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異世界エンジョイ勢は無自覚逆ハーレムを築く  作者: ごん
ブラコンの実力育成期
6/69

06.義弟レオナード・レイナー

 

 そうして始まった『お屋敷冒険隊』は、順調に屋敷内をまわっていった。


「ここはキッチン!いつも華麗にほっぺたを無くすくらいの美味しい料理を作るぞ!」

「ここは食堂!私達用と仕様人用で分かれていてちょっと寂しい‼」


「ここは両親の部屋!二人の時間を奪って射殺されないよう近寄らないのが吉!」

「ここは私の部屋!レオならいつでも大歓迎‼ちなみにレオの部屋は私の隣にあるぞ!」


「ここは使用人休憩室と使用人の部屋があるぞ!彼らの休息の地だから、行くときはちゃんと彼らに配慮してからにしような!」


「ここは礼拝室!防音魔法がかけられてるから叫びたいときに来るといいぞ‼」

「ここは執務室!必ずノックをしてから入らないと痛い目見る場所だ!」


「ここは庭園!庭師が神業でいつ来てもいいようにしてるからかとにかく凄い‼」

「ここはガゼボ!ティータイムに使うんだぞ!」



「以上!」



 一通りレオに案内し終わると、にかっと令嬢のれの字もない笑顔を浮かべた。



「個性的…だったけど、すっごく楽しかった!ありがと、リズ姉様‼」



 戸惑い気味ではあるが、レオの緊張はすっかり解れたようだった。

 私の努力が実を結んだようで何より。そして、相も変わらず眼福である…。



「…レオ。もう今日は疲れたでしょ?夕食まで部屋で休んで」



 自分の部屋の前に着いた私がそう言うと、レオが捨てられた子犬のような目でこちらを見てくる。

 うるうると潤んだ瞳は庇護欲を否応なく掻き立てる。これぞ弟キャラの悪魔的可愛さ!と心の中で称賛の嵐を巻き起こしていると…。



「……リズ姉様。少しだけ、話したいことがあって…」

「ん?…ここじゃ聞けないようなら、私の部屋においで」

「えっ?で、でも……。その、リズ姉様と僕は、姉弟とはいえ、異性…だし…」



 尻すぼみに小さくなっていく声を聴き、私は柔らかく微笑んだ。



「大丈夫!考えてもみなって。私は九歳でレオは八歳。それに、リリーやラピス、アンナ達にも同席してもらうから。大好きな弟に不名誉な噂は流させないよ」

「ありがたいけど、不名誉じゃないよ」



 ぷくっと頬を膨らます弟の姿が可愛過ぎる。今ならこの姿をカメラに収めるため四次元ポケットでも出せるんじゃないだろうかと思ったが、当然の如く無理だった。


(これはアレだな…可愛い弟の姿を保存するために、早急に魔法を極める必要があるな)



「姉様?」

「ん?あ、何でもないよ。弟が可愛いと思ってただけ」

「……僕を口説いても、何も出ないよ?」

「え~?出るよ?弟の可愛い膨れっ面が」

「もう、姉様‼」

「あははっ。冗談、冗談だってば~っ‼」



 ぽかぽかと全然痛くない拳で私を叩き抗議する弟に、私は堪えきれず普通に笑った。眉をハの字にして、目からは笑い涙が出て。親友とやったようなやり取りが久しぶりに(といっても半日程度だが)出来たからか、凄く嬉しい。



「はーぁ。んじゃ、おいで」

「むぅ……」



 まだご機嫌斜めな弟と侍女三人を連れ、部屋の中に入る。そういえば部屋改善計画を忘れていた、と思い出したが、それよりも弟だ。レオが話したいこととは、一体何だろう。



「…あの」



 しばらくしてから、俯き加減でレオが切り出す。



「僕、…お義父様とお義母様に、あまり受け入れられていない気がして…」


(?ああ、なんだ、そんなことか)


 レオが悩んでいることに対し——というか人が真剣に悩んでいることに対し——そう思うものではないと思うが、あの二人は誰に対しても平常運転だ。レオが特別拒否されているとか、そういうのでは全く無い。



「……それに、その」

「…⁉え、ちょっ、レオ——」

「………ここ…、何か、少し…怖くて…」



 レオが、可愛い義弟が、泣いた。

 レオの年齢で泣くことは普通だ。まだ子供なのだから。それに、どんなに気丈に振る舞っていても、生家から連れて来られたばかり。


 加えて、うちはなんともまあどこもかしこも冷めきっている。両親はお互いに夢中でまわりを見ないし、使用人はそれに怯える。そんな家庭にいきなり連れて来られたのだから、レオが怖がるかもしれないと分かっていたはず…、なのに。



