137.RTA①
「とにかく、これで証明は出来た……。なら、私はこれを魔法でコピーしまくります。殿下達は、薬を作るのにかかりっきりになりますよね?」
「そうなるけれど……。リズも、一旦休んだ方がいい。注射器をコピーするだけなら、城の魔導士達にも出来るからね」
当然のようにそう言う殿下に、私は少し驚いた。
殿下は、スローライフとかなんとか言っているけど、王子である限り、恐らく国のことを一番に考え続けるからだ。
「ですが……、私が居た方が、効率が上がると思いますよ?」
「ふふ。私が国を第一に考えると思って、意外だったかな。けれど、有能な人材を使い潰してパフォーマンスを下げず、適材適所に人材を振り分けて行くという意味では、これも必要なことなんだよ」
「だから安心して休んでおいで」と、殿下は優しい笑みで言った。
しかし、親友達をフォローするのに、使い潰すも潰さないも、ないのである。
「ですが殿下。私は今日まだ、会議と発明くらいしかしてません‼」
「本当に十分なんだけど……」
「そんなっ⁉戦力外通告⁉」
「そんなことはないけど、ここで兄上と作業するから、アレクシス君と二人で外に出ててね~?」
「遠回しが一番辛い」
「ほら。殿下達にそう言われてるんだから、行くよ」
「くっ……こうなったら、城の中で職場を探しますから‼」
そんなこんなで、捨て台詞を吐いた私は、アレクに引き摺られながら部屋を出た。
「はあ……。全く。もう、君は家に帰ってて」
「絶対帰らない。コピーを手伝っちゃうんだから!」
「城の中で好き勝手出来る身分じゃないでしょ。王女でもないんだし」
「うぐぅっ……‼それはそうだけど…」
アレクの言うことに、ぐうの音も出なかった私。しかしそれでも、無性に動きたくなるときがあるというか、まだ動きたりないような感覚がするというかで、私はそわそわと、次は何を手伝おうかなと考えていた。
現場に行けば、沢山仕事があるだろうし。あの有能な二人のことだから、薬もすぐに出来るだろう。そうしたら、魔法で転移して、各地に届けるなんていうのもいいかもしれない。
(でも、今出来ることってあんまりないな~。あ!家に伝えに行くとか?あとは、やっぱりこっそりと魔導士さん達に手伝わせて貰うとか……。こういう時のために、顔繫ぎだけはしっかりしておいたしね!)
そうと決まればと、私は勢いよくクルっと振り返り――、超絶ダッシュをして逃げようと思ったその時。首の根っこを、優しく強く掴まれた。
「ちょっと。君……、何しれっと方向転換しようとしているの……??」
「アー、チョット野暮用ヲ思イ出シテー」
「なわけないでしょ」
「ホントにあるかもしれないじゃん⁉な訳なくはなくない⁉」
「ちょっと何言ってるかわからない…」
いつも通り呆れつつ、ガッツリ拘束してくるアレク。
そのまま、またアレクに引き摺られていた。
しかしその時、ふと、私の口をあることが突いて出た。
「……そういえば、さっきの殿下のことなんだけど、やっぱりなんか変じゃなかった?」
「どこら辺が?」
「なんていうか、こう……。もうちょっと、容赦なく人を使うのかと思ってた」
誤魔化すように「あっ、悪い意味じゃないよ⁉」とフォローを入れると、「わかってる」と短く返された。
「まあ確かに、殿下はよく容赦なく人を使うけど……」
「けど……?」
「その人にとって、休んだ方がいい時は、本人がどれだけ言っても休ませる人だよ。君も知っての通り、僕より僕を、君より君を知ってるような人だから」
「……そっか……。つまり、殿下は超絶優しい人、ってことか」
「君、親友のこととなると、とことん甘いよね」
そう言いつつも、アレクが否定しないところを見るに、アレクも同じように思っているらしい。全く素直じゃないなと思いつつ、私は、殿下の「器用なようで不器用な優しさ」に、くすくすと温かい笑みをもらすのだった。




