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異世界エンジョイ勢は無自覚逆ハーレムを築く  作者: ごん
ブラコンの実力育成期
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05.伯爵令息レオナード・クレイトン


 どこもかしこも豪華な調度品が溢れ、美しいシャンデリアがそれらを照らしている。エントランスに通された私は、今から入って来るという義弟の存在に、胸を躍らせていた。


 一応こーらぶの悪役令嬢である私の義弟となる子……、つまり、私が救えたらいいなと思っている子がやってくる。 


 乙女ゲームの悪役令嬢の義弟ポジションに収まっているのだから、彼にも何か重い過去があり、そして新しく入った屋敷で私に虐め倒され……というシナリオが一般的だと思うのだが、果たしてどうなのか。


 後者だけの場合ならすぐ解決出来るのだけど、生憎乙女ゲームをプレイする前に死んでしまったから全く分からないのだ。分かるとしたら、攻略対象の性格だけ。それも超アバウトな。


(よしっ!絶対良いお姉ちゃんになって懐かれてやる!そして、可愛い可愛い弟を愛でるのだ‼)


 未来の夢により一層闘志を漲らせる私は、使用人達が並ぶ列の前に、それも自分の両親の隣に立つ。

 正面から見ると、左が私、真ん中が母、そして右が父。父の後ろには執事が静かに控えている。


(まー、良かった。義弟も両親がこの場に来てなかったらショックかもしれないし、一応いてくれて)


 義弟は伯爵家の次男らしいが、養子に出されてうちに来る。

 うちが跡取りの為ぶん捕ったのかもしれないし、あちらがどうぞどうぞと差し出してきた線もあるが…。


 そんなことを考えていると、目の前にとまっていた馬車が開き、その中から少年が出てくる。付き添っていたうちの使用人も一緒だ。少年は、不安そうに瞳を潤ませていた。

 …けれど、私の脳内は、薄情にもそんなことよりもっと大事なことで大騒ぎしていた。


(え、えーっ‼なっ、なにあの子⁉可愛過ぎるんですけど‼て…っ、天使⁉天使なのか⁉あの弟キャラを体現したかのようなショタっ子…ああでも、そんなに悲しそうなお顔じゃなくて、もっとこう…明るく元気に『お姉様』って呼んで欲しい‼そしてあわよくば上目遣いもして欲しい‼‼くっ……そうか、これは神が私に与えた試練なのか…あの子を幸せにせよと‼そう仰るのですね⁉)


 完全にやる気スイッチと弟愛でスイッチが入った私は、これからの行動をどうするか早速計画を練り始める。


 まずあの子の事情から。そして、何があの子にあんな表情をさせているのかを解明しないといけない。

 本人から聞ければ良いけど、なんせ初対面だし、あの子も私みたいに弟(姉)狂いな訳じゃないだろうからね。

 私の義弟が正面から歩いてくる。緊張した面持ちだ。



「初めまして。本日からお世話になる、レオナード・クレイトンです」



 クレイトン伯爵家は、今、とても貧乏だと聞いた。レオナードが養子に出された経緯の大半がそこだろうと見当をつける。



「ああ。私はレイナー公爵家当主のクラウス・レイナーだ」

「私はレイナー公爵家夫人のヴィオラ・レイナーよ」

「…私は、レイナー公爵令嬢のエリザベス・レイナー。よろしくね!」



 お前らよろしくぐらい言ったらどうなんだ、と思ったが、代わりに私が言ってやった。

 本当はもうここで『リズお姉様って呼んでね!』と言ってしまいたかったけれど、既に夫婦時間不足に陥ってか不機嫌そうなご様子の父を見て後回しにすることを選んだ。

 はー…。可哀そうに、圧に中てられて委縮してしまっているじゃないか。



「お前にはここの跡取りになって貰いたい」

「……はい。分かりました」

「頼むぞ。話は以上だ。誰かレオナードを案内してやれ」



 それだけ言うと、父は母の肩を抱き、中に引っ込んでしまった。


(いや、普通なんかもうちょっとあるだろうが‼)


 と悪態を吐いてしまったのは仕方ない。

 しかし最優先すべきは、父への不満ではなくレオナードへの心配である。というか、優先度は天と地ほどの差があるから必然なのだが。



「では、案内役は私が引き受けます」



 そう言うと、使用人達はざわついた。侍女三人だけはリアクションが薄かったし、リリーはニコニコとその様子を楽しそうに見ていたけれど。

 あ、ついでに、両親も私をびっくり仰天といった感じで凝視していた。でも、その視線に付き合ってやるほど暇じゃない。

 私は全てを無視しながらレオナードに駆け寄った。



「ねっ、君、レオナード君っていうんだよね?これからよろしく!」

「え……?あ…、は、はい…。よろしくお願いします…!」



 早速レオナードの手を取った私は、「呼び捨てでもいいかな?」と優しく確認をとる。するとレオナードはとても驚きながら、ちょっと上目遣いになりつつもこくりと頷いてくれた。その所作が可愛くて可愛くて、ついついまだ早いのに姉馬鹿が発動してしまいそうになるから困ったものだ。



「私のことは、エリザベスじゃなくて、リズって呼んでくれると嬉しいな。勿論、呼び捨てでいいからね?」



 茶目っ気たっぷりにウインクしてみせると、レオナードの頬は可愛くピンクに染まった。そんな初々しさにずっきゅんとハートを射抜かれた私は、『可愛い‼』と内心身悶えながら、手を繋ぎ屋敷の中まで先導する。もう、穴が開くほど強烈な他人からの視線なんてこれっぽっちも気にならない。



「リ、リズ……?」

「そう!あっ、で、でも!ごめん、一回、一回だけでいいから…いや、出来るだけ永遠に呼んでくれると嬉しいんだけど…『リズお姉様』か『リズ姉様』それか『リズ姉さん』か…、あっ!あと『リズ姉ちゃん』とか呼んでみてくれる⁉」

「う、うん…。が、頑張り…ます?」



 困惑気味な微笑みを浮かべるレオナード。可愛いったらありゃしない。



「えっと…、…リズ、姉様?」

「きゃ~~~~~~~~っ♡可愛い!最ッ高に可愛い‼もう、なんていうか、うちに来てくれてありがとう、レオナード君‼君のことは一生、姉として大切にするからね‼」

「…ありがとう…ございます。えっと…なら、僕のこともレオ…って呼んで下さい」

「えっ⁉いいの⁉レ…レオ、ありがとう…!あ、そうだ。私は敬語じゃないんだから、レオも嫌じゃなければ敬語外してもいいんだからね?」



 『嫌じゃなければ』とつける辺り、私は本当にレオに嫌われたくないと思っているらしい。だって、そうなるよ。念願の弟だもの。



「う、ん……、わかった」



 少しぎこちないながらもそう返してくれる可愛い義弟。

 何でもあげたくなってしまうような愛らしさだ。



「じゃあ行くよ。名付けて『お屋敷冒険隊』!カッコイイでしょ?」

「ふ…、ふふっ…っ、なにそれ」



 やっと初めて、少しだけだが笑ってくれた義弟に安心し、私は手を引き始めた。

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