131.VS殿下
ほら早く、と玩具を強請る子供のように、殿下はこちらを見つめている。
なんというか、期待の眼差しが痛い……。
(そもそも、私、探偵じゃないんだけどなあ。某謎解きアニメで、一度も当てられたことがないくらいだし……)
私は、ううむと考え込む。
(レオと見つけたヒントは……)
孤児院に支援している。大貴族を味方に付けている。
これらから、明らかに王位へは前向きだということ。
殿下は内気な時代があって、ある日を境に変わったこと。
そしてその幼いころには、毎日のように暗殺者に付け狙われていたこと。
……それくらい。
(え?これから何を推理しろと?)
「……楽しみにしているからね」
「……やめて下さい」
私は、再び思考の海に戻る。
粗探しをするのと似たような感覚で、私は、何か見落としがないかを隈なく調べる。そこで、ふと頭に疑問が湧いてきた。
「……あの、殿下。恐れながら、殿下は小さい頃、恐ろしい目によく遭っていたと聞きました。そんな目に遭ったのに、ある意味で危険な王位から遠ざかるのではなく、近付こうとしているんですか?怖くは……ないのですか」
「怖い……、か」
顔を上げて、殿下を見る。
すると、とても楽しそうな笑みを浮かべた殿下が目に入った。
「怖いよ」
「怖いんですか?」
「君の言った通り、何度も何度も……、本当に何度も、危ない目に遭わされたからね。この、王太子に最も近く、尊い身分のおかげで――」
「……」
つい目を伏せると、気にしないでというように、殿下はからっと笑う。
「だから、怖いよ。そして、私は王位に近付こうとしてるわけじゃない」
「あんなに精力的に、方々へ働きかけているのに?」
「そう。それに、弟には恩もある。闇雲に争いたいわけではなくてね」
「恩……?それと、争いたいわけでもない…」
私が訝しむと、手を組んで、肘をテーブルの上に乗せ、その組んだ手の甲に顎を乗せた。
「そこまで来たら、もう答えは見えていると思うよ。君なら、すぐに当てられる」
「私ならって……。ちょっと買いかぶり過ぎじゃないですか、殿下?私、推理は得意じゃないんです。でも、そうですね…」
ちょっとだけ考える。
ほぼ確信している答えを、もう一度確かめ、勇気を出すため時間を使う。
そして、ぐっと覚悟を決めて、殿下を真正面から見た。
「…もしかすると、殿下は、王位から逃げようとしているんですか?」
「……理由は?」
「私なら、到底考えられませんけど……。いや本当、考えられない作戦ですけど――」
そうして、私は考えを語り始める。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
本当に、ぱっと思い付いたものですからね。
まず、殿下が、「もう暗殺者に襲われたくない」、「こういうところとは無縁のところで生きたい」、そう思っていると仮定します。
ただ、殿下はエルフという、尊ばれる種族の生まれ。
正妃様からお生まれになり、側室様はご逝去されている……。
誰がどう考えても、次期王に相応しいのは、殿下です。
いえ、相応しいというよりは……、条件的に、殿下しかいない、なんて考えられているかも。
…おまけに、悲しいですが、ヴィンセントはヴァンパイア。
ヴァンパイアという種族だけで、ヴィンセントを忌避する人は沢山います。
それに、彼は政治に秀でているでしょう?だから、「王ではなく宰相でもいいはずだ」と考える層も、一定数いるのです。
もし仮に、殿下が王をヴィンセントに譲りたくても、そう簡単にはできない状況になっている……。
だからこそ、殿下は、これから私に取引を持ち掛けるつもりなんです。
そう、私とヴィンセントと一緒に、ヴィンセントを王位に就かせるための。
殿下が強ければ強いほど、殿下を倒し、王位に就いたヴィンセントは”強い”とされる。そうすれば治世もある程度安定するでしょうし、あとはヴィンセントの持つ手腕で十分どうにかなる。
まあ、その先殿下がどうしたいのかはわかりませんが……。
ここまで手厚いフォローをしたいと考えるほど、ヴィンセントに恩があるなら、きっと、少しは手伝っちゃうんでしょうね。
……それで、どうでしょうか、私の推理は。
これから一緒に悪だくみをする、そういうことで、合っていますか…?
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
「…はり」
「殿下…?」
「やはり……、私の目に、狂いはなかった……!ああ、大正解だよ、リズ。よく見抜いてくれた…」
「えっ、と、え?」
急にガシッと手を掴まれる。
「じゃあ、これからは心置きなく、私の……悠々自適な隠居ライフのために、…じゃなかったね。そう、弟の輝かしい未来の為に、尽力して欲しい。頼めるかい?」
「…は、はい。が、頑張ります……。……ところで、悠々自適な隠居ライフって」
「では、早速作戦を練ろう。とびきり効果的なものを作って、貴族の鼻を明かしてやろうか」
そうして、若干変になってきた殿下との交渉が成立した。
予想外の結末で、対殿下は終わりを迎えたのであった……。
伏線とか推理系が苦手な作者です。
でも入れたいと思ってしまう、そういうときってありませんか?
ですから……ちょっと下手だったかもしれませんが、ここまで見て下さりありがとうございました!




