138.RTA②
それから、疫病への対策が、殆ど異次元の速さで行われた。
殿下とヴィンセントは、あれから一日で特効薬を作り上げた。
また、殿下やヴィンセントの指示で、注射器と特効薬が、掻き集められた魔導士達によってコピーされまくり、疫病の報告から二日目で、もう準備が終わりつつあった。
だから今度は、医療機関総出で、患者を集め、特効薬を打ち込む段階に移行した。
が、それも、殿下とヴィンセント、そして各指導者達の見事な采配によって、問題なく進行した。今では、新聞で大々的に殿下と、そしてヴィンセントの活躍が広められ、「終息も間近」だと言われるまでに……。
(問題は、私になんの役目も回って来ないってことくらい……)
私は、医療機関の手伝いが出来る、と殿下達に言ったものの、参加させてはもらえなかった。万が一にでも移れば困る、と言われ、あとは軽く手本を見せただけで家に帰された。
(いや、二人の気遣いなんだろうし、今回の事件は、なんとしてもヴィンセントに注目を集めたいってのはわかるんだけど……。うーん暇!)
暇すぎた。
それに、親友達がもしも今危ない目に遭っていたりしたらと思うと、居てもたってもいられなくなる。というか、危ない目に遭っていなくても、親友の手を煩わせるようなことを手伝えず、見ているだけなんて。
本当に無理。無理寄りの無理‼
……そして。
そうしている間に、本当に事件は解決してしまった……。
「私の……私の出番があ……‼ってかマジ?私の親友優秀過ぎない⁉」
「姉様、どうどう。ほら、ボクといっぱい一緒に居られてよかったでしょ」
「それはそうだけど!あー、もう!早く二人のところに行きたい!今行っても意味ないけど…!」
「姉様~?浮気?」
「浮っ……、違うよ⁉」
「へー、ふーん。ボクより二人がいいんだ。ふーん」
「もう、レオ~……。……ね、王城に行く許可が下りたら、一緒に行こう?」
「むぅ。元からそのつもり」
そう言うと、すぐに二人の元を訪れる許可を貰いに、手紙を出した。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
「で、手紙を出したら、なぜかパーティに呼ばれたと……。いや何で⁉」
「リズも説明受けただろ?重大発表があるってさ。きっと、そのあとで俺らと話したいんだろ」
「そうだね。何か考えがあることは間違いないんじゃない?あの兄弟のことだし」
グレンとアレクにそう諭される。レオも、そうだと言わんばかりに頷いていたし、ビアンカも「どうどう~」と先日のレオのようなことを言っていた。
「それにしても、重大発表って、やっぱり……」
「確実に、アレのことだろうね。どう決着が着いたんだか……」
黙って俯く。
(……二人の話だと、ヴィンセントが王位に就くってことだよね?でも、そうしたら殿下は……。まあ、気ままに人生を歩んでいくんだろうけど……)
未来への不安が、募る。
丁度その時、見計らったかのようなタイミングで、殿下二人が出てきた。
発表があるのだろうと、みんなそちらへ注目する。
「……皆。このような苦境を抜けたばかりの時に、集まってくれたこと、心より感謝する」
殿下が、落ち着いた声で話す。
「こんな時ではあるが、いや、こんな時だからこそ、皆に、重大な発表がある。――それは、王位継承権のことについてだ」
貴族達が、どよめいた。
「この事件が起こる前も、そして起こってからも。私達は、競い……そして、話し合った。ただ真向からぶつかるだけでなく、私とヴィンセントが、王位に就いてから、どうしたいのか」
貴族達が、会場の全員が、殿下の声に魅入られたように静まり返る。
そんな中、殿下は力強く言う。
「そして、決めた。――私は、いや、私達は、共に王となり、共に宰相となる」
(……えっ?そ、それってどういう……⁉)
私も、アレクやグレン、ビアンカやレオと顔を見合わせる。
「…少し、私が話し過ぎたね。だから、次はヴィンセントに譲ろう」
「……ありがとうございます、兄上」
そう言って、ヴィンセントが前に出て来る。
あれだけ今回の事件で活躍したヴィンセント。しかし、まだ彼に向ける視線が厳しい人も居た。
それでも、毅然とした様子で、ヴィンセントは立ってみせた。
「…今兄上も言ったように、オレ達は、共にこの国を支えていきたいと…そう思った。オレは、ヴァンパイアだから、側室の子だからと、存在だけで忌み嫌われてきた。だからこそオレは、そんなこの国を変えたいと思ってきた。……そして兄上は、王太子有力候補として、オレとはくらべものにならないほど暗殺未遂をされてきたからこそ、王位から離れたいと、強く思っていた」
「え、それを言っていいの…⁉」
「姉様。…きっと、大丈夫」
「だから兄上は、オレのために、王太子になるためと称して争ってくれた。オレが、兄上に打ち勝ち、民衆の、貴族の支持を、盤石なものと出来るように。でも、兄上は優秀で、オレも政治には長けている。ただ、それぞれの理想を叶えられる方法が、なかなか見つからなかった」
ヴィンセントの声が、心に響く。
「けれど。この方法でなら、出来るんじゃないかと、そうオレ達は考えた。オレは国王という立場、兄上は宰相という立場に収まり、業務を分担しつつこなしていく。……これを聞いて、問題が出てきてしまう、そう考えた人も少なくないと思う。けれど、オレと兄上は、こんな体制にするからにはと、沢山の対策を考えてきた。それは、後々、各家に通達する予定だ」
(そんな、ことが……)
私は、驚きに、ただただ目を瞠っていた。
「このことは、父上の了承を得ている。だから、オレは次期国王であり、兄上は次期宰相となる。意見は問えない。今この場、この瞬間に、このことは決定する。……兄上を国王にと、推していた人達も居るだろう。その人達の意見を聞くことはできなかった。けれど、オレは、今回の疫病で、オレ達が二人で国を動かすことの意味を、理解して貰えると思っている」
ヴィンセントは、そう言うと、少しだけ強張っているように見えた顔を柔らかくしながら、殿下よりも一歩下がった。しかし殿下は、くすくすと笑いながら、ヴィンセントの背をとんと押し、二人で並び立ったのだった。
――そして、わーっ‼‼‼と歓声が上がった。
「素晴らしいわ!」
「聞いたこともない試みだが、功績は確かだ!」
「フレデリック殿下が居ると聞いたら、安心せざるを得ないしな」
「ヴィンセント殿下の理想も、私には共感できるし……!」
「わ、わあ……。凄い、手のひらを返したかのような熱気……」
「そう見えるけど、実際には、多くの人が迷っていて……、そして、二人の努力が実を結び、多くの人々がただ納得した。意外と、それだけなのかもね」
アレクに言われ、それもそうかと思い直す。
手のひらを返した人も居るだろうが、二人の功績、相性、そして未来に希望を持った人は多いはずだ。本心から、二人を支えたいとも。
(ま、ヴィンセントが「手のひら返されたみたいでいやだった」って言ったら、絶対後で何かしらの報復はするけどね‼)
ふんす!と鼻息荒くそう決意する。
するとその時、歓迎ムードの貴族の中から、唯一つだけ、ひび割れるような怒声が聞こえてきた。
「な……っ!馬鹿なことを‼なぜ誰も、汚らわしいヴァンパイアが、それも不貞の子が王位に就くのを止めないのだ‼‼」
その声は、最後の波乱を予感させるものだった――。
長文が続きましたが、作者的にはいい話になったと思ってますので許して下さい(汗)




