126.姉弟でヒント探し
「……あ~っ…ダメかぁ……」
手に持っていた書類を、ばさっと机に落としてしまう。
そして、ソファで同じく書類を読み漁っていたレオが「だね~」と疲れたように言った。
私達姉弟は今、殿下について、あの手この手で探りをかけていたところだったのだ。
影やラピス、お父様にお母様、たくさんの優秀な人達に協力をしてもらったが、得られる情報は限られていた。
「ハァ……。あの王子が王位継承に本気だってことなんて、わかりきってることなのにー」
「レオ、もうちょっと発言を考えて…」
「だって、知ってる情報ばっかりだし。孤児院に支援してるとか、大貴族を取り込んでるとか……、とにかく似たようなのしか出てこない!」
「それほど情報統制されてるんだろうね……」
「「はあ…」」と揃って溜息を吐く私達。
「でも、一つだけ、気になるのはあったよ?」
「え?どんなの?」
私は、子犬のように寄ってくるレオに、ある紙の一部を指さした。
「何々?…『殿下は昔内気な子供で、十歳のお誕生日、国王陛下とご歓談された時を境に明らかにお変わりになられていた。前宰相閣下からの証言』…?って、絶対姉様、『内気な殿下』が気になっただけだよね?」
「あはは、バレたか。だって~、内気な殿下なんて想像付かないじゃん!それに、幼少期の殿下は、それはもう可愛かった……はずなんだから!うろ覚えだけど!」
「え?姉様、ボクが居るのに…」
「レ、レオ君とは別枠!それにさ、考えてもみなよ。そんな天使な殿下が、国王陛下や王妃殿下の後ろに隠れて、もじもじしてたりしたら……ギャップ過ぎない?だって、あの殿下だよ?いつも不敵な笑みを浮かべてるし、考えは一つもくみ取らせてくれないし、社交的で怖くて、内気とは対極に居るような殿下だよ⁉そりゃあ気になるよね‼」
「……まあ、ボクも殿下の情けない幼少期って意味でなら気になるよ!何々?姉様、もっと詳しい情報ないの~?」
天使枠を奪われたと思っているのか、レオ君が拗ねている。とっても可愛い。若干目が怖いけど。
そんなレオ君を見ながら、「うーん、そうだなあ」と呑気に私は考える。
「……じゃあ、調べてみる?勿論!調査って名目で!」
「もー、姉様、ワルいよ?じゃあ、影、よろしくね!しっかり、がっちり調べて来てよ…?」
その瞬間、部屋に居た影の気配が、すっと消えた。
「うん、行ったね」
「それにしても、姉様、余裕あるの?」
「………あー、まあ、…やっぱり、今日だけでやめにしよっか」
「ふふっ。姉様、せめて何か一つでも、新しい情報が出てくるといいね~っ」
いつの間にか、若干ドS気質に育った弟を眺めつつ、私はちょっとだけ反省した。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
「…それで、なんであんなふざけた命令で、こんな美味しい情報が出てきたのか…」
「やったー!わーい!見てみてレオく~ん!たからのやまだ~~~っ」
「よしよし、よかったねー姉様~」
ポンポンと何気なく私の頭を撫でるレオ。
ちなみに、ラピスとアンナにすぐ睨まれてから、その手はすぐ止まった。
「それにしても、ラッキーだったね!」
「ボクもビックリ…。特大の情報が出てきたよね。まさか――」
レオが、資料を見ながら言う。
「――まさか、殿下は幼い頃、毎日のように暗殺者に付け狙われていたなんて」
暗殺者。
その名の通り、暗殺をするための者。
その多くは雇われて仕事をするが、手練れ揃いの業界だ。
「それに、一度殿下は、二週間も失踪していたんだもんね。それも、十歳になる前に」
「森から出てきたところで、近くの街に辿り着けたらしいけど、相当運が良くないとまず助からなかったって話だったし……。思ってたより、危険な人生だったんだって思ったな」
しみじみと、レオが言う。
レオから、こんなに珍しいリアクションを引き出すほど、それは衝撃の情報だった。
「だって殿下って、この国ではとっても好かれてる種族のエルフだし、物心ついた時には、みんな口を揃てて、『殿下は完璧!』って崇めてたから……。てっきり、生まれた時からそうなんだと思ってた」
「だね。……でも姉様、これって、今回何か関係があるのかなー。確かに、内気な子供になった理由とかには当てはまりそうだけど」
「うーーーん……」
それから、私達は、顔を見合わせ、うんうんと唸りながら、あがってくる情報の精査を続けた。
全ては、殿下の狙いを見抜くために。