表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界エンジョイ勢は無自覚逆ハーレムを築く  作者: ごん
王位継承争い編 /学園編
127/135

118.瞬き分の愛い序幕


「……」

「リズお嬢様~?おはようございます…?」



 布団の中でうつ伏せになり、布団にくるまる。

 頭まですっぽり覆うと、団子のようになった。



「り、リズお嬢様~…?」



 …ツンツン。



「……」

「…あの~…」



 …ツンツンツンツン。



「起きてますよね…?」

「……お、起きてない」

「起きてます‼こ、このままだと……ラピスさん呼びますよ!」

「……呼べばいいじゃん。私は今日、起きる気がない」

「学園あるのに⁉」

「む……、そうだった…」



 そう言うと、リリーは「あのリズお嬢様が、学園を忘れてる…!」と驚いていた。



「それにしてもお嬢様、昨日からおかしいですよ…?相談に乗れることでしたら、言って頂けたら…」

「……気分じゃない」



 ぐだぐだし続ける私と、こうなったらと、遠慮なく布団を「ぐぎぎぎぎ…」と言いつつも引っ張り始めるリリー。それに余裕で打ち勝ちながら、暗い布団の中で、私はふっと目を伏せた。


(…まさか昨日のこと、言えないしな)


 耳に残る、別れ際の言葉。

 馬車が止まった後の殿下の言葉が、リフレインする。



『…ああ、そうそう。一週間後の夜会で、父上が発表する手筈になっているから、考えておくんだよ。一年間で、王太子を決めるってことについて』



 一週間後の夜会…。

 王家主催の、大規模なパーティだ。当然、私や両親、レオも招かれている。


(……一週間後、か)



「もおーっ!ホントにラピスさんを呼んできちゃいますからね!アンナさんも‼」

「えぇ…何でよ~…」



 ピューンッとリリーがドアの向こうに消えて行く。

 それを、ちょっとだけ顔を出して見届ける。さあ、そろそろ年貢の納め時か……と起き上がろうとしたとき、ラピスラズリ色が目に入った。



「うげっ」

「うげっ、じゃありません。…リズお嬢様、行きますよ」

「…休んじゃダメ?」

「ダメです。ねえ、アンナ?」



 遅れてやってきたアンナも、若干息を荒げながら「そうですよ」と言って来る。

 


「昨日、何があったのかは敢えてお聞きしませんが、それはそれ、これはこれです」

「えぇー……、ダメかぁ…」



 貴族学園は、理由もないのに休んではいけない、という暗黙の了解がある。そして、ずる休みもこの通り、私には出来そうにない。



「嫌がるのなら、今日は最大限リズお嬢様を磨き上げて差し上げますが?」

「…メイク…」



 鏡台が見えて、うげえっとなる。

 何もかもをやってもらえるのは至れり尽くせりだが、毎日なので流石にちょっと面倒くさいのだ。



「い、いやだ…」

「「…何か、仰いました?」」

「いえ何も。ごめんなさい」



 それから、ずりずりと引き摺られ、強制的に鏡台の前に座らされた私は――。

 三十分後、普段より光量が数倍増した自分を、見ることになったのだった。



 ♦ ♦ ♦ ♦ ♦



「おはよ~」

「おはよう」



 考えを整理する時間がまだまだ足りず、暗澹たる気持ちになっていたのだが、教室前をウロウロしまくるわけにもいかず、一緒に来たレオを拘束するわけにもいかず…、意を決して教室に入る。


 まだ数回しか登校していないものの、大分見慣れてきた光景が、目の前に広がった。

 そして、一番に目に飛び込んできたのは、翼を加えた親友達の姿。


 殿下もグレンも、昨日の出来事がなかったかのような、いつも通りの態度だった。ただただ、楽しそうに言葉を交わしている。



「…」



 足を止めた私の目に、不思議そうな表情をしたレオが映る。



「姉様?どうしたの?」

「…ううん、ごめんね。何でもないよ」



 にっこり笑うと、「ふーん…?」とレオは言った。

 そして、不気味なほどに平和な、優しい一日が始まった。

 その時、ズキリと頭が痛んだ。


(…やっぱり、どちらかが勝って、どちらかが負けるんだよね。そして、そうなったら…)


 レオの挨拶に、みんなが笑顔で応えている。

 それから、みんなが笑顔で私に挨拶をしてくれる。


(この光景も、見られなくなるんだよね。たくさんの人の間に、亀裂が入って――)


 愛おしい光景に目を細めて、私も、笑顔で挨拶をした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