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異世界エンジョイ勢は無自覚逆ハーレムを築く  作者: ごん
リズと兄貴肌・騎士団長子息
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57.父と息子と剣と友


「……それで」



 仕切り直した感を出しているリズが、恥ずかしさを振り払うように切り出した。



「ズバリ聞くけど、イザナさんと何かあったの?」



 俺の噂を広めたのが、ほぼ確実にイザナだと確信しているような口ぶりだった。そんなリズに、俺は「あー」と頭を掻いた。歯切れ悪くゴニョゴニョと言って抵抗してみるが、全く諦めるつもりがないリズの視線を受けて、深い溜息を吐き出した後、観念したように話し出した。



「いやそれが、俺にもよくわかんねぇんだよ」

「わからない?」

「ああ。物心ついたときからずっと…いや、ほぼ出会ったときからだからな…」

「……騎士団長の関心をグレンに奪われたからとか?」

「ねぇだろ。…多分」



 自信がなくなり言葉尻が萎む。



「うーん…。イザナさんとは普段、どんな感じなの?」



 シュッとどこからかメモ帳とペンを取り出したリズ。調査する気満々な視線に、困り顔になる。



「あー……普通だよ。先生と生徒の関係って言えばわかりやすいか?」

「ウソ発見器が反応してます」

「…俺、そんなにわかりやすい?」

「わかりやすい」



 リズは、ジトーっとした目で見てくる。本気で答えなければ一生拘束されそうだ。そんな気配を感じて、気が進まないながらもポツリポツリと話し始めた。



「…まあ、あまりいい関係ではねぇかな」

「具体的には?」

「……あー…」



 無意識にスッと右腕を後ろにやる。が、自分でも気づいていなかったそれを、リズは目敏く見逃さなかった。瞬く間にガシッと手首を掴まれる。



「う…っ」



 俺が呻くと、リズは探るような表情から一転し、心配を色濃く浮かべた顔になった。



「‼ご…っ、ごめん‼大丈夫⁉」

「あ…、ああ。大丈夫だ」

「見せて」



 俺は、されるがままに袖を捲られる。すると、赤、青、紫など、カラフルで痛々しい痣が散った腕が現れた。



「え……」



 リズは、こんなことになっていると思わなかったのだろう、ぱっちりと目を見開いていた。目が肌に遮られることなく全て見えて、本当に宝石みたいだなとふと思う。しかし、そんな風に関係ないことを考えられる時間も、すぐに切られた。



「…これ…アイツがやったの?ねえ?」



 目の前に、目をかっ開いたままの無表情な顔面があった。ヒッという声がもれて出る。そして、無表情な表情も怖かったのに、その真反対であるはずの笑顔を浮かべられた瞬間、それよりも強い悪寒がした。



「私、ブラコンだけど、それと同じくらい友達のことも好きなんだよ?」

「いきなり何の話だよ…」

「だから、今からそのイザナって野郎をぶっ潰しに行こうっていう話。さ、行くよグレン」

「待て…、待て待て待て待て!おい待ってくれリズ‼話を聞け‼」



 スタスタスタスタと一瞬のうちに1mくらい先に行ったリズを、慌てて捕まえる。



「もー、何で?粛清一択でしょ?」

「お前は0か100しかないのかよ⁉てかそれぐらいで粛清って罪重いんだよ‼」

「え?貴族に手ぇ上げたんだし合法的に殺れるよ?」

「いや殺らねぇよ!てかそれぐらいで殺ってたまるか‼」



 俺は、はあー…と頭を抱えた。



「いいからちょっと冷静になれ…」



 リズをくるりとUターンさせ、両肩を押して大樹の下へ戻らせる。


 リズは不満顔だったが、一応は矛を収めてくれたらしく、「…まあ、私だけがどうこう言ってもしょうがないしね。じゃあせめて、もっと聞き取り調査をさせてもらおうかな」と言って、大人しく大樹の根本に座り直した。俺もその隣に腰を下ろす。



「それで…。グレン、もしかして、稽古のときにそれやられてるの?アイツ、剣の教育係だから」

「まあな」

「いつから?」

「それこそ覚えてねぇよ。多分、教育係につけられた時からだったんじゃねぇ?」

「そっか……。でも、おかしいよね。アイツ、今は腐ってても、元は評判の人格者だったんでしょ?」

「あー、それは俺も思って調べてみたんだけどさ。どうやら、騎士を引退したことが関係してるらしいぜ。ほら、利き腕を失ってるだろ?」



 そう、イザナは利き腕を失っている。正確には、左腕を。だから剣の指南をするときも、いつも木刀を右手で持っている。



「だとすると、グレンは妬まれてる可能性が高いのか……。それにしても、自分の親友の子にこんなことする…?本当に信じられない…‼」

「まあまあ。それに、弱肉強食なんだし、しょうがない部分はあるんだよ。だって俺、先生に勝てたこと、これまで一度もねぇんだからな」

「グレンが、一度も?それは……」



 リズが視線を彷徨わせる。しかし諦めたのか、がっくりと肩を落としながら「…それは、相当な実力者だね、アイツ」と言った。



「でも、グレンのお父様のデイヴィス侯爵は、今も人格者で有名でしょ。デイヴィス侯爵に相談すれば、簡単に解決したんじゃない?」

「それでもな。やっぱり、父上にとって先生は、何物にも代えられない戦友であり親友なんだ。今までだって、ずっと変わらず仲が良いしな」

「じゃあ、グレンはデイヴィス侯爵に遠慮してるんだ?」

「…そうなるのかも…な」



 本当は、それだけじゃない。それだけなら、俺だってもうとっくに相談して、もしかすると先生は解雇になっていたかもしれない。……だが俺は、父上にだけは相談できなかった。


 だって、そうじゃないか?

 俺が先生に勝てないから父上に言いつけた、なんて…。

 まるで心まで負け犬になったようで、格好悪くて、もっと惨めになるような、そんな気がしたんだ。


 そんな俺に、リズはむっとして、『何で』というような顔をしている。こういう時、彼女ならズバズバ言ってしまうのだろうし、それが一層彼女を悔しがらせているのかもしれない。



「でも、それだけじゃないんだ」

「それだけじゃ…ない?」

「あの人は、確かに強いんだ」



 俺が改めてそう言うと、「それは、弱肉強食って話でしょ?」とリズは眉を下げる。しかし俺は、首を横に振った。



「俺を…、俺を、一番鍛えてくれる先生でもあるんだよ。…もちろん、全部納得してるわけじゃねぇし、俺だって、理不尽とか痛いのとかは嫌だけどさ」



 リズはちょっと目を見開き、微かに目を伏せた。



「……でも結局邪魔されてるんじゃ、鍛えてくれても…」

「だとしても、俺には必要なんだ、あの人が。俺の夢は、父上を超えることだからな」



 にかっと笑ってみせるが、それでもリズから不安の色は消えなかった。

 しかし、もう一押しだと思い、俺は更に畳みかける。



「俺は絶対に、父上を超えなきゃいけないんだ。それが、俺自身のためだけじゃなく、俺に期待してるたくさんの人のためにもなる」

「……期待、ね…」



 リズは、小声でそう呟く。そして、「…ああ、そうだ、これも聞いておきたかったんだけど」と前置いた。そして、俺を貫くような視線で捉えた。



「期待に押し潰されそうって聞いたんだけど、それってホント?」

「……」



 頭には、悪戯が成功したような顔で微笑む、銀髪の青年が浮かんでいた。


(絶対言ったのアイツだろ…)


 更に面倒なことになった、とバレないように息を吐いた。

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