53.戦友の隣で飾るラスト
二人同時に木の影から飛び出した。
酸の霧という大技を使い、疲弊しているであろう奴に、狙いを定める。
反対方向に走り出し、半分まで走ったところで、逆の位置から接近した。
「【修羅ノ舞】」
「《永久凍結》」
反対側からは赤の【剣技】が、そしてこちらからは青の《魔法》が、一瞬強烈な輝きを放つ。
酸の弾と尾がそれぞれに迫り、一度すっと引く。
しかし位置を交換するとまたすぐに仕掛けた。
「【炎天】!」
「《猛毒生成》ッ」
「【紅蓮戟】‼」
「《神の雷撃》‼‼」
強力な剣技と魔法を連発する。
休む隙もないため、アシッド・サーペントはずっとされるがままだ。
体中の魔力が、がぶがぶ飲み干されるようになくなっていく。そろそろ仕上げに、と思っていた時、バチッとグレンと目が合った。そして、無言のまま頷き合う。すると、グレンが囮になるような立ち回りに変えた。どうやら、トドメを譲ってくれるらしい。
ふっと微笑みながら、たっぷりと時間を食う魔法を詠唱してやった。
「――【複合魔法発動】迸雷の水塊‼‼‼」
奴目掛けて、水魔法と雷魔法の複合技、上級魔法にも匹敵する魔法が届くと、ビリビリビリビリッ‼と痺れで痙攣したあと、アシッド・サーペントは、少しふらついてから、ばたーんっと倒れた。黒焦げになりながら。
そして、しんと降ってきた静寂と、静かに煌々と佇む月が、ようやく終わったことを伝えてくれた。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
「グレン‼」
「リズ!やったなっ」
「…ってか、最後のアレどういうことだったの?譲ってくれなくてもよかったのに…せっかくのトドメをさせるチャンスを……」
「いやまあ…。結果的に倒したんだからいいだろ?……というか、リズの口調……なんか変わってないか…⁉」
「え?今更?」
「うるせぇわ!こちとら命のやり取りで手一杯だったんだからな⁉」
「それは私も同じです~」
最初よりもずっとワチャワチャとしたやり取りに、あるはずの疲労が吹っ飛んでいく。私も、そして私の友達も無事で、本当に良かったと思った。
「…あ!見てグレン、やっと救助隊が駆け付けたみたいだよ」
私は、暗い中に灯る転々とした明かりに目を向ける。
しかしそれを見た瞬間、グレンはげっという表情になった。
「……あー、悪い。俺、先に戻ってるよ」
「えっ?なんで?」
「あんまり見つかりたくねぇ奴がいるんだよ、運営に。そういうことで、俺は行くから」
「…いや、ちょっと待って。なら私も行く」
素早く走り去ろうとしたグレンの服の袖を掴み、断固とした口調でそう言った。
「はあ?何でだよ。あっちに同行した方が安全だろ?俺を気遣ってくれるのはありがたいけどな…」
「そうじゃなくて。私だけの手柄ですーって言うのも後味悪い。だから付いてく。以上!よしならさっさと行くよグレン!」
ずんずんと歩き出す私に、グレンも引っ張られるような形で付いてくる。
それからしばらく、無言で歩き続けた。
しかし、ふとした様子でグレンがまた喋り出す。
「いやあ、今日は本当、大変な目に遭ったな」
「でも、私は結構楽しかったよ?」
「それは同感。でも、いくら戦闘が楽しいとはいえ、自分の肌が溶けだしたときは流石にもうダメかと思った」
「ふふっ。私の回復に感謝しなさい」
夜の森の中なので完全に気は抜けないが、それでも、安堵の空気が漂っていた。しかも、戦友として一緒に奴を倒したからか、グレンの隣はとても居心地が良いように感じられた。
そうして私達はひっそりとその場を去り、会場へしれっとした顔で混ざり込んだのだった。ちなみに、バレていたレオとアレクにはお説教をたっぷりと受け、途中から合流した(なんでも私を追いかけてきてくれたのだとか)というライラには涙目でぷんすかされてしまったのだった。




