121.チュウリツハは癒される
「…エリザベス。我が家は中立派につく。よって、くれぐれも、どちら側にも付くんじゃないぞ」
帰宅早々、父に言われた言葉だ。
…そして私は、操り人形のように愚直に従っている。
夜会から一日目の学園に、私は、レオと翼を伴い一緒に登校した。
「美南、辛かったら、無理しないで会話を丸投げしてもいいんだからね!」
「じゃあボクはその間に姉様とイチャイチャしよーっと」
「何言ってるのかなレオナード君~?勿論君も一緒に来るんだよぉ?」
「え~、でも姉様の護衛が必要だし、やっぱりムリ!逆に、今の姉様を放っておけるほどの冷血なひとなんだ、ビアンカ嬢?え~、へ~、そうなんだあ~っ」
「こ、こんのクソガキが……ッ‼言わせておけばベラベラとぉ…ッ」
翼が拳を握りしめ、ぷるぷると震わす。頬も痙攣していて、思わずくすっと笑ってしまった。
しかし、二人はそれを見て、どことなく安心したかのように顔を見合わせた。
「よし姉様、元気になったならコイツを置いて二人で行こう?」
「堂々と抜け駆けしないで貰えますー⁉」
「だって絶好のチャンスだし」
「そりゃまた何で」
「例の二人は近寄ってきてもひっぺ剝がせるし、他の二人はどちらに付くかを決めかねて、こっちに寄って来れないだろうから。…あれ?確かボクの年は十五で、ビアンカ嬢は…」
「はいはい私の頭がバカ悪いってことですねーワカリマシター」
左手をレオに取られた後、右手をすぐに翼に取られて歩き出す。
それからもあーだこーだと何かにつけて言い合っている二人。レオ、翼、レオ、翼というように交互に二人の表情を見る。そして、ポツリと言葉が出た。
「…二人って、仲良いね」
「「仲良くない」」
(……そうは言っても、揃うほど息ピッタリなのに)
バトル漫画の相棒同士のようであり、少女漫画の友達みたいなカップリングのようでもある。
つまり。
「二人ってもしかして好き合っt」
「殴るよ姉様」
「いやねぇもう殴ってるよね⁉」
殴っているといっても、こめかみを拳でぐりぐりされているだけなのだが。
なんともまあ可愛らしい殴り方ではあるのだが、地味に痛い。う、なんか更にパワーアップしたような…。
「ま、でもよかった。やっと調子が戻ってきたみたいで」
「確かに、いつもの私って感じする…。ありがとね、レオ、翼。お礼に頭を撫でてあげよう」
「え⁉いいの美南⁉やった~美南のナデナデだ~♪」
「えへへ、姉様のナデナデ久しぶり~」
やっとぐりぐりが止まり、「撫でて撫でて~」というように二人がキラキラの眼差しで見つめて来る。可愛いツインズ‼と内心見悶えながら、手を頭に乗せようとしたとき…。
「あ、そういえばレオ君、もう年齢の関係でダメになったんだった」
「…………。」
貴族的に。
姉弟でも、お触りは結構NGなのである。
「…え、えっと!うん!ちょっとあとで何かするね‼よしまず先に翼をナデナデして」
「姉様………?」
「あっ、ちょっとナデナデも考え直すね‼」
最終的に、二人と一緒にカフェへ行くことで決定した。
レオの圧が、日々重くなってきていると感じる、今日この頃であった。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
そんな感じで、すっかり緩み切った私達。
のほほんと、いつもより静かな校舎に足を踏み入れる。空気はしん、としていて、時間が止まっているみたいだった。
いつもと変わらない風景に、少しほっとする。
渦中の人物達が居ないからか、玄関には人っ子一人居なかった。
「ラッキー!姉様とゆっくり教室行けるっ」
「いうて毎日一緒でしょ?」
「有象無象のノイズが入らなくて気分がいいの。ねー姉様、早く行こ?二人だけで…」
「うーんしれっと私を省かないで貰えます⁉」
静かな校舎を、私達は歩いていく。
そして、程なくすると見えてきた教室に……人だかり。
思わず三人一緒に足を止めると、覚悟しきれていなかった光景が、目の前に立ちはだかる。