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異世界エンジョイ勢は無自覚逆ハーレムを築く  作者: ごん
ブラコンの実力育成期
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【閑話1】少女と少年の会合(使用人視点)


「ちょ、タイムタイム!ねえ、あなた人だよね⁉なんで⁉いきなり敵意向けられる筋合いないんですけど!」



 突然飛び出したアレクシス様にぎょっとしたのは皆同じだった。

 アレクシス様が興味を持つ人間が少なかったからなのか、この少女が特別なのかは分からなかったが、我ら護衛はただその成り行きを見守っているしかなかった。


 ただ、この時点で、他の人間…、いや、他のご令嬢とは違うと、全員が勘付いていただろう。

 彼女の背後には、三人の鍛え抜かれた精鋭の雰囲気を持つ者達が控えていた。そのため彼女が貴族令嬢だと見抜くのは容易かった。


 普通の貴族令嬢はまず、こんな魔物の森には来ない。

 ドレスや化粧、お茶やお菓子に夢中なはず。

 まともな貴族令嬢もいるにはいるが、ひと世代に十人いるかいないかである。

 それだけ、貴族令嬢は甘やかされ増長する者が多かった。


 さらに、普通の貴族令嬢ならば、アレクシス様の見目麗しさにまずはぼうっと頬を染め見惚れるところから始まるはず。しかし少女には、それが一切無かった。あるとすれば文句だけ。



「…ふうん、こんな感じか。魔物の森に来る貴族令嬢が珍しいから揶揄ってみたけど…」



 と言い、値踏みするような視線で少女をじろじろと眺めるアレクシス様。

 主の真意を確かめられたのは良かったにせよ、その言葉は見事に少女の神経を逆撫でするものだと思うと、護衛のこっちが思わず冷や汗をかいてしまう。

 案の定、少女はキレた。……が。



「ハァ~⁉あのさ、茂みからいきなり出てきて女子を襲った奴が何言ってくれてんの?てか顔見知りでもないなら揶揄うな!あのね!コミュ力無いみたいだから言ってあげるけど、そういうのは相手が揶揄っても良さそうな人で信頼関係を築けたあとでやることなの!分かったこのボンボン⁉⁉」



 今まで貴族令嬢で見たことが無いキレ方だった。

 何というか、さっぱりした方だし常識的なことを言っているには言っているのだけれど、その度胸が凄まじいというか何というか。一応こちらは公爵家なのだが、気付いていないのだろうか…?


 さらに、その発言に冷え冷えとした雰囲気を放ちイラつくアレクシス様の威圧感を受け、少女は堂々としていた。大の大人でも悲鳴をあげて逃げたくなるような圧だったのにも拘わらず、だ。


 それからも、少女はなんてことないようにアレクシス様と会話する。

 遂には、あのアレクシス様相手に魔法勝負まで取り付けてしまわれた。

 しかも、ぎりぎりアレクシス様相手でも勝てるよう、一週間や二週間ではなく、しっかりと一カ月後という期間を設けて。


 ♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 次に少女に会ったのは、ちょうど一か月後の勝負の日だ。

 少女は、ポニーテールと動き易い恰好で現れた。シンプルな恰好だが、十分に魅力的だった。

 

