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異世界エンジョイ勢は無自覚逆ハーレムを築く  作者: ごん
リズと兄貴肌・騎士団長子息
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49.勝負開始のゴングが鳴った


 試合開始のゴングが鳴り響いた途端、私は右に、そしてグレン様は左に駆け出した。



 ♦ ♦ ♦ ♦ ♦



(ミラの森とも、他の森とも違う、独特な雰囲気……。それに何より…)



「…魔物が、段違いに…っ、多いっ‼」



 ナイフで、ジャイアント・イーグル(ランクB)の片翼を落とし、仕上げに首を搔っ切る。すると、ジャイアント・イーグルは墜落し、私のアイテム・ボックスにすっぽりと収まった。



「…うーん、奥はこっちで合ってるよね?」



 キョロキョロと周りを見回す。

 この森、アビラドル大森林は、奥へ行けば行くだけ強い魔物と遭遇できるようになっている。この森が狩猟大会の会場なのも、それが理由の一つだったりする。

 私が目指すのは、AからSランク相当の魔物が出没するエリアだ。だから、もう少しだけ奥に行く必要がある。


 特に声も発さず、淡々と襲ってくる魔物を返り討ちにしていく。

 キラー・ラビット(ランクC)やワイバーン(ランクB)、ファイア・ボア(ランクB)など、突進してきた奴は、歩調を何ら変えることなく、腕の動きだけで仕留めていった。



「…ここらへんから、ランクAの魔物が出るって聞いたんだけど…」



 目印となる特徴的な大岩を見つけて唸る。

 しかしすぐに、お目当ての魔物は見つかった。

 …ユニコーン(ランクA)だ。

 

 にやりと口角を上げると、突進攻撃を後ろに飛びのき軽々躱す。

 ユニコーンは再び浮かび上がった。

 そして、腹が立ったのか、雷の矢を撃ってきた。

 全方向から、私を囲むように。そして、ご丁寧に追跡機能までつけて。


 …だが、私は暗殺者系。



「悪いけど、ピンポイントに標的を仕留めるのには長けてるの」



 全ての雷の矢をすれすれで避け続ける。

 そして、道筋が見えた瞬間、超高速で距離を詰めて、背後に回り、立ち止まる。

 それからナイフを投擲した。



「ぎゅあああぁぁあああっ‼」



 頭、首、そして心臓。

 急所を確実に射抜いたナイフは、ユニコーンのパニックを引き起こす。

 それでも尚暴れまくるユニコーンに、格好よくパチンと指を鳴らした。

 その途端、ナイフの仕掛けが発動し、ユニコーンの身体を強烈な電撃が襲った。



「いぎゅあああああああぁぁ…あ…あ………」



 すっかり大人しくなったユニコーンを、アイテム・ボックスでキャッチする。

 そうしてから、「…よし。もっと奥を目指さなきゃ」と呟いて、私は再び歩き出した。



 ♦ ♦ ♦ ♦ ♦



「…ここら辺がランクA…。だとするともう少し行けばSに入るな」



 グリフォン(ランクA)の胸を貫くと、剣を引き抜きアイテム・ボックスに素早く入れる。

 しかし、程なくしてフェンリル(ランクS)が出てきた。フェンリルは、御伽噺の中の存在のような幻の魔物。だが、どんな魔物も発生しやすいこのアビラドル大森林では、そんなことお構いなしにスポーンする。

 フェンリルはフェンリルでも、本当ならランクS以上の大物。だが、アビラドル大森林の個体は、同じ種族の中でも弱くなる傾向があるらしい。だからか、ここのフェンリルはランクSの扱いをされている。



「まあといっても、お前が強いのには変わりなさそうだけどな」



 今の俺だと、少しギリギリの戦いになりそうだ。

 しかし、このフェンリルを倒せれば、勝負に勝てる確率もぐっと上がる。



「…じゃあ、行くぜ」



 いつものように少しだけ躊躇ってから、風を切るように走り出す。

 そして、すぐに懐に潜り込み、腹の辺りを掻っ捌く。

 グオオオオン‼‼とフェンリルが叫び、暴れようとするが、全ての足の腱を切る。

 再生するより早く、いくらか皮が柔らかい首に剣を突き刺した。


 俺のスタイルは先手必勝。れっきとした剣士で、魔法がサッパリだからこそ、素早く迅速に、剣で相手の攻撃を砕いたあと、その勢いのまま技で押し続ける戦法を取っている。


 そして今も。

 再び暴れ出し、魔法を乱発しようとして複数の魔法陣が展開される。

 しかしそれより早く、フィジカルの強さを生かして頭頂部に上り詰める。そして両目を容赦なく潰す。その後は、致命傷になりうる首と頭を、高速で深く切り刻んだ。


 ……やがてフェンリルが大人しくなると、急に力が抜けたように、その巨体が地面に倒れた。フェンリルを蹴った反動で飛びのき、無事に着地をした俺は、静かに騎士の礼をとった後、アイテム・ボックスに収納した。



 ♦ ♦ ♦ ♦ ♦



 狩猟大会が後半に差し掛かり、大分日も落ちてきた頃。



「…そろそろ帰ろうかな」



 私は、少し冷たくなった指を息で温めた。

 私が今いる地点は、ほぼ最奥。引き返すのにもそれなりの時間がかかるし、このくらいの時間に引き返すのが妥当だ。


(グレン様、どのくらい狩ったのかな?楽しみだな~)


 まだ軽いが、疲労のせいで朝よりかは重くなっている足取りで、目的地まで駆けて行く。

 その時だった。



 ――ドーンッ‼‼‼



「な……、何⁉」



 カラスのような黒い鳥が、その衝撃に驚いて大群になって飛び去って行く。

 嫌でも、あそこに何かがいる、と感じさせた。

 その瞬間、勝負相手の顔が脳裏に浮かぶ。


 普通なら逃げてもいい事態なのに、私の足は、自然とそこへ向かっていた。



 ♦ ♦ ♦ ♦ ♦



 息を弾ませながら向かった先には、巨大な蛇と、それに捕まり藻掻いている人間がいた。巨大な蛇――”アシッド・サーペント”は、自らの尾でぎりぎりとその人間を縛り、鋭い牙と、蛇特有の舌をちろりと覗かせながら、大きな口を開けている。

 まさに、食べられる寸前…。



「…しょうがないかッ」



 そう独り言ちて、走り出す。



「…〈〈身体強化(アビリティ・アップ)〉〉、〈〈隠密(ステルス)〉〉」



 速度が上がる。気配もすっと消えたのがわかる。

 そしてその勢いを一瞬も殺すことなく、ビュンビュンと風を切って迫り…、雷を纏わせたナイフで切り裂いた。ザシュッといい音がすると、アシッド・サーペントは人を離した。

 が、負わせた傷も浅く、尾だというのに切断できていない。

 しまったと思った時には、私の目の前に尾が迫って来ていた。


(叩きつけられる‼)


 わずかに目を開いたまま迫ってくるのを眺めていた。意識せずとも息が止まる。

 ……しかし次の瞬間には、半分ほどまで肉を切り裂かれた尾があった。

 私は思わず、少しだけ目を見開いた。その顔を見た途端、安心に似たような気持ちが湧いた。



「…ははっ。二人してコイツのヒーローになっちまったな」



 …そうして、明るく笑うグレン様と、何時間かぶりの邂逅を果たした。

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