135.疫病終息RTA
「治せるって……」
「古くから知られてる通り、ヴァンパイアの『吸血』は、酩酊感を与え、相手を短時間、半ヴァンパイア状態にする。でもそれは、別のヴァンパイアの吸血で中和出来る」
「…でも、それって、一人一人に吸血をしに行かなきゃならないってことなんじゃ……。病気はもう爆発的に広がってるし、国中のヴァンパイアを掻き集めても、感染スピードの方が速いよね。それに、病人への吸血は、ヴァンパイア側、病人側の両方が危険に晒されるって、前、本で読んだことあるし…」
「……ふふ、大丈夫だよ、リズ。そこは私が、両者に光魔法をかけて、病魔に罹る前に浄化するさ」
「兄上……」
「私も、折角夢のごろごろスローライフを叶えられるチャンスだからね。出し惜しみはしてられないよ」
「殿下まで……」
私は、『リズはどうする?』というような二人の視線を受けて俯いた。
私が止めても、二人は多分、本当にやりに行ってしまう。それでもし、二人を失うことにでもなったら……。
「極刑過ぎる…」
「…ん?」
(ってことは、もう私も、全力でやるしかないか…)
私はぐっと腹を括ると、「…私もやる」と二人に言った。
「ただし、二人にそんな危険な真似は絶対させない」
「リズ、一瞬で矛盾したけど…」
「大丈夫。ところで、ヴァンパイアの吸血の成分って、抽出できる?」
「抽出?そうだね、出来なくはないかな…」
「液体状にも出来る?」
「?……そう、だね」
「じゃあ、私、『注射器』を作るから。二人は、吸血の成分を抽出して、液体状にしてから浄化して」
私がそう言うと、二人は「チューシャキ?」というような顔で固まった。
実は。この世界、魔法に結構頼っているせいで、異世界あるあるらしく、医学があまり進歩していないようなのだ。そのため、『注射器』もまだ生まれていなかった。
私は、二人に注射器の説明をすると、二人共、「それなら確かに」「でも流石に時間がなさすぎる」と言った。
「それに、リズ。もし作れなかったら、作った分も時間も無駄になるんだ。新しいものを一日で開発するなんて、とてもじゃないけど無謀だよ」
殿下に、軽く突き放すようにそう言われる。
だが、構わない。
「では、この会議室にアレクを呼んで、魔法でサポートをしてもらいながら、これから目の前で作ります。それで証明しますから」
「…これから、目の前で?」
「はい。目の前で」
じっと見つめてきたので、私も無言でじっと見返す。
それから少し空いた後、ふっと二人が笑った。
「まあ……そう、だね。いいよ。今は派閥を気にしている場合でもないし。では、早速こちらから、エヴァンス公爵家に連絡するよ」
「お!流石殿下、ありがとうございます!」
それから五分後。
連絡も魔法、移動も魔法(転移魔法)だったので、恐ろしいスピードでアレクが到着した。
「……君、僕のことを何だと思ってるの?こんな時間にいきなり呼び出すなんて……」
見てみると、八時を回っていた。
……でも、何となく嬉しそうだ。私も、久しぶりにアレクとゆっくり話せそうで、そりゃあもう嬉しいけれど。
殿下とも、久しぶりに真面に顔を合わせられたのか、とても嬉しそうだった。
ヴィンセントとは、まあ何かの取引があったのだろう、僅かに距離があるようだった。しかし、ふるふるとヴィンセントが首を振ると、不思議そうな顔をしつつもどこかほっとしていた。
そんなアレクを早速借り、作業スペースへ案内しつつ軽口を叩く。
「そういえば、不満そうに『こんな時間にいきなり呼び出すなんて~』とか言う割には、随分お早いご到着だったよね?転移魔法まで使ってくれちゃって」
「……今から転移魔法で帰ろうか?」
「待って?お願いだから魔法陣を起動しないで⁉」
「はあ……。それで?僕は何をすればいいの?」
「『チューシャキ』を作ればいいの」
「『チューシャキ』?」
「そう!形自体は私がイメージするから、魔力を安定させておいて欲しくて。あと、仕上げで、性能を魔法で補強するから。ほら、私ってそういうの、ほんのちょっとだけ苦手だからさ」
「ちょっと?かなりの間違いでしょ」
「まあまあ、そんなことはどうでもいいから。よーし、じゃあ気合入れて行くよーっ!」
「…はあ、全く…さっさとやるよ」
そうして、私達の疫病終息RTAは始まった。




