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異世界エンジョイ勢は無自覚逆ハーレムを築く  作者: ごん
リズと小悪魔公爵令息
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41.天使の皮を剥がれた日


(くそっ!また…!)


 ボクを捕らえたアビスは、口角をにいっと上げた。

 その途端、義姉やラピスさん、騎士団長の動きがピタッと止まる。



「そう急かさないでください…。私は皆さんとお話したいだけなのです。…ああ、あと、不用意に動かないように。この”聖印”を見れば、言いたいことはわかるでしょう?」



 重いだろう”聖印”を、軽々と振り回すアビス。

 それは、動けば”聖印”を押すぞ、という紛れもない脅しだった。 


 義姉が、ぐっと痛みを堪えるように唇を噛んでいる。

 魔法の詠唱も、この状態では真面に唱えられないと踏んだのだろう。

 その時、アビスが謳うように言った。



「愛し子様。貴方は洗脳されているのです」

「……洗、脳?」

「ええ、洗脳です。考えてもみて下さい。あちらとこちら、どちらにいるのが貴方にとっていいのか」

「……どういう、ことですか?」



 そう言った途端、心臓がひときわ大きく鳴った。コイツの言葉に感動したのではない。外部に記憶が引っ張り出されていくような感覚に陥ったのだ。そしてそれは精神干渉系の魔法に違いないと、すぐに気付いた。



「…ああ、お労しい。けれど素晴らしい。元々生家で虐待を受けていたのにもかかわらず、親の愛を純粋に欲し、天使の皮をかぶり生き続ける健気さ」

「!や、やめ…」

「そして、演技を続けるだけの才覚、それに賢さ!けれど、ああ、やはりお労しい。本来ならば貴方は、愛されるべき方だった。実の子ではないというだけで、冷遇されていいお方ではなかったというのに……」

「やめろ………」

「真に愛されるべきは貴方だった。やはり理不尽な世の中だ。その点、こちらに来れば何も心配はいりません。ずっと天使の皮をかぶり続ける必要も、憎い義姉を慕うふりをする必要も――」

「やめてくれ‼‼‼」



 怒りのあまり、頭がどうにかなりそうで、思わず声を張り上げた。

 その瞬間、アビスと繋がっているような糸の感覚が、ブチッと切れたのがわかった。



「おっと…。プレゼンの仕方が少々強引でしたか?」

「………ッ‼‼」



 嫌な笑顔を向けるアビス。

 …これが狙いだったのだと、すぐにわかった。

 コイツは、ボクの本性を暴くことで、義姉達の愛想が尽きるのを狙っているのだろう。それか、ボクの居場所をなくしてここに依存させよう、という魂胆なのかもしれない。うん、そっちの方がしっくりきた。


(…そんなん、ボク大好きな姉様が許すわけないじゃん…。そもそも、姉様が手のひら返しなんて、するはずないし)



 『ん?猫被ってた?そっかぁ…レオ君は演技の才能もあったんだね!やっぱすごいや、私の弟』なんて言っている姿が、簡単に思い浮かぶ。そう、義姉は決してボクを裏切らない。そう思っているのに、やっぱり、三人の顔を見ることができなかった。


(失望されたらされたで、ボクなら巻き返せるし。それに、そもそも、公爵家に迎え入れてまだ三年の嫡男を、放っておくわけないし…。絶対、見捨てられないはず、なのに)


 両親がすぐ弟の元へ行ってしまったときのように、胸が軋んだ。

 その時、「レオ…」とボクを呼ぶ声がした。少し顔を上げて、義姉のお腹あたりを見る。



「……私を、憎んでいるの?」

「………」



 沈黙していると、「…そっか」と義姉は言った。悲しそうな声が、ボクの心をざわつかせる。

 ……やはり、義姉を憎んでいるというのだけは訂正した方がよかったかもしれない。



「ほら。やはり、貴方はこちらの方がいい」



 沈黙したボク達を見て、アビスは笑う。悪趣味にも程がある。

 しかし実際、義姉は俯いたまま喋らない。


(…なんで……?)


 最初に義姉を傷つけたのは自分だというのに、ボクは勝手に傷つけられような気持ちになっていた。……全て、自業自得なのに。

 沈み切った空間に、アビスの「ふぅ」という吐息がもれる。



「……さあ、では、邪魔された分を取り返しましょうか」

「っ‼」



 一気に意識が覚醒する。

 義姉は、動く素振りも見せない。ラピスさんや騎士団長はこちらを窺っているが、ボクに焼き印が付けられるまでに間に合うかどうかわからない。…他人任せには、していられなかった。


 アビスが、”聖印”を大きく振りかぶる気配がした。

 そしてその瞬間、身を捩る。それと同時に、ふわっと抱きかかえられるような感覚があった。




「………この…バカレオナード」




 呆れるほど聞いた声が、近くで耳朶を打つ。



「私がこのぐらいのことで見捨てるわけ、ないでしょーが」



 特別優しい声でもない、どちらかというとぶっきらぼうな声なのに、なぜか涙で視界がぼやける。

 そして、腹立たしいほどひどい安心感に包まれた。



「じゃあ、誘拐犯さん。そろそろ最終ラウンド、移ろうか」



 義姉は、いつものような、腹が立つほど飄々とした態度でそう言った。

 その数秒後、「《崩壊(コラプス)》」と唱えた義姉により、屋敷が崩れ、廃墟化した。

 なお、廃墟といっても、石垣しか残っていないような、ほぼ跡形もない廃墟である。

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