表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界エンジョイ勢は無自覚逆ハーレムを築く  作者: ごん
王位継承争い編 /学園編
134/139

125.交錯(ヴィンセント・アレクシス・グレン・フレデリック視点)


 足元が、ふらつく。

 オレは慌てて壁に手をつき、ぐにゃりと歪んで見える視界を誤魔化した。


(……ただでさえリードされてる状況下。一瞬たりとも気は抜けないのに…)


 いけない、いけない、と意識をしっかり保つ。

 そして、再び歩き出した。


(権力のある家からの後ろ盾が必要だ――とりあえず、一つ一つ、公爵家や侯爵家あたりをまわってみるしかない。今日約束しているのは、確かチャムレー公爵家だったはず。情報も既に仕入れてあるし、取引も公爵家に旨みのある話だ、成功率はとても高い)


 ほんのりと口角が上がる。

 失敗続きだったのが、結構堪えていたらしい。


(少なくとも門前払いはされないはず。……その後は、時間が許す限り、近隣の大孤児院への寄付と視察に行く形になる……でも、これも成功率は高そうだな。困窮していると聞くし、オレなら十分上手くやれる)


 そうして、作戦を練りつつ、足を動かし続けた。



 ♦ ♦ ♦ ♦ ♦



「その結果が――()()、か」



 ダンッ‼‼と、壁に拳を打ち付けた。

 ひりひりとした痛みと、赤くてどろっとした液体が滲み出てくる。


 寄付と視察を兼ねて孤児院に行けば、子供達に「わるい”まもの”だ!あっちいけ‼」と追い払われ。

 公爵家に行けば、「協力?あの女の息子というだけで嫌よ」と嘲笑を浴びた。


 熱を帯びる心に、しかし、使用人の事件から養われた冷静さが、凍り付きそうなほどにそれを冷ましていく。そして、思考はすぐに、どうやって遅れを取り戻すかというところに向いた。

 だが、それも一秒で終わる。なぜなら、次の手を思い付いたからだ。



「…ああ、そうだ。公爵家なら、あそこがある。――そう、()()()()()()()()なら」



 ♦ ♦ ♦ ♦ ♦



「じゃ、考えといてね♪」

「……わかってる」



 そうして、機嫌良さそうに第二王子殿下は帰って行った。

 一人残った僕は、自邸のガゼボで、「はー……」と疲労からくる溜息を吐いた。

 話の内容は、ずばり、エヴァンス公爵家にこちら側に付いて欲しい、というものだ。予想出来たことなだけに、頭が痛い。


 なぜなら、今回その判断は、僕に任されているからだ。

 どちらに付くか――この争いが始まった日の翌日、早朝に僕は父上に任された。後継者教育の一環だそうだ。


(……そう、言われてもね)


 苦い気持ちで、ぬるくなった紅茶を飲む。

 リズと一緒に居て、彼らの人となりも、友人として少しは知っている。

 だからこそ、頭がずきずきとして堪らなかった。


 そしてふと過ったのは、第一王子殿下側に付いた、親友の姿。


(……全く、性質(タチ)が悪すぎるよ……)



 ♦ ♦ ♦ ♦ ♦



 殿下の側近候補、未来の騎士団長候補、そして第一王子派筆頭として、殿下の傍に居続ける学園生活を送っていたある日のこと。

 俺は、偶然、普段人ごみを避けるシス――アレクシス・エヴァンスのすぐ近くですれ違った。


 一瞬、大きく目を見開いた俺とシスの瞳が、交差した。


 「お!シス!」…なんて、無邪気に声をかけられたら、どんなによかったか。

 シスは今のところ中立派だが、中立派も揺さぶりをかけられ続けているはず。そこで俺から声がかかるなんて、アイツも願っていないだろう。


(……あー。シスと話してぇ…、リズが恋しい…、いつもの空気に戻らねぇかな……)


 ぼんやりそう考えていると、「きゃー!グレン様がこっち向かれたわ!」「いや今のは私の方に向いたのよ!」「こっちと言ったのよ、というかあなた図々しいわね!」というような言い合いの声が聞こえてくる。


 こういうのは領分じゃないんだがなあと思いつつも、にかっと彼女達に笑いかけると、ぎゃああああっと言葉にならない悲鳴をあげて、言い合いを中断させた。


(――はぁ。本当に、俺にも出来ること、何か変えられること、ねぇのかな――)



 ♦ ♦ ♦ ♦ ♦



(……退屈そう、だね)


 私はそう分析していた。

 何をって、今のグレンの行動をだ。


(彼らしくないサービスまでして……。まあ、関係を取り持とうとするところとかが、世話焼きな彼らしいんだけれどね)


 くすっと笑うと、近くで男女問わずざわめきが起こった。


(それにしても、折角アレクシスと会えるように操作しておいたのに、逆に切ないことになってしまったね。一応、頑張ってくれている臣下にご褒美を……と思ったのだけれど、もう少し対話の時間ぐらいは取るべきだったかな)


 私はそう考えつつ、先ほどの表情を思い出す。

 これでいいのか、私の側に付いているべきなのか、そういう悩みが爽やかな笑みの中に見え隠れする表情を、グレンは浮かべていた。


(……うん、それでいい。悩んでくれればくれるほど助かるから。ただ、もう少しだけ我慢して居て貰わないとね)


 今や、私の勝利はほぼ確実のものとなっている。

 私が手回ししていた、合計五つの侯爵・公爵家と孤児院は、無事当たったようでガード出来たし、こちらの首尾は上々だ。

 そうして、私は遠くを見ながら呟いた。



「絶対、耐えてみせるんだよ、ヴィンセント」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
やっぱり皆様もリズが恋しいのでありますね!! 頑張ったあとはごほうびが必要ですものね!! ですが、はたしてリズとすべてが終わったあと無事に笑い会えるのか。 見所ですね!!悲恋もいれて、後でその悲恋も…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