【閑話7】尊き集会(使用人視点)
(((((と……っ、尊い‼‼‼)))))
使用人達は、絶叫した。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
リズとグレンは、定期的に打ち合いをするようになった。そして勿論、グレン専属の従者となったイザナもそこにいて、たまにアドバイスを求められる時もある。そんな平和な空間を、レイナー公爵家使用人とデイヴィス侯爵家使用人が、温かく見守っていた。
カキンカキンと音が飛び交い、イザナの指導も飛び交う。…そんな光景もいいが、その後のまったりティータイムも、ハッキリ言ってご褒美だった。
何せ…
(((((グレン坊ちゃんにもやっと春が‼‼‼)))))
つまり、そういうことなのである。
どこかで聞いたようなセリフだが。
それからも、和やかなティータイムを背景に、使用人達の会話は続く。
(あれって完全にあれよね⁉)
(あれあれ言ってても伝わんないわよ!でもそうね、あれね!)
(先輩も言ってるじゃないですか!つまり、グレン様が惚れてるってことですよね⁉)
(ぎゃあっ!そんなに言われたら…字面だけでも破壊力が高いのに‼)
(でも、あれは完全にそうだわ……長年侯爵家に仕えてきた者としての勘が、言ってるわ‼完全にあれは真っ黒だと‼)
ギラギラとした目が二人に降り注ぐ。
(ってきゃあああああ‼‼‼)
(ユレナ⁉どうしたの⁉⁉)
(みみみっ……見て下さい!あの尊き光景を…‼)
(ん…?あの尊き光景…?って――)
(((((ぎゃああああああああああああああああ‼‼‼)))))
(ああああああっ、あれは…伝説に聞く『あーん』⁉)
(えっ⁉これってセーフなんですか⁉アウトなんじゃないですか⁉)
(わわわわわからないわ……でも、ギリギリセーフ…?)
(いえ!グレン様の真っ赤なお顔を見るにあれはアウトです‼)
(エリザベス様早く気付いてー‼‼)
(大変…!多分『子供のうちに色々やっとかないとね♪』とか思われているわ‼)
(それでは子供のうちに被害者が量産されてしまいます‼)
(ハニトラ説はないですか⁉)
(あの方が⁉うーんそれはそれで嬉しいわ‼形はどうあれ両想い‼)
(くっ…真意を読みかねます…!これほど鍛えた私の審美眼が、まさか通用しないとは…‼)
使用人達はそう言いつつも、内心ご褒美スチルに狂喜乱舞していた。
(……ハァッ⁉)
その時、一人の使用人が別方向を見て、固まった。
(ユレナ…?一体どうし…)
そして、その一人の使用人に先導された者がその方向を見て、また固まる。次も、その次も、どんどんと罠にかかっていく。それはまるで、メデューサを見た者のように――。
そして遂に、最後の一人がそちらを向いた。その使用人の瞳に映ったのは……穏やかな慈愛の微笑みで二人を見つめる、イザナの横顔だった。
(へぶぅっ‼‼)
見事ノックダウンされた残り一人は、他全員と同じようにぼうっと固まりつつ見惚れていた。実はイザナは、使用人人気がとても高かった。顔が整っていることもそうだが、気配りと優しさが女性にドストライクだったのだ。たまに出る毒舌も、沼にハマる第一歩…。
件の事件で少し信用は落としたものの、その絶大な人気は不変だった。
(はあ……ッ!あのイザナ様が…あんなに穏やかな表情で……‼)
だが、全員が見惚れた笑みは、そう簡単に見られるものではなかった。というか、今まで誰一人として見たことがないようなものだった。現役時代だったときも含めて。
(あれはきっと……”師匠の笑み”ね!)
(”師匠の笑み”……⁉)
(ええ。イザナ様は今回の事件を通して、とても尊い成長をされた……。そして、グレン様という弟子を得て、見守り、成長を見届けること、即ち”慈愛”の心を手に入れられたの。そうしてその素晴らしい内面が外側にもれ出てしまったのだわ……)
(くっなんてことッ)
(最早、尊さという名の凶器‼)
使用人達は人知れずざわめいた。
その時、男性使用人がポツリと言った。
「…イザナ様…可愛いです…!」
((((((((((⁉))))))))))
「いつか立派になって…プロポーズしてみせます……‼」
その後、グレン様応援隊と、その男性使用人、ジェノバ応援隊が結成されたのだった。




