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異世界エンジョイ勢は無自覚逆ハーレムを築く  作者: ごん
リズと小悪魔公爵令息
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33.三年後も安定のリズ・ワールド


「うがっ⁉」

「ぎゃあっ‼」

「くぁwせdrftgyふじこlp」

「あ~~~れ~~~~~~……」



 レイナー公爵家毎年恒例の『武術・魔術総合大会』。

 参加はレイナー家の騎士なら完全自由。観戦は家の中に限らず誰でも可能。

 それに加え、超実力主義なトーナメント形式。

 騎士達の九割が参加する、王都でも有数の大型イベントだ。

 そんなイベントで暴れまわる少女が、一人いた。



「とったどーーーーーー‼」



 最後の騎士がバタッ…と倒れた瞬間、雄叫びがあがる。

 それに続き、実況が入る。



『しょ…勝者、エリザベス・レイナー選手‼』



 それが響き渡った途端、うわあああああ‼と会場が湧く。

 ひゅーひゅーという口笛や、「さすがですわ~‼」というご令嬢からの秋波が送られる。

 会場は、動物園並みに大騒ぎになっていた。

 実況者がエリザベスのもとへ駆け寄ると、ウインクをしたり手を振ったりとファンサで忙しくしていたのをやっとやめた。



『素晴らしい!貴族のご令嬢でありながら、しかも僅か()()()という若さで、見事!レイナー家の騎士団長や魔導士団長含む、すべての騎士を撃破してしまいました‼エリザベス様、一言お願いできますか?』

『…そうですね…』



 拡声魔法にエリザベスの声が乗る。



『お腹空いたので次行っていいですか?』

『実況者泣かせですねお嬢様』



 ついつい素が出た二人に、会場がどっと笑いに包まれる。



『…さて、では当家の姫からお許しが出ましたので、次に参りましょう。お次は、毎年恒例、勝者の願いを一つ叶える“願いの儀”。エリザベス様、もうお決まりですか?』



 実況者が言う“願いの儀”とは、報酬のための宣言の場だ。

 レイナー公爵家ができる範囲で、全ての願いを叶えられる。

 金銭や宝石、ドレス等は制限が決まっているが、それでもかなりの額までいける。


 実況者の問いかけに『もちろんです』と返すエリザベスに、緊張が高まる。

 そして遂に、実況者のコールがやって来た。



『では願って頂きましょう!エリザベス様、あなたの願いは――?』



 その時、エリザベスの碧眼が、発光しているかのようにぎらりと光った。



『当家の騎士の最高実力者であると認め、そして、有事の際には動く許可を下さい』



 そして同時に、悲鳴と野次、そして歓声が飛び交った。



『そっ…それは……』



 実況者が困ったようにレイナー公爵夫妻を見やる。

 二人とも、やれやれと(かぶり)を振る。



『…や、やはり…願い直された方が――』

『許可します』

『ほら…って、え?きょ、許可ぁ⁉奥様、いったい何を仰って⁉』



 素っ頓狂な声をあげる実況に、美しい悪の氷のような二人が応える。



『できるだけ何でも叶える、それがこの大会の醍醐味だ。そうだろう?ヴィオラ』


『ええ。だから、エリザベス、あなたの好きなようにやりなさい。もううちにはほとんどあなたに敵う者はいないのだし。それと、そうね……。あなたには“魔導騎士団長”の称号を与えます。騎士団長と魔導士団長より上位の立場です、十分に考えて振る舞うように』


『ま、“魔導騎士団長”ー⁉ぜ、前代未聞です!貴族のご令嬢が優勝しただけでなく、“魔導騎士団長”という位を与えられました‼』



 抜け目なく観客席にいる新聞記者が、エリザベスによって開発されたカメラを手に、パシャパシャと連写する。「特大ニュースだ!」「いいネタができたぞ!」という歓喜の声もチラホラと聞こえてくる。



