134.解決策
「……じゃあ、計画としてはこうなるかな。先ほど話した通りの根回しを行った上で、ヴィンセントが、わが国と国交のない異種族国家との交易を取り付ける」
「できるだけ強国かつ、こちらに有利な条件を付けられると、益々権威を示せますから……。やっぱりガナール国狙いでいきますか?」
「そうだね~。比較的勝率も高いし、ここの貴族達も少しは静かになりそうだし。早速、明日くらいから動き出して……」
人目をできるだけ偲んだ会議は、滞りなく進んでいた。
「よし。では、私はこれからそれに向けて準備をしてくる。あとのことはまた追々」
その時。
殿下の影が、不意に姿を現した。
しゅんっと跪く影を一瞥もせず、殿下は連絡を聞く。恐らく二人にしかわからないだろうやり取りをすると、すぐに影は消えてしまった。
「……殿下?」
珍しく、眉間に皺を寄せる殿下。
「兄上、何か問題でも?」
「……ああ、そうだね。それも、王位継承争いをしていられないほどの、大問題だよ」
「え……」
私とヴィンセントが顔を見合わせる。
殿下は、そんな私達に、苦い顔で言った。
「……国内の各地で、正体不明の疫病が蔓延している……らしい。それも……、昨日、急に各地で発生し始めた」
「はい⁉正体不明の疫病⁉なんだって、こんな時に……」
「兄上、それが十中八九、人為的に引き起こされたものだとして……。昨日、急に発生し始めたって…?」
「各地に派遣している連絡係からのもので、よくわかっていないらしい。ただ、どこも混乱状態だそうだよ。仕方なく、隔離しているとの情報があったけれど、完全に隔離しても、接触していないのに発症しているとか」
「国内が混乱してる時に、誰かがばら撒いたんだろうね。それも、恐らく魔法で」
「夢と希望の詰まった魔法で悪行を働くだけに飽き足らず、私の親友達にまで迷惑をかける輩がいるなんて……ッ!クッソ…殺s」
殺意をうっかり漏らすと、殿下とヴィンセントの影に一斉に警戒されてしまった。
「んんっ。……それはそうと、どうします?王位継承争いは一旦中断して、まずは疫病の終息に努めた方がいいと思いますが……」
「そうだね。間が悪いとしか言いようがないけれど、正体不明の疫病の終息は急務だよ。ヴィンセントも、それでいいかな」
ヴィンセントはそう問われると、少し考え込んだ。
「……兄上」
「うん?」
「先ほど、接触していないのに発症したと言いましたよね。他に特徴は聞いていませんでしたか?」
(引っかかったところがあるのかな。まあ、ヴィンセントにとっては、一世一代の大勝負に水を差されたも同然だもんね。でも、それにしては何か……)
「まあ、少しくらいは聞いているよ。例えば、酩酊状態に近いとか、顔が紅潮するとか……」
「その他に、少し歯が鋭くなったりは……」
「ああ、あったよ。まさかヴィンセント、何か心当たりが?」
冷静に見返す殿下に、ヴィンセントは、しっかりと視線を絡ませながら言い切った。
「これは恐らく、人為的に開発された空気感染の疫病です。そして、オレのような、ヴァンパイアの『吸血』を利用したもので――オレなら、同じヴァンパイアなら、中和が出来ます。つまり――」
ヴィンセントは、ひと呼吸置いてから告げた。
「――オレは恐らく、この病気を治せます」




