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異世界エンジョイ勢は無自覚逆ハーレムを築く  作者: ごん
リズと小悪魔公爵令息
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35.黒の刺客


 リュカ・レイナーが襲われた。

 寝室で寝込みを襲われたが、影達が応戦し追い返したとのこと。

 お兄様には傷ひとつすら付かなかったようで何よりだが(いやなんなら少しくらい付いてもよかったかもしれない)、首謀者を見つけ出したい私達としては、何の手掛かりも残さず消えてしまった黒服の刺客の行方が気にかかった。


 それに、絞り込もうと思っても、お兄様の敵は案外多い。

 単純に優秀さを羨む者や貴族を恨む者、そしてレイナー家を妬む者はもちろんのこと、継承権を早々に放棄すると宣言した奇特な人物だということでますますやっかみを買っているのだ。

 また、客観的にみると、犯人がレオの可能性もなくはない。何かあったときのためにと、両親が兄に、継承権を残させたのだ。レオがそんな人ではないとわかってはいるけれど、継承者の立場を脅かされるような存在ではあるだろう。


 だからだろう。捜査は思うように進まなかった。

 その代わり、お兄様はかなりの頻度で襲われた。我が家も総力をあげて対応するが、日に日に疲労が蓄積していくのが見て取れた。影達だけでなく、お兄様自身も、端正な顔に隈ができていた。


 それが二か月続いた。

 他の家にはまだ明かしていないが、長引き、対処できなくなったら頼らざるを得ないだろう。

 レイナー家にかかわる人は行動規制をされていて、私やレオも、今はアレクやライラと文通くらいしかできていない。

 恐らく、全員が限界に近かった。


 そこで、事態を動かすことを決めた。



 ♦ ♦ ♦ ♦ ♦



 ――ごとっ



 その音が鳴った瞬間に、影達とともに私は飛び出した。 

 揺れる視界の先には黒の刺客。

 そして、出入り口にはうちの最高の腕利きが張る。

 その様子を見た黒の刺客がちょうどこちらを振り向いたところで、そいつの頭を蹴り飛ばした。


 がごんっという音が響く。壁に打ち付けられる音だ。

 そして黒の刺客は、態勢を立て直すまでもなく、ラピスと一番の影に拘束された。


 一瞬にして終わったその仕事は、されど重要な意味を持つ。

 何せ、当家の優秀な人材(私含む)を一か所に集中させたのだ。その分他が手薄になる。



「散れ‼」



 私が声を張り上げると、それぞれの持ち場に一斉に戻っていくエリート。

 ラピスは私に付いてくる。そして私は、弟の部屋へ飛んで行った。



「レオ‼」



 お兄様が襲われてから、レオの護衛担当には私も混ざっていた。だから気張ってはいても安心はしていたのだが、今回は最高戦力を結集させ、一人の黒の刺客を捕らえたのだ。当然、レオは戦闘に巻き込まないためにも相当数の影と一緒に部屋にいさせていた。私の信頼する影も付けていたし、影はもともと、目を剥くほど優秀な者がそろった集団。流石に大丈夫なはずだ。


 …そう、大丈夫なはず。


 なのに。



「…っ⁉」



 黒の刺客に抱きかかえられているレオ。倒れ伏す影達。そして、同じく倒れ伏すその二倍もの刺客。

 そしてまだ、異様な雰囲気を放つ黒の刺客が五人残っていた。

 明らかに、他の有象無象とは違う。


 私はピューと口笛を鳴らした。敵発見の合図だ。

 そして私とラピスは戦闘を開始した。


 私の得物はご存じの通りナイフだ。そして、ラピス師匠の得物はサーヴェルである。

 ラピス師匠は二人を同時に相手にした。流石に美しい動きだ。

 そして私も、師匠に倣うように二人を相手にする。いや、二人が限界だった。

 本命であるレオを抱えた黒の刺客は、窓枠に立ってこちらを見ていた。仮面に嵌め込まれた、瞳のような黒真珠で、じっと。


 私はそんな一人を放っておいて、双剣使いと拳闘士の攻撃を受け流す。

 双剣使いの振るう剣が、レオの部屋を傷つけていく。



「…」



 冷たく睨みながら、ナイフと剣で火花を散らす。

 双剣を一つのナイフで受け止めつつ、拳闘士が放ってきた蹴りをくるりと躱す。そして、そのままの動きでもう一度入れられそうになった蹴りを、もう片方の手で握るナイフで切り裂いた。紅色が部屋に舞う。忌々しくなり、舌打ちをした。


 片足の機能がうまくしないと焦る拳闘士の、両腕ともう一方の足を丁寧に切った。動けないように、神経だけ。しかしそれでも悲鳴ひとつ出さず、ばたっとその場に倒れた。戦場にしては異様な静けさが、依然として広がっていた。


 しかしまだ油断はできない。視界の端にレオを抱えた黒の刺客を捉えつつ、双剣使いを相手取る。…ラピス師匠の方は、私よりも早く終わりそうだ。タイミングを合わせるためにも、ぱぱっと〆なければ。


 一発、二発…三発四発五発六発。

 何回でも、二本のナイフで攻撃を仕掛ける。全てを見切りぶつけてくる双剣使いと、超至近距離で睨みあう。見えているわけでもないのに、なぜだかそういう感じがした。


 一区切りつき吹き飛ばされると、軽いステップで衝撃を軽減。

 その後、懐に忍ばせていた投擲用ナイフを十本投げつける。

 鋭く確かな軌道だったのに掠るだけで済んだ双剣使い。流石だが、当然ながら毒付きだ。


 ぐらり、と一瞬軸がブレた双剣使いを、容赦なく私は仕留めた。

 もちろん、息の根は止めない。あとで、そこの拳闘士と、レオの部屋を汚した罪を、永遠に背負わせるために。…あ、違った。尋問するために。


 そして、と私はあいつに向き直った。

 いつまでもレオを抱いている姿を私に見せつける不届きもの。

 そう、あの、沈黙して私を観察している、無性に腹の立つあいつである。



「…返せ」



 黒の刺客は、何も言わない。首を振りすらしない。中身が人形だと言われた方が、よほど納得できた。

 そして次の瞬間、あいつの方へ、レオの方へ踏み出した。ラピス師匠と一緒に、ナイフとサーヴェルを、あいつに突き付けてやるために。

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