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異世界エンジョイ勢は無自覚逆ハーレムを築く  作者: ごん
ブラコンの実力育成期
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19.異世界の街を遊び尽くせ!


「わああぁぁああ!城下だああぁぁあああ‼」

「煩い」



 私は衝動に身を任せ、ぱちりと大きく開いた瞳でぐるっと前方百八十度を見回す。

 本日は待ちに待った遊びの日。舞台は勿論街だが、その中でもひときわ賑わっている、城下の商店街エリアへと足を運んでいた。


 私達は庶民の変装をして来ていた。

 私はThe・町娘という恰好だ。服の質もぎりぎりまで落としてきている。


 また、アレクはチェック柄のハンチング帽をかぶり、白シャツの上にサロペットを着ている。城下にはあるあるなその服装も、アレクのような美形が着ればあら不思議、一瞬で誰もが羨む最上級の服に変わってしまうのだから狡いものだ。


 ライラは、赤色のワンピースを身に纏っていた。最近庶民の間で話題の刺繍が施してあるが、使っている布の質も、ライラ自身から溢れるオーラも、只者じゃない感が満載だ。



「…ライラ、ちなみにだけど隠す気ある?」

「?勿論よ」



(これだから鈍感子ちゃんは…)


 ライラは、自分が浮いていることにも気付かずきょとんとしている。そしてさり気なく私の右腕に前回のようにぴったりと寄り添って、子供特有の柔らかさと温かさを惜しげもなく提供してくれている。

 吊り目の赤髪赤目美少女(幼児ver.)にがっつり懐かれた私はというと、実は内心キュンキュンが止まらなかった。

 そして、今日はこの子達も来ていることを忘れてはならない。



『…りずぅ…』

「リズ姉様、今日はどこ行くの?」



(はうっ‼)


 そう。

 私の中の二大治癒師(ヒーラー)、ぷよ丸とレオである。



「着いてからのお楽しみだよ。あっ、でも、必ず全員楽しめるように組んであるから。お姉ちゃんに任せといて~!」

「うーん…じゃあお願い?」

「なんでそんなに不安そうなのかなレオくーん⁉」



 こうして、私達の休日が始まった。


 ♦ ♦ ♦ ♦ ♦



「じゃーん!まずは市場!やっぱ市場!何よりも市場でしょ‼」

「君そんなに市場好きだったっけ…」



 いつも通り呆れ気味に言うアレクだが、そんなアレクも瞳を輝かせてバレないように辺りをきょろきょろと見回している。それはライラもレオも、勿論私だっておんなじだ。



「ゴンリはあのような形で売られているのね…!」

(ゴンリ⁉)


「へぇ、あのラーノ、一つ買って行こうかな…」

(ラーノ⁉)



 …若干、興奮ポイントが違っていたが。

 だって、彼らは物自体は知っているのだ。しかし私は、現世の記憶を合わせても、その物自体も知らない。おまけに、こんな中世ヨーロッパ風の市場なんてアニメの中でしか見たことがない。故に、



「……‼‼‼」



 誰よりも興奮していた。それはもう、今回の目的全てを忘れるほどに。



「…ねぇねぇ」

「!…なに?」



 あるものに目を釘付けにしたまま、アレクの服の袖をくいくいと引っ張る。



「……あれ、なんて言うの?」

「「「…え?」」」『?』

「だーかーら、あーれ‼あのオレンジ色の…こう、丸くて、ちょっと平べったいやつ!」

「…もしかしてリズ、ジレンを知らない?」

「“ジレン”⁉」



 そう。私が見つけた“ジレン”――通称“みかん”。『オレンジ』のオを抜かしてその他の語順をバラバラにしたかのような適当な名前だが、一応、物としての名前としては成り立つ響きだからおかしなものだ。


(あ、そっかー!異世界だから、そりゃ異世界の名前に変わるよね…!やばい、これ普通に覚えないといけないやつかも。くぅ~っ!予期せずに市場に来る口実が出来てしまったぜ!やっほーい‼)


 急にテンションがハイになると怪しまれるので、口をにょんにょん(※波のようにもごもごしている状態のこと)させるだけで我慢した。

 ……が、実はリズとぷよ丸以外の全員は、違う方でリズのことを怪しんでいた。それは…


(((まさかの超箱入り娘…‼)))


 そう。ハイパー箱入り娘ではないかと勘繰られていたのである‼(※事実です)