 大半が見惚れている我々の様子に気付く様子もなく、少女は木に寄りかかるアレクシス様を見つめる。

 一枚の絵のような完成度を誇るビジュアルに、流石に頬を染めるかと思ったのだが、少女の次のアクションは「よーっす」だった。


 これには、あちらの使用人と一緒にぽかーんと間抜け面を晒してしまう。

 アレクシス様も、呆れ気味に「……変わってないみたいで安心するよ」とだけコメントしていた。

 というか、アレクシス様もアレクシス様で、絶世の美少女相手に全く動揺していない。

 案外似ている二人だというのが、使用人の共通見解だった。


 少女は「リズ」と名乗った。

 しかしアレクシス様は身バレの可能性を考慮し、名は明かさなかった。

 「リズ」というのは愛称でしか基本あり得ない名前なので、一応あちらも貴族令嬢として隠してはいるのだろう。アレクシス様ほど警戒心が山のように高くないだけで。


 それから間もなくして、オリヴァーという名のあちらの使用人と一緒に審判をすることになった。

 二人が向き合うと、とてもではないが九歳前後の子供とは思えない雰囲気があった。

 リズと名乗る少女は一瞬だけちらっと別の方角を向いたあと、すぐにアレクシス様に鋭い目を向ける。



「…言っておくけど、絶対負けないから」

「こっちこそ」



 そんな会話には、思わず痺れてしまう何かがあった。


 ♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 試合が始まると、激しい攻防が続いた。

 実際には短い時間だったのかもしれないが、その一瞬一瞬が美しいように思えて。

 まわりの使用人も、吞まれてしまったかのように静まり返っていた。


 氷槍が放たれるとすぐさま炎の矢が混じり合い共に弾けた。

 氷の牢獄という知識勝負も難なく乗り越える少女も、切り口や隙を探りつつ高精度の魔法を生み出す主人も。


 魔導士にしてみればまだまだ拙いのかもしれないが、まだ九歳前後なのだ。魔法を扱い始めてから一年もないかもしれない。

 そんな二人が繰り広げる勝負は、まさに熱戦だった。


 アレクシス様はそんなリズ様を見て、目を見開いて純粋に驚かれた。

 それからキッとリズ様を見据え、好戦的な笑みを浮かべる。

 とても、とても生き生きとした表情。

 我々使用人が滅多に見ることの出来ない、少し子供らしい表情だった。


 その後、アレクシス様は本気で武装された。

 風の槍を持ち、雷の鎧を纏い、身体能力も向上させ。一瞬でリズ様との間合いを詰めるアレクシス様だったが、リズ様もリズ様で素早く殴ろうとする。

 間一髪免れたアレクシス様は、リズ様とほんの少し会話を交わすと、身体能力強化し仁王立ちをするリズ様の方へ駆け出す。


(リズ様は…、長期戦が不利だと分かっているのか。アレクシス様の方が純粋な魔力量でも質でも勝っていると知っているからこそ…)


 それからは、まさに一瞬の出来事だった。

 至近距離に迫ったアレクシス様だが、正面はブラフ。

 背後にまわったと思えば、リズ様もそれを見事に見抜きアレクシス様を正面に捉えていた。

 二人共、とても楽しそうな無邪気な笑顔だった。


 アレクシス様にデバフを付与し、身体能力強化を無効にしたリズ様は、最後の大勝負とばかりに複合魔法を発動してみせた。


 複合魔法は、上級魔法にも匹敵するほどの難易度と強さを誇る。

 その瞬間、リズ様は気付いたかどうか分からないが、アレクシス様の瞳には、確かに尊敬と強い興味の色が光っていた。


 アレクシス様の本気スイッチを見事に踏み抜いたリズ様に、アレクシス様が一番好きな魔法、《海神(リヴァイアサン)》が略無しで襲い掛かり——。勝負は、アレクシス様の勝ちで幕を下ろした。


 しばらくは感動のあまり呆けていた私達だったが、リズ様の咆哮(?)でハッと覚醒する。

 少女は、とても悔しそうに座り込んでいた。しかし、何かを少し考え込むような素振りを見せた後、アレクシス様へ『少年』と呼びかける。


 また奇天烈なことを言いだすのかと、私達使用人も少し身構えた。けれど、リズ様は良い意味で、再び期待を裏切ってくれた。


 何と、完璧過ぎる直角九十度のお辞儀をしながら、リベンジマッチの申し込みをしたのである。

 これには、普段は冷静沈着なアレクシス様も開いた口が塞がらない様子だった。

 私達使用人が固唾を飲んで見守る中、随分経った後で主人が出した答えは——



「…だから…。いいよ。付き合ってあげても」



 だった。

 この時、私達アレクシス様側の使用人の心は、一つになっていたと思う。そして、こう言った。


((((((あのアレクシス様が……、恋する乙女のような表情に‼))))))


 そう。あの、同年代の自分に媚びるばかりのご令嬢に辟易していたアレクシス様が、ほんのりと頬を赤に染め、口を右手で隠しながら照れていたのだ。

 それも、戸惑いながらも、嬉しさをこれっぽっちも隠し切れていない顔面を晒して。



「あ、アレクシス様に…っアレクシス様に、やっと春が…‼」

「あの令嬢はどこの令嬢でしょうか⁉我らが全力で後押しするためにも調べねば…」

「あああっ、アレクシス様がお可愛らしい…‼」

「アレクシス様~‼次の約束、特にデートを!ちゃんと!取り付けるんですよー‼‼」

「頑張れ~!若様~‼」



 様々な小声の声援が飛び交う中、アレクシス様は更に頬を紅潮させながら、ご自身の名前をリズ様に教えられた。公爵令息だということもしっかり明かして。

 そしてリズ様もまた、本名をアレクシス様に教えられた。



「アレクシス君!私はエリザベス・レイナー。これでも一応、レイナー公爵令嬢‼」



((((((えええええー⁉レイナー公爵令嬢⁉⁉⁉))))))


 もう何人分かも分からないほどの絶叫が重なる。

 レイナー公爵家といえば、王国の公爵家の中でも一番王家に近い名門貴族の家系だ。

 この少女がまさか、立場的には国内でそうそう勝てる者がいないアレクシス様のエヴァンス公爵家を超える立場の持ち主だったとはと、使用人達は仰天する。


 アレクシス様も驚いたようだが、軽口を言って胡麻化していた。

 アレクシス様はその後、とても子供らしく笑われた。

 レイナー公爵令嬢も、そんなアレクシス様の顔をじっと見つめている。


 それから、アレクシス様からは「リズ」呼びが、レイナー公爵令嬢からは「アレク」呼びが決定した。


 若干アレクシス様がいいように揶揄われていた気もしなくもないし、『“友達”を純粋な気持ちで揶揄うリズと、“気になる子”に揶揄われて真っ赤になるアレク』…という初心な展開に使用人陣(特に女性陣)が湧いていた気もするが…。


 なんやかんやで、ひとまずライバル&友達同士になったお二人を、使用人一同、微笑ましい気持ちで眺めていたのだった。

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