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異世界エンジョイ勢は無自覚逆ハーレムを築く  作者: ごん
ブラコンの実力育成期
35/146

32.母の雷は万国共通でいつも怖い


「……、…」



 …薄っすらと、意識が浮上する。

 自分好みにリメイクした、清潔感溢れる質素な部屋が目に入る。

 水色がかった白色のカーテン、その色に合わせた壁紙、そして大人っぽい雰囲気の緑色の毛布。

 テーブルも椅子もソファも、シンプルかつ上質な出来だ。

 幾分目に優しくなった部屋に、寝起き早々、二度寝しようかと考えた。



「…あれ…私、いつの間に寝て……」



 そこまで寝ぼけ眼で言ってから、思い出す。



「あー、…オーク・ジェネラルと戦って、力尽きたから…」



 ちらり、と、木に叩きつけられ酷い損傷を負った体を見下ろす。

 しかし、そこには包帯も何もなく、傷一つ見当たらなかった。きっと誰かが治癒してくれたのだろう。


 ベッドをごろごろと転がりながら、闘いを思い出す。

 初めて経験した、本気の命のやり取り。

 普段は向けられないようなはっきりとした敵意と殺意、そして、リアルな傷の痛みを体験した。



「それにしても…。…もしかしなくても、回復魔法が未熟って、かなりヤバいのでは…?」



 むぅ、と唸る。

 回復魔法が苦手な身としては困る話だが、当然だ。

 パーティではなく個人でやっているので、回復役、所謂(いわゆる)「ヒーラー」が居ない。

 なら自分でやれというだけの話。


(でもなぁ~…な~んか、イメージが掴めないんだよなぁ~……)


 両手を開いたり閉じたりと、ぐーぱーしてみる。


(現代の理科の授業習ってるし、人よりも楽かなぁ、って思ってたのに…)


 異世界転生あるある。

 現代人の素人知識でも、回復魔法チート級になる。

 ……まあ虚しくも、そんなあるあるは適用外らしいが。


(ま、まあ?これから極めるから全然問題無いんだけどね!)


 そうと決まれば。

 私は早速ベッドから飛び起き、いつもの服(特注戦闘服)に身を包むと、ラピス教官を探しに繰り出した。私の部屋を見張っていた衛兵がぎょっとしているが、しーっというジェスチャーをすると、頬を緩めて頷いてくれた。話の分かる人は好きだ。


(さて、と……)


 今一番見つかりたくないのは、お母様、お父様、そしてレオ、この三人だ。次点でアンナにも見つかりたくない。なぜかって?お説教コースまっしぐら間違い無しだからだ。

 私の頭の中に、嫌な想像が膨らむ。


(また、ぺこぺこ大作戦のときみたいに、何十分も頭を下げさせられたら……)


 思わず、両腕を摩った。


(それか、正座を何時間も……?)


 ああ、視える。

 怒り心頭で私を見下ろすお母様の姿が…。


(イヤ――ッ‼どっちにしてもダメだ!やっぱり、最速で師匠を見つけるしかない‼)


 ふんす、と気合を入れ、止めていた足を動かす。


(そうだ!なんなら、隠密(ステルス)を使えば——)



「〈〈隠密(ステルス)〉〉――」

「…リ~ズ~……???」

「ひいぃっ⁉」



 バッと後ろを振り返ると、そこには…



「…お、おおおおおお、おかあ、さま……」



 氷のような表情を更に凍てつかせた、お母様…、否、魔王様がいた。



「……ベッドに戻りなさい。話はそれからです」

「あ……、い、いえ、デスガ…」



 お母様の両脇に控える、お父様とレオを見る。

 お父様は仏のような顔で微動だにせず、レオは私を憐れみの瞳で見ていた。



「……」

「返事は?」



 最早、三人の後ろに控える私の侍女達へヘルプを送るのも間に合わない。

 オーク・ジェネラルの時よりも、絶体絶命なシチュエーションだった。



「………ハイ」



 それから私は、無事、部屋に連れ戻され、ベッドに寝かされた。

 戦闘服については、呆れられただけで済んだ。

 お母様もお父様も、頭痛がするというようにこめかみを押さえており、レオに至っては、ぱっちりおめめをうるうると潤ませていた。レオを泣かせたという罪悪感で、私まで泣きそうだった。

