124.彼女と彼(リズ視点/ヴィンセント視点)
「姉様~」
「……」
「⁉お、おーい美南ー?」
「……」
「…すぅーっ…姉様ーーーッ‼‼‼」
「おわぁぁあっ⁉何々どした何あった⁉⁉」
私は、(意識的には)飛び起きた。
そして慌てて周囲を見ると、心底心配そうな顔をした二人が居た。
「やっぱり姉様、あれからずっと上の空…。もしかして、保健室で何かあったんじゃ…」
「ほ、保健室⁉ほほほ保健室で学校でって言えばあああアレしかっ」
「……」
翼を半目で見てから、「ううん、ちょっと気になること言われただけだよ」と説明した。
「気になること?」
「なに言われたの?教えて姉様」
「うーん…。…内緒?」
「「内緒」」
言ってもいいとは思ったが、気分的に、言いたくなかったというか、言うべきではなかったと思ったというか。とりあえず、私は暫くの間、黙っていることにした。
…だが、逆に変な誤解が生まれてしまったようで。
「ま、まさか……姉様、本当に婚約者の打診を受けて……⁉ダメだよ姉様。一生ボク許さないよ?」
「じゃあ私は宇宙が終わるまで許さない‼」
「どこで張り合ってるのソレ……」
据わった目をした二人をどうどうと宥めつつ、考える。
どういう意図で、殿下があんなことを言ったのかを。ずっとずっと、考え続けた。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
一方その頃。
黒髪のヴァンパイアは、悍ましい記憶の再来を味わっていた。
「ね~ぇ、いいでしょ?ちょっとだけ……、お姉さんたちと、抜け出そうよぉ」
「イイコト教えてあげるからぁ…、ほぉら、こっちおいで~」
「固くなっちゃってるの?そんなに怖がらないでいいのに、ね、一緒に遊びましょ?」
「……」
パスカル伯爵家次女、ミリエラ。十八歳。
ステッド男爵家長女、レーナ。十九歳。
ルべリア辺境伯家三女、ドロテア。十八歳。
ヴァンパイアは、思考する。
(ルべリア辺境伯家は、噂通りなら三女のドロテアを溺愛している。他二人は戦力にはならないだろうし、寧ろ足枷になるかもしれないからいいとして、問題はドロテアだ。こちらに引っ張り込んでもいいが、勝機が見つかった途端、愛娘をここぞとばかりに婚約者に押し込んでくる可能性もある…。危険だが、いざとなれば博打覚悟で頼むしか…。いや、魅了に自信があるとはいえ、相手は仮にも辺境伯家の令嬢だし、親はもしかすると真面かもしれない…。オレがコイツに賭けても、見限られるのが関の山か…?)
勝機を、僅かな可能性を見出すために。
例え、彼にとって、トラウマを刺激されるような光景であっても。それよりも強い意志が、思考と体を突き動かす。
そして最終的に、後にベストな選択を取るのである。
「…無理かな。オレ、好きな子が居るから」
「「「……!」」」
「……だから、勘違いされたくないんだ。わかる?わかるよね?…じゃ、そういうことだからよろしく」
ニッコリと笑い、足早にそこを去る。
一応、人目があるという意味では安全な教室に素早く入る……と、死角から何かが頭に落ちてきた。
「………黒板消し?」
古き良き黒板消し。
ガッツリチョークの粉が付いたもの。
彼の純粋な黒の髪が、うっすらと白に染まった。
(あ~あ~、色男がみっともないなー。まあでも、これぐらいなら犯人捜しなんていらないか)
彼はつまらない気持ちで黒板消しを戻し、ぱっぱっと粉を払う。
その時、彼の目に、ある少女が入って来た。いつもの二人と一緒に、心配そうにこちらを伺っている。
つまり。彼女の目に、確実にチョークの粉塗れの彼が映っていた。
(……やっぱり、犯人を闇討ちしよーっと…)
収まりきらない怒りと共に、服にまで付いたチョークの粉を、彼は乱暴に振り払った。
それと共に、寂寥感が込み上げる。
彼は、無暗にこんな状態の自分と関わろうとしない少女達を、「それでいい」と思っていた。寧ろ、そうしてくれていた方が助かると。
だが、少女達が傍に居たなら、こんなつまらない虐めに、こっちが「もういいよ」と言ってしまうほど怒ったり、一緒に粉をほろってくれただろう。少女達との時間がめっきり少なくなり、今後暫くはそれが続きそうなことに、彼はそっと、目を伏せた。
気づいたら夢の世界で爆睡してました、ごんです。
9時投稿できずすみませんでした……!
反省して次こそは計画的に動けるよう頑張ります。
これからも見守っていただけたら嬉しいです!