表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界エンジョイ勢は無自覚逆ハーレムを築く  作者: ごん
王位継承争い編 /学園編
137/142

128.そっか


「……そう、なんだ」

「うん、そうだよ」



 ヴィンセントの赤い目が、私を捉えて離さない。

 私は、居心地の悪さを感じて、そっとカップを置いた。


 ……胃の中をかき混ぜられるような、不快感がした。

 これからいわなければならないマニュアルを前に、私は、ただ途方に暮れていた。


(言わなきゃ、ダメだって。そうじゃないと、お父様もお母様も、レオもリュカ兄様も、領民だって危険に晒すことになる。でも……、なら、ヴィンセントの味方には、誰が……)



「……」

「……」



 優雅に紅茶を飲むヴィンセントの横顔は、友人の私でも見惚れてしまうほど綺麗だった。

 芸術品かと見紛うほどなのに、これを以てしても、”生まれ”は覆せていない。



「………」



 黙りこくる。

 でも、元から私には、一つの選択肢しかない。

 …いや、私が一つにすることを望んだ。中立派であり続けるという、とても卑怯な選択肢だけを見ることを。



「ヴィンセント…。…ごめん、やっぱり私、……私だけの判断じゃ、変えることは」

「じゃあ、交渉してよ。交渉くらいなら出来るでしょ?愛娘からの直訴、流石にあの公爵閣下だって無視しないはず」

「……っ」



 そんな私を見て、ヴィンセントは、どんな顔をしていたのだろう。

 もう私は、顔を上げられなくなっていた。


(あんなに、親友を守るって大見得切って……とっても、とっても格好悪い……。でも、どちらかに付いたら、どちらかを捨てなきゃいけなくなる……)


 カチャリ、と再び、カップを置く音がした。



「……そっか」

「……!」



 突き放すようなその言葉に、私は、暫く息が出来なくなった。

 ぐっと、喉の奥に石でも詰まってしまったみたいに。



「わかってはいたけど、やっぱり難しかったかあ」

「……」



 その言葉が、何かとても虚しくて、今からでも味方に付いてあげたくなる。ただ、失うもののことを考えて臆病になる自分が居た。

 そんな私に、一言だけ、ぽつりとヴィンセントは言う。



「じゃあ、もう共犯者でもないね」

「――ま、ヴィンセン」

「共犯者でも、親友でもない。ただの立場の弱い男を、名前で呼んだら、それこそ君までイジメられちゃうよ?レイナー公爵令嬢?」



 …心に、冷たい風がひゅるるるっと吹き込んでくる。

 寒々しい響きに、頭が真っ白になった。



「あ、待って、違う」

「何が違うの?」

「……ごめん。取り乱した……違わ、ない」

「………ま、そ~だよね?じゃあ、今日はありがとう、お茶、楽しかったよ♪」



 私は、使用人に案内されて、さっさと帰ってしまった友人の、背中も見ることなく、その場で、吊られた人形のように項垂れていた。



 ♦ ♦ ♦ ♦ ♦



 暖炉の火が、パチパチと音を立てて燃えている。

 真っ暗の部屋の中、私は、暖炉の横で蹲るようにして、膝を抱えていた。



「……リズお嬢様、お食事は」

「……要らない」



 気の利いたことも碌に言えない。

 自己嫌悪が更に深まっていく。

 主人に言われては、何も出来ないだろう侍女三人は、「承知しました」と、敢えて触れずに居てくれた。三人共、本当は気になっているだろうに。


(それにしても――)



『最近は、心が病みそうになることもあってさ。いつもいつも、リズの顔を思い出してた』

『……これから、オレ達は、共犯者で親友。…だったら、これもいいよね?リズ?』

『…はは、ほんとに君には敵わないな』

『……もしかして、オレのこと、心配して…来てくれたの?』



 服に、いつの間にか、いくつものシミが出来ていた。それは服を濡らしていた。



『じゃあ、もう共犯者でもないね』

『共犯者でも、親友でもない。ただの立場の弱い男を、名前で呼んだら、それこそ君までイジメられちゃうよ?レイナー公爵令嬢?』



 そこまで思い出した時、ふと隣に人の気配を感じ、僅かに首を傾けて確認する。

 するとそこには、静かに暖炉の火を眺め、火にあたたかく照らされている、レオの横顔があった。



「――」



 それから私達姉弟は話し合い、決断することになる。これからの指針、目標を。

 しかし、今はまだ、私達は、冷えた心を、じんわりとした暖炉のぬくもりで癒していた。

最近シリアス展開が多すぎる‼と嘆いた作者です。

流石に胃もたれしてくる頃ですよね!うんわかります。

しかも、ヴィンセントの鬱シーンが多いだと…?


ということで、次回は軽めの閑話を入れようと思います。

また、翌日15日はお休みし、閑話の投稿は16日になります。

楽しみにしてくれていた方はごめんなさい!

16日にお会いしましょう!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
私はシリアス展開になり嬉しいです!!!!!! シリアス大好き!!!!! シリアス続けてくださると嬉しいです!!!!!! シリアスではなくても大丈夫ですよ いつもシリアス展開になりありがとうござい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