『や…やはり当家のお嬢様は天才ということなのでしょうか⁉』

『そんなことを公衆の面前で言うものではないわ。それと、天才ではなく大天才よ』



 そんなやり取りに、「あの有名な親バカだ!」「ほんとだ!」「使用人バカも一緒だぞ!」という声が聞こえてくる。もはや親バカならびに使用人バカは周知の事実らしい。



『ではでは、報酬も直々に授与されましたので、そんな天才お嬢様が指示し料理人と一緒に仕上げましたお料理をお出しします!皆様、フィールドへどうぞ降りてきてください!』



 再び会場がどよめいた。



『聖地ですよ?当家の騎士しか踏めない聖地。その土や砂をもってくることも、ましてやその上で食事をとることも可能!今回は当家の姫の優勝を記念した特例です。さあ!皆様こぞってお集まり下さい‼』



 いい声でハイテンションにアナウンスする実況に、どうしようかと人々は顔を見合わせるが、エリザベスの特製料理が並ぶ様子と、あまりにも美味しそうな匂い、そして聖地の売り文句につられて、続々と人が下りて来る。まさにレイナー家ワールドが展開されていた。



『さあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!まずは…ってちょっとおじょ――⁉』

『まずは左から。こちら、“おにぎり”となっております!』



 本業(スリ)の方ですか?と疑ってしまうような華麗な手捌きでマイク(※拡声魔道具)を掠め取るエリザベス。とほほ…と後ろで涙を流す実況を置いて、紹介は進んでいく。



『見て下さい!このコメのツヤ‼抵抗があっても、一口食べれば、この塩むすびのいいしょっぱさにやられること請け合いです‼でも残念、数量限定で――』



 その瞬間、おにぎりエリアに人が殺到した。



『皆様~?塩むすびももちろんいいですが、具入りもいいですよ!鮭のしょっぱさは同じく癖になります…!ほら、このほかほかとした蒸気!たまりま――』



 どたどたどたどた‼とまたもや人が殺到する。

 今度は、エリザベスも人に押しのけられていた。

 食欲は、公爵令嬢を上回るのである。

 

 それからも、カツオに昆布、梅に、ワカメの混ぜ込みご飯でできたおにぎりなど、多種多様なおにぎりが紹介された。

 ほかほか、つやつや、いいしょっぱさ。

 口の奥歯あたりがきゅ~っとなる美味しさに、観客もスタッフも皆メロメロだ。



『ではもう一つ、ご紹介を。こちらをご覧ください!』



 血眼になって、全員が、エリザベスの指示した方向に向かう。



『これはずばり、“お味噌汁”です‼不思議な液体だと思うでしょう?でも、食べてみればわかります。この出汁の奥深さ、そして、実家のような安心感……』



 もうすでに、よそわれた一杯を手にする人が後を絶たない。



「んん⁉なんだこの幸せな奥深さは…!」

「おにぎりと合わせて食べると最高よ!」

「ああ…!本当だ!なんて素晴らしい料理…‼」



 あまりの感動に、当家と他家の料理人達は揃って涙ぐんだ。

 その時、再びエリザベスの声が響き渡った。



『皆様、お食事を楽しまれているようで幸いです。ですがこれは、私どもが開発した料理ではないのです』



 いきなりのCO(カミングアウト)に戸惑う客達。

 そこに付け込むように、エリザベスの声が染み渡る。



『確かに私達は仕上げました。ですが、これは、遠い昔の王妃殿下…。そう、あの日本からやってきたとされる魔法料理の王妃殿下のレシピを再現したものなのです‼』



 そう言った途端、おおお……と大勢が慄いた。

 レシピとはいえ、大昔の、しかも誰もやり方を知らなかったレシピ。それも、何かしらの効果があるという魔法料理。

 その価値は、値千金と言って差し支えない。



『どうして再現できたのかは企業秘密です。ですが、これは王妃殿下の開発されたレシピです。それだけははっきりさせておかなければならないと思い、申し上げました。皆さま、それを念頭に、引き続きパーティをお楽しみ下さい』



 そう締めくくると、しばらく静寂が訪れた。

 しかし、徐々に拍手が聞こえてきて、数秒後には、その誠実さに、今日二度目の拍手喝采が巻き起こったのだった。本人が、責任逃れのために公表しただけであるとも知らずに…。

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