114.最終手段と鈍感野郎
「え?こくは……、告白⁉あの、凄くすご~く最終手段だと思うんですけど…」
「諦めな。鈍感野郎に恋した者の宿命だよ」
「え~~~、そんなぁ……」
およよよよ…と翼が泣いた。
翼も可哀想だけど、遠隔で、翼だけでなく占い師さんにも口撃された想い人さんには、やはり涙を禁じ得ない。
「それに、早めに告白するのがいい」
「え、き、気持ちを掴んでからの方が良いんじゃ…」
「告白してから掴めばいいんだよ。期間を設定して、その間までにオトすのも視野に入れな」
「…は~い。はあ、でもやっぱり、それくらいしないと気付かないのかぁ…」
しゅぅん…と背中を丸める翼。
「ちなみに、ここに居る中で想い人が居る人は、揃ってそうした方がいいよ。何せ、全員、告白されないと気付かないくらいの超鈍感クソ野郎だからねぇ」
「え、何その倍率の高さ⁉どゆこと?今、前代未聞の鈍感っ娘ブームでも巻き起こってるの?」
「「「「「……」」」」」
当然のように黙殺された。
「さて、じゃあこれでいいね。坊や二人とお嬢ちゃん、アンタらはいいのかい?」
「私は遠慮しておくよ。今の情報で十分だ」
「私もいいかな?まだ恋愛で訊きたいことないし」
殿下と私がそう言うと、必然的に占い師さんの視線がアレクへ向かう。
「坊やも?」
「……いや、僕は訊く」
(アレクも訊きたいことがあったんだ)
何となくそう思っていると、聞こえてきた言葉に、今度こそ度肝を抜かれた。
「多分この子と同じ相手のことが好きなんだけど、告白は今していいの?」
「「……は?」」「えっ」「「「⁉」」」
再び、大爆弾が落とされた。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
「……」
私は、騒ぎになる室内を、グレンと一緒にぽかーんと眺めていた。
「え⁉ちょ、はいぃ⁉というか横取りは許しまへんでー⁉」
「『へんで』って何…?まあ、そう思うなら僕の後にすればいいでしょ」
「ちょ、思ってた性格と違い過ぎるんですけど⁉」
大騒ぎをする翼と、平然としているアレク。
その中で、「…まさか彼がそんなに大胆な性格だったとはね」と感心したように言いつつ、その後もブツブツ呟きながら観察をしている殿下と、ピシリと笑顔が固まっているヴィンセント。
そして、ぽかーーーん……と思考停止しているのが、私とグレンだ。
ちなみに占い師さんは、年頃の娘のように「きゅんきゅんするねぇ~!」と盛り上がっていた。おい。
「…はぁ。でも、”今”っていうのは、ここでじゃないよ。言い方が悪かったね」
「あ、そうなの?ほっ……。じゃあ、試しに訊いてみたとか?」
「いいや。解散した後の話をしてたけど」
「いやダメだよ!メチャメチャ近いじゃんか⁉」
「だから”今”って言ったのに」
「もぉーーー!思ってたキャラと違い過ぎるーーー‼」
ぐあああああっと翼は悶えた。
終始冷静で……、でもどことなくしてやったりという顔で笑むアレクは、子供っぽい無邪気さに溢れていた。だが、恋のライバル(翼)に宣戦布告をし、この場をカオスにした張本人は、やはり青年らしい頭の回り方をしているようだった。
「まあ、安心しなよ。わざわざ楽しみにしてた街歩きを、潰すようなことはしないから」
そこら辺の気配りは、流石アレクといったところだが…。
やっと放心状態から抜け出せた私は、ドキドキ煩い心臓を落ち着かせる。
(や、ヤバい。なんか、一気にみんなの恋バナを聞いたからか、凄い頭の中がわちゃわちゃしてる)
…語彙力も下がっている。
だが、酸欠の時に似た感覚がするのは事実だった。
「……とりあえず、街に出よっかッ‼」
気合で掛けた言葉に、アレク以外は力強く頷いた。
そうして、私達の占いは終わった。
的中率からして、リピーターは増えるだろう。その時に、みんなの前では聞けないことをたっぷり聞いておこうと心に決めるのだった。