 ということで、絶賛、重苦しい雰囲気が漂い中である。



「…あ、あの、お母様…」



 一番狼狽しているお母様に声をかけると、溜息が返って来た。



「……リズ。万が一の可能性を、考えたの?」

「万が、一……」



 万が一、私が死ぬ可能性。

 考えなかったわけではないけれど、ラピス教官が付いていたし、何より私にとっては然程重要事項ではなかった。寧ろ今は、将来のために研鑽を積んでおくべきだとまで考えている。

 ただ、そういう問題ではないのだろうことは、何となく分かっていた。



「あなたが力を付けるというメリットと、あなたがいなくなって起こるデメリット、それをちゃんと考えたの…?そもそもなぜ、貴族令嬢のあなたが、自ら力を付けなければいけないの?」

「……」

「私達にとっては、命よりも大切な我が子なの…」



 ぎゅ、と抱き締められる。

 ずっと昔に味わったことのある、母の抱擁だった。温かくて、どうしようもなく安心した。



「…お願いだから、もうやめて。騎士様という専門職の方がいるでしょう?私達には影も付いている。だから……」



 お母様の言葉が消え入ると、再び沈黙が部屋を支配した。


(…もっと、『今まで民に支えられて生きて来たのだから、貴族令嬢としての責務を果たせるように』とか、『傷が残ったらどうするの』とか、言われるのかと思ってた……)


 未だお母様は、縋りつくように私を抱き締めている。

 貴族令嬢としてじゃなく、娘として、お母様は私を窘めていることを知った。



「……私も、お母様達のことが、命より大切です」

「……なら、分かってくれるでしょう?リズ」

「はい。だから、完全に他人には任せることはできません」



 お母様の抱き締める力が、より一層強くなる。



「ごめんなさいお母様。私に、このまま鍛錬を積む許可を下さい」



 ストレートに、ハッキリと言った。

 それからお母様は、静かに泣きまくった。

 お父様も、涙を静かに流しながら、悲嘆に暮れる妻の肩を抱いている。

 泣かせたのは私なのに、そんな二人を見ているのは、とても辛かった。


 それから、どれくらい経ったろう。

 お母様もお父様も、泣き疲れたようだった。

 レオは項垂れたまま、一言も発しない。



「…リズ」

「はい」



 私を見てどう思ったのか、夫婦は顔を見合わせて、呆れたように微笑み合う。

 そして、私を真正面に捉えて言った。



「許可します。リズ、あなたの好きなようにやりなさい」

「‼」

「但し、元気な顔を見せなさい。最低限の親孝行です」

「ああ。それで私も妻も、納得できる」



 元気な顔……か。



「はい…!勿論です、お母様、お父様!約束したからには一生護り抜きます‼」

「私達に似て、愛が重い子ね…」

「ああ、全くだ」



 私達は笑い合った。

 俯いていたレオも、いつもの調子で「姉様、心配したんだよ…!」と抱きついてくる。お母様もお父様も、私にもう一度抱きついてきて……。私には勿体ないくらいの光景だった。

 その後、ラピス教官やアンナ、リリーにまでみっちりと絞られたのは、余談である。



 ♦ ♦ ♦ ♦ ♦



 ずるい……

 狡い狡い狡い狡い狡い狡い狡い狡い狡い狡い狡い狡い‼‼‼


 なぜアイツは愛される?

 やはり()()()()()()子供だからか?

 ちゃんとした()()()()だからか?

 いつまで経っても妬みは消えない。

 奪おうと思っても奪えない。

 前もそうだった。

 奪えないほどの絆があるのは血のせいか?

 

 ……分からない。

 分からないからこそ、今日もいつものように生きる。

 いつか下剋上を果たす、その時まで。

 

 憎き…、憎きエリザベス・レイナーの人物画をナイフで切り裂く。

 可憐さと美しさが同居するその顔を、ズタズタに切り裂いて、脳天から股下までを真っ二つにして、ようやく手が止まった。



「……ボクなら許してくれるよね?姉様」



 レオナードはそう言って、にっこりと、あどけなくも狂気的な笑みを浮かべた。

お待たせしました…!

やっと次回から新章開幕!そしてついているタグっぽくなってきます‼

タグ詐欺にならないようにしますので乞うご期待ください…!(ハードルは上げ過ぎずお待ち下さい)

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