「……、…」

「流石に失礼だとは…分かってる、けど……視線が…怖くて…」

「………」

「…ごめんなさい…、あの、リズ…姉様……?」



 黙りこくっている私に異変を感じたのか、震える声で名前を呼ぶレオ。そんなレオを、私は、ぎゅ…っと抱き締めた。



「⁉⁉⁉」

「……そうだよね。ごめん、気付かなくて。怖かったよね…辛かったよね…」



 私は静かに、右手でレオの背中を摩る。



「……レオ。本当はうちに来るの、嫌だった?」

「え……っ?」

「うちに来たときのレオ、凄い顔してたよ。とにかく不安そうで…。…ううん、私が今言うべきなのはそれじゃないか。……レオは不本意だったかもしれないけど、私はレオが来てくれて良かったって心から思ってるよ。本当に」



 静かな優しい声が、レオの心にじんと沁みるような温かさを持っていればいいと、そう思いながら続ける。



「レオが望むなら、この屋敷を平和にしてあげる。何でもしてあげるよ。話を聞いて欲しいなら聞いてあげるし、頭を撫でて欲しいなら撫でてあげる」



 ひたすらに甘やかすような言葉を吐く私に、弟はぎゅっと抱き返してくる。



「……なんで…弟になったばかりの僕に、そんなにしてくれるの?」



 当たり前の疑問だと思う。私は忠義を尽くす騎士タイプでもなければ、ラノベの溺愛系ヒーローでもない。



「なったばかりでも、レオは私の()だから。今日も、明日も、ずっとね」

「…じゃあ、リズ姉様は、僕が弟にならなかったら…こんな風に……」



 『してくれなかったの?』——か。

 ここの最適解は、言わずもがな「レオが弟じゃなくても愛してたよ」とかそんな感じのあたたかい言葉をかけること。でも、愛する弟の前で、そんな無粋な()は吐けない。



「…うん」

「……ぇ」

「レオが弟じゃなかったら、こんな風に抱き締められなかった。頭も撫でられなかったし、こんなに愛でられなかったよ」

「…それって、どういう」

「ねえ、レオ。もし、人生を何回も繰り返すことが出来ても、同じ人生を繰り返すことは出来るのかな?」

「……出来るんじゃないの…?」


「私ね、出来ないと思うの。人と人の関係って、それだけ繊細なものだと思うから。出会い方が違えば、関係性も違ってくると思うんだ。だから、もしもレオが弟としてここに来てくれなかったら…、もしも、ここにレオが『伯爵家次男』として来ていたら…。友達とか親友になれたかもしれないけど、今と全く同じ感情をレオに向けていないと思う。レオと恋人になる未来もあったかもしれないし、赤の他人で終わったかもしれないし。複雑な……決して繰り返せない選択が積み重なったものが人生だから……」


(…だからわざわざ、自分が『悪役』になりそうだからって行動しても、全く違う方向にいく可能性もあるし…柔軟に、予測不能に変わっていく自分の未来を避けようったって、なるようにしかならないと思うんだけどねぇ…)


 心の中で言葉を引き継ぐと、苦い笑みを浮かべる。それが紛れもない私の本心だ。

 だから、『人生はどんなことがあるかわからないから楽しい』なんて言葉が生まれる。

 人生や未来なんてものは、操ろうとするだけ無駄なのだ。


 ただ、死にたくないと思う気持ちは分かるし、そんな未来を避けたいと思うのだって普通のことで。何も悪いことじゃない。

 破滅フラグ回避のために奔走するヒロインは一生懸命で可愛いから好きだし。

 頑張りを否定する訳じゃなく、ただ単に、そういう考えなだけ。



「…姉様」



 呆然と呟く弟の声に、ハッと我に返る。

 ヤバい、私らしくなく、ついつい本気モードで長話をしてしまった。面白味の欠片もない。



「ってことだから。でも、レオと出会っていれば、最低限でも友達にはなっていたと思うよ。これはホント。ふふ、何ならレオが私を口説いてる世界線とかあったりするかな~?」

「…あるよ、きっと。姉様と…僕なら」



 少し恥ずかしそうに、でもどこか嬉しそうにレオがそう言う。

 スッキリした顔をしているレオを見て、私自身も安心出来た。

 レオの方も、話したいことは全て話せただろう。

 じゃ、そろそろ部屋に帰すか……というところまで考えたところで、ふと気付く。


(…あれ?よくよく考えたら、これって根本的な解決になってなくね?)


 私は、話が脱線する前の、遠い遠い記憶を探る。


『僕、…お義父様とお義母様に、あまり好意的に受け入れられていない気がして…』

『………ここ…、何か、少し…怖くて…』


(やっぱり‼何少しの精神的なフォローだけして終わろうとしてんだ私のバカたれ‼)


 レオが怖がっている要因は家庭環境にある。

 父と母の不仲説と使用人達との距離感、といったところだろうか。


(……よし!ここは、レオに気付かれずに動こう。そうだな…題して、『家庭改善大作戦』‼……うーん。とにかくネーミングセンスが終わってるのだけは分かっちゃうんだなぁこれが)


「…リズ姉様?何か良からぬことを考えてない?」

「ゑ」



 …何故か弟のオカン度が急速にアップしてきて怖いこの頃です。 

 ちなみに、この後吐かされそうになりましたがほっぺにチューで許してくれました。

 日本人の感覚としては赤面一直線だったけどね‼(※しっかり笑われました)

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