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異世界エンジョイ勢は無自覚逆ハーレムを築く  作者: ごん
ブラコンの実力育成期
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27.ナイフ使い令嬢の噂


 その頃、ある一人の令嬢が噂されていた。 



 ――どうやらレイナー家のご令嬢は体も鍛え始めたらしいぞ、というものだ。



 レイナー公爵家の長女、エリザベス・レイナーは元々、優秀で話題にのぼることが多かった。

 魔法、勉強、マナー、政治、…そして武術。


 どこから漏れたのか、人の口に戸は立てられないとはまさにこのことなのか。

 どちらにせよ、エリザベスがナイフ使いだということまで伝わっていた。


 男尊女卑思考が薄いこの国では、意外なことに、男性には受け入れられやすかった。

 ある一定の批判層はいるものの、「男子だけが武術を極める」という風潮が薄いためだった。


 しかし今度は、男性陣に許され、それどころか親近感まで与え始めているというその令嬢へ、貴族女性陣が噛みつき始める。


 優秀で可愛らしく、非の打ちどころのない令嬢だという噂も彼女らの僻みとやっかみを更に酷くさせたのだろう。

 その令嬢に、唯一の欠点らしきものが出来たとすれば、貴族女性陣からは執拗なほど口撃されること請け合いだ。

 そしてその噂は、デイヴィス侯爵家の夜会でも広まっていた。



 ♦ ♦ ♦ ♦ ♦



「デイヴィス様、聞いて下さい!」

「あ?ああ、どうした?」



 自然な返事をするデイヴィスと呼ばれた少年、グレン・デイヴィスは、同じくらいの年頃の少女に快活な笑みを浮かべながら問いかける。



「例のご令嬢、まだやってるらしいんですの」

「例の?誰のことだ?」



 噂事にはあまり縁のないグレンが直接聞くと、話に興味を持ってくれたと解釈した令嬢は、一歩少年に近付いてから話し始める。



「今話題の、ナイフ使い令嬢のことですわ。レイナー公爵家の…、確か、エリザベス様と仰ったはず」

「令嬢がナイフを使ってるのか⁉」

「ええ!ええ!そうなんですの!きん…とれ?と呼ばれるものもやってらして、大層逞しいのだとか」



 嘲りの混じった笑みだったが、筋トレを行いつつナイフ格闘術を習得している令嬢の話は、今のグレンにとって、妙に惹かれるものだった。

 それからも令嬢は、なんとか興味を惹けるように、令嬢のことを話し続けた。



「ですが残念ですわ。その逞しいお姿を一度でいいからお目にかかりたいと思うのに、あまりお茶会や夜会などには参加しておられないとのことですの…」

(「逞しい」から「華奢」ではないのではないかしら?)


 とか、



「何か理由があって出て来られないのでしょうか?」

(見目があまりよろしくなく見苦しいのかもしれませんわ)


 とか、



「そういえば、ナイフ投げや精密なコントロールも出来、腕が立つらしいですわ」

(とても強い女性ですし、守り甲斐もなさそうですし…)


 とか、



「貴族の女性はなさらないことをなさっていて、素晴らしいと思いませんこと?」

(まあ、貴族女性の枠からはみ出した「はみ出し者」ということですよね)


 とか。

 


 きっとグレンにこの副音声が聴こえていれば、迷わず眉を顰めただろう。

 この令嬢が他の令嬢をせっせと扱き下ろしているのは、やはり、グレンの将来有望さにある。


 まだ幼いにも拘わらず将来は男前で精悍な顔立ちになることが分かるような美形。

 更に予定でいけば侯爵家の跡取り息子。

 今まで話してみた感じも悪くはなく、寧ろ誠実そう。


 そんな優良物件様にお近づきになるため、わざと噂の令嬢を“対象外”だと告げているのだ。腹黒い。

 しかし幸か不幸か、まだ単純で純粋なグレンには、遠まわしな表現は早かったらしく。



「素直にすごいと思うし…なんなら俺と手合わせしてほしいくらいだな」



 と、独り言のようにそう言った。

 そしてその後、すぐにその令嬢との話を打ち切り、ついでに夜会も抜け出してしまった。



 ♦ ♦ ♦ ♦ ♦



 実はグレンには悩みがあった。

 デイヴィス侯爵であり、()()()()でもある父を持つグレンは、(また夜会を抜け出したとかって母上に怒鳴られるかもしれねぇけど今は…)と、夜会会場に指定されていない裏庭に駆けだした。


 途中で木刀を稽古場から借り受けてきて、裏庭に着くと、居ても立っても居られないというような様子で素振りを始める。

 グレンは、夜会なんて出ていられないと思うほどに、追い詰められていた。

 誰よりも、何よりも尊敬する、父によって。


 それにしても、とグレンは素振りの最中にふと思い出す。

 こんな風にグレンを訓練へ駆り立てた、噂のご令嬢のことだ。


 ナイフと剣という部分では違えど、武術を極めているという点では同じで、尚且つ同い年。

 男尊女卑の思考が薄くてもなかなか貴族女性が武術を極めるというのは珍しいことで、当然、グレンもその令嬢に興味が湧いていた。


(なんつっても公爵令嬢だからなー…。一回そいつに会ってみてぇけど、そいつ、茶会にあんま顔出してないっつってたし…)


 爵位が上の家には間違っても突撃してはならないということぐらいは、脳筋を自負するグレンにだって分かっていた。


(……ま、とりあえず今は、鍛錬あるのみ、だな)


 グレンは、悩みを切り裂くように剣を振るった。

 この時グレンは、まさかあんな衝撃的な出会い方をするなど思ってもみなかった。

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