 そんなことを知る由もなく、ただただテンションが爆上がり中の当人は、頬を興奮で紅潮させ、次の未知なる食材を求めて歩き出す。



「あ!アレは確か…えっと…(リンゴの逆だから…)ゴンリ、だっけ?」

「そうね」

「うーんと…あ、あれがラーノ?」

「ん。」

「ラー油みたいな響きしてスイカで来るの止めて欲しいわぁ…」



 たまに独り言ちながら探検する私に、みんなもなんだかんだ楽しそうな生き生きとした顔でついて来てくれる。

 異世界転生で覚えることも沢山ありそうだけど、それ以上に滅茶苦茶楽しくて充実していて、本当に天国みたいだと思った。

 しかし、天国がグレードアップするまでに、然程時間はかからなかった。



「……えっ」

「…あ、もしかして姉様、ヨグの実知らない?」

「よぐのみ……」



 口元が僅かに引き攣る。

 私の視線の先には、赤黒く、紫のオーラを放つ、禍々しい心臓の形をした果物があった。

 私は残念ながら珍味に惹かれるタイプではない。しかし…、しかし、見た目がどれだけ毒々しかろうと、生命の危機を感じようと、私はれっきとした異世界エンジョイ勢。

 折角見かけた異世界珍味…、惹かれなければ失格というもの‼



「…うぐ…っ。気になる…気になるけど…!アレ、本当に食用…?」

「わたくし達の食卓にも並ぶわよ。デザートとして」

「……マジかよ」



 翼が居れば『マジだよ』とニヤニヤしながら言ってきそうなシチュエーションに、ぎりっと奥歯を噛む。


(いや、え?あの毒素を凝縮したようなヤバそうなヤツ、出てくるの?見たこと無いよ?)



「…え、てか抵抗無いの?」

「ん…?まあ?」

「ないのかぁ~」



 意外にこの世界の人類は鋼メンタルなのかもしれない。

 そんな新事実に気付いたような気がする私だが、今度は味が気になって仕方なかった。


(どうしよう…前世で大好きだったアロエとかナタデココだったら…うう、食わず嫌いは良くないって言うしなぁ……。……え、でも…、なんか人の顔みたいなのが浮き上がってて『ギャアアアア‼』っていう声が聞こえてきそうなホラーな顔のやつを食べるの?…いくらなんでも…うーん……)


 完全に尻込みしている私を見て、顔を見合わせる四人。居た堪れなくなりつつも、それでもまだ踏ん切りがつかず、私は深呼吸をする。



「大丈夫…女は度胸…死ぬわけじゃない、死ぬわけじゃないから大丈夫…それにレオに格好悪いところ見せる方が問題だから…そう…そうだよ…万が一死んでも…ふふ……」

「…君、アレを何だと思ってるの」

「爆弾」

「…」



 そんな時だった。

 恐怖の心臓の隣に、ピカーっと光り輝き、ニコニコとした笑顔を浮かべた健康な心臓が入荷されたのは。



「いや毒々しくなかったら良いって訳じゃないからね⁉顔!顔あるから確実に‼」

「おっ、嬢ちゃん買ってくかい?」



 今の私の何をどう見たらこの恐怖の果実二個を買いたそうに見えるのかはさておき、豪快な笑顔を浮かべる店主に、私は切腹の想いでこう言った。



「…一個ずつ、お願いします…‼」

「はいよー」



 その瞬間、リズとぷよ丸以外の全員がハモった。『買うんだ…』と。

 その時、視野が狭くなっている本人は、こういうのを最高に喜んで爆笑しそうな親友のゲラ笑いを想像しつつ、心の中だけで言い訳をしていた。


(だって!だってさ…!後ろで見てるレオに格好悪い姿なんて死んでも見せられないじゃん⁉それに私異世界エンジョイガチ勢名乗ってるし!そんなの私のやっすいプライドが許さないっていうか‼)



「おまちどー」

「…ありがとうございます、お兄さん」

「いいってことよ!おまけに試食用つけとくからな!また来いよ~!」



 店主のお兄さんは、とても、とてもいい人だった。ただ、店の商品の見た目が終わっているだけで。

 お兄さんから袋に入れられた二つの果実を受け取ると、私はぐったりしながらレオと手を繋ぎレオ成分を補給した。精神的ダメージをがっつりと食らったため、精神が切実に癒し成分を欲していたのだ。



「…よし!じゃあ次行こうか!…ってあれ?レオ、どうしたの?顔真っ赤だよ?」

「……何でもないよ」



 約一名の羞恥心が、リズのSAN値回復の犠牲となったとは知らずに、能天気な異世界エンジョイ勢は次なるスポットへと足を運ぶのだった。

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