかよ」
「あなた、割とめげないわね……」
『しゅじんににた』
「言われてるよ」
「うっ…うぅ……っ」
クリティカルヒットを食らい続けたリズは、最早満身創痍だった。
そして、長い思考の上に出た答えを、リズは溜息とともに吐き出した。
「はぁ…わかったよ…。ぷよ丸、じゃあ、これからは、どこへでも君を連れてくよ」
『!ほんとぉ…?』
「ホント、ホント。行きたくなかったら言ってよね?」
『うん……!どこでも付いてくよぉ~』
「そっかぁどこでも付いてきてくれるかぁ~♡」
「……陥落が早いわ」
「レオ、君、負けたね」
「………負けてないし。負けてないし‼」
そうしてぷよ丸冒険隊は幕を閉じ、見事、ぷよ丸の目的は達成されたのだった。




