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異世界エンジョイ勢は無自覚逆ハーレムを築く  作者: ごん
リズと兄貴肌・騎士団長子息
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63.勝利の祭と後日譚


「ってことで!グレンの勝利に、カンパーイッ!」

「カンパーイ!……じゃ、ないんだけど……?」


 私の目の前には、アレクとグレンがいた。アレクはパーティの最中だというのにむっとしたままだし、グレンに至っては居心地が悪そうにしている。



「折角のパーティなんだから、楽しまなきゃ損だよ?」

「あのねぇ……。僕、ひとっつも相談されなかったんだけど……?」



 めらめらと背後に怒りの炎が見えるアレク。



「…そもそも、僕にも教えるのが筋でしょ。ずっと僕は相談乗ってたし、……心配だって…。そこんところ、どうなってるの」



 怒りを押し殺したような声に、ビクッとグレンが震えた。



「あー……まあ、なんつーか、その、成り行き?っつーか……」

「成り行き?どんな成り行きならそうなるわけ?」

「いやぁ……ほら、師匠を倒すぞってなってから、勝負のことしか頭になくてだな……」

「……つまり、僕のことは頭からすっぽり抜け落ちてた、と…」



 リアルに気温が下がり、私とグレンは同時に身震いをした。アレクの迫力におされたのか、それとも室温のせいなのかはわからなかった。



「ま、まあまあ。アレクの好きな甘いものもたっくさんあるわけだし……」

「リズも……君なら少し冷静にものを考えられると思ったんだけど……どうやら違ったみたいだね」


「が、がーん……っあ、アレ君に失望された………っ」

「おーい、リズー?大丈夫かー?」


「君は自分の心配した方がいいんじゃない…?」

「おわっ⁉ちょ、まさか室内で魔法使う気じゃねぇだろうな⁉」


「大丈夫。グレンが全部斬れば被害はないから」

「ちょっ、アレ君ストーップ‼ダメ!ここ、私の家‼」



 …パーティらしく(?)、わちゃわちゃごちゃごちゃとする私達。



「全部吐いて。一から十まで余すことなく」

「手を翳しながら言うんじゃねぇ!知ってるか?それ世間一般的には脅しって言うんだぞ⁉」

「いいから早く」



 冷たい双眸に捉えられ、グレンはこれまでのことを話し始める。どれも知っている話だったこともあり、それを右から左に聞き流しつつ、私は呑気にデザートを食べまくる。しかし、「リズ」と唐突に呼びかけられた。



「へ?何?」



 慌ててそう聞く私に、二人の呆れたような視線が突き刺さる。

 しかし、グレンはぐしゃぐしゃと頭を掻いて、こう言った。



「……あのなぁ…。だから、…ありがとうな、って言ったんだよ」



 少し照れた様子のグレンを、一転して上機嫌になったアレクが面白がって揶揄っている。



「あれ?顔が赤いような気がするけど……」

「うっせぇわ!ほっとけ」



 またわちゃわちゃしだす二人を前に、私も「どういたしまして」と震える声でなんとか返した。まずい、笑いが止まらなさ過ぎてお腹が痛い…。



「…あ、あと言い忘れてたんだけどさ」

「ん?うん」



 そう言ってから、グレンは珍しくふっと笑った。



「これからも、ライバルだからな、俺達は」



 特別なことを当たり前にしたいという、確かな信頼が伝わる言葉に、一瞬呆ける。けれどすぐに持ち直し、強気な笑みをニッと浮かべた。



「言われなくても、そのつもり」

「……ねぇ。やっぱり君達、僕をハブって遊んでるの?」



 そんなやり取りを見て嫉妬したアレクに、また二人でそう言いがかりをつけられた。

 ちなみにこの後、二人で仲良くアレクのご機嫌取りをした。



 ♦ ♦ ♦ ♦ ♦



「……ところで、あの後イザナさんはどうなったの?」



 騒がしいのが一段落し、ふうっと息を吐いていた時、ふと気になっていたことを尋ねる。すると、アレクも気になっていたのか聞く姿勢を見せた。そんな私達の視線を受けたグレンは、困ったように、しかしどこか少し嬉しそうに話し始めた。



 ♦ ♦ ♦ ♦ ♦



 勝負を終えた俺は、あまりの疲労感に、珍しくベッドに横たわっていた。

 そして次目覚めた時には、父上と師匠の顔が近くにあった。



「え……?師匠⁉どうしてここに…?」



 しかし、俺の疑問は師匠にも答えられないようで、師匠は父上に話を促した。



「ほら、ご覧なさい。グレン様も驚いていらっしゃるじゃありませんか。なぜ私はまだここにいるんです?」

「死ぬまで馬車馬のように永久就職したいと聞こえたからだ」

「……あれ?私の毒舌、移りました?」

「話を逸らすな」

「……と、いうことで、大変恐縮なのですが、私、グレン様の従者になったらしいです。はは、全く、グレン様信者の方々の視線が痛くて敵いません」



 飄々とした様子で語られた内容は、衝撃的だった。「し、師匠が俺の従者ぁ⁉」と俺が裏返った声を発するが、その間にも二人はやり取りを続けていく。



「それも罰のうちだ、甘んじて受け入れろ」

「え~?ですが、な~んかご都合主義感満載ですよね?そう思いません?グレン様」



(え?は?ちょ、ちょっと待ってくれ……つまり、父上は――、自主退職した師匠を、従者として呼び戻したってことだよな?しかも、変な言質の取り方で……)


 ゴチャゴチャする脳内を整理すると、やっと状況が掴めた。


(…ってことは、これからも師匠と一緒に居られる…?)


 師匠が『遠くから見守る』と言った時、複雑な心境だったが、師匠に託された以上やるしかないという気持ちと同じくらい、実は寂しかったのだ。引き止めたいと思ったけれど、師匠の決意は固そうで……。

 そこまで考えると、自然と次に言いたい言葉が固まってきた。


 俺は微かに俯いて、しかし決意を滲ませた声で、こう言った。



「…いや。寧ろ師匠にはずっと…いてもらいたかったんだ」



 父上と師匠は、二人そろって目を丸くした。その後どんな言葉が返ってくるかわからなかったが……、少なくとも、これが今できる、俺の精一杯の歓迎だった。

 …しかし、俺の心配は、どうやら杞憂だったようだ。

 いつも通り、イザナは俺を揶揄う。



「…どうしましょうか団長。今私は告白されてしまったような気が」

「いいからお前は黙ってろ。……それで、グレン。本当に良いんだな?」

「はい。告白ではありませんが」

「ああ。告白ではないんだよな」

「うわあ、思いっきり強調されました…」



 そうして三人で笑い合う。夢のような光景が、目の前にあった。



 ♦ ♦ ♦ ♦ ♦



「……って感じで」

「ふーーーーーーーーーん……?つまりあの元副団長とも和解した、と」

「………そうなる…な……」



 しばらくジト目になっていたアレクだが、はあ……と溜息を吐くと、ふっと笑った。



「リズもグレンも、これから何かに巻き込まれる時はそう言って」



 そんな無理難題に笑いつつ、私達のパーティは和やかに過ぎていった。

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