112.真面目な話は置いておく
微BL…かもしれないです
「……それは」
「ギリギリ触れてないよ、法にも禁忌にも」
そう言うと、大体がホッとしたような顔をした。
「でも、だからこそあんまり調査が進んでなくて…。申し訳ないけど、うちの影でももう限界なんだ」
「まあ、突拍子もないことだしな」
「寧ろ、調べ続けてたことが奇跡だし、十分お返しは出来てると思うけど…。リズは納得してないんでしょ?」
グレンとアレクがそれぞれ言う。
そして私はそれに頷いた。
「まあその件は、後々話すね。とりあえず、ここを出てから…」
何人かが、「あ」、というような顔をした。
…うん、普通に話していたけど、ここには占い師さんも居るからね。
つい数秒まで私も忘れていたから、人のことは言えないけど。
「え、でもでも美南、他のこと占わずに行っちゃうのはちょっと勿体ない感じが…」
「うーん、確かに……」
「またここら辺に来た時に寄るか?」
「ん~、オレはこのまま占って貰っても面白いと思うけど」
「これから抜かれるような情報もないでしょ。どうせ抜かれるならもうとっくに抜かれてるだろうし」
「…そうだね。どのみち、今日は完全オフのつもりだったんだ。折角の街歩き、無駄にしてはいけないかな」
と、いうことで。
久しぶりのオフ故か――実は貴族の子女も何気に公務とかあって忙しいのだ――、私達は、他の人が聞けばビックリされそうな選択をするのだった。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
「はっはっは!いいねぇ、じゃあ何にする?どんなことでも占ったげるよ」
気前の良い声に、真剣な空気は一転、わちゃわちゃとした和やかなムードが漂った。
「え、じゃあ私、どれだけ強くなれるか知りたい‼」
「え?ここに来て聞くことがソレ?…まあ僕も知りたいけど」
「こういう時の鉄板とかないのか?」
「そうだね……、未来を知る、とかかな…」
「も~、みんな真面目過ぎるなぁ。オレなら、好きなコの好物とか聞いちゃうけど」
「そ!それ、それです!よし、まずは美南の好物をありったけ聞こうー‼」
「えっ⁉ちょっと本人の承諾はー⁉」
「プライバシーなど!あってないようなものなのだー‼」
「この暴君!止まれこの考えなしー‼」
ガヤガヤ、ドタドタ(?)。
そうしているうちに、方向性は決まった。虚しくも、何故か周りにフォローされた翼の案が通ったのだ。
「いいんだね?まずは、そのお嬢ちゃんの好物と」
「ああ。それで頼むよ」
「……」
なんだろう。
殿下の笑顔の裏には、親友の好物を知りたいって気持ちが込められてる…筈なのに、私を釣ろうとしてるようにしか見えない。
私は悪くない、日頃の行いが悪い殿下のせいだと勝手に決め込み、私は、再び黒い文字で覆いつくされる水晶を静観した。
水晶の中の文字が踊り、部屋中に、眩しくはない黒色の光が溢れ――、そして収まった。
直感的に、占われたのだと知った。
「…じゃあ、言うよ」
ごくり、という音が真横から聞こえてくる。いや、翼さん、貴女は知ってますよね私の好物…。
「好きな食べ物はパスタやもやしのオミソシル、好きな人物は家族と親友…」
「オレも好きだよ、リズ」
「ちょっと煩いかもしれない」
「そして好きな物は…。前の世界にないここにしかないもの、魔法、力、モンスター、バトルと……、面白いものや自分とは違うもの、だね」
「…君、バトルジャンキーだとは思ってたけど、まさかここまで…」
「うんみんなを守るためにね⁉」
全くもう、情報大放出だ。大出血サービス過ぎる。
でも、やっと情報が出きったようだ。
(よし、仕返しにみんなの情報を根掘り葉掘り聞いてやろ――)
「じゃあ次。俺の想い人も見えるか?」
「ふぁい⁉」
「ああ…まあ、見えるよ。見て欲しいのかい?」
「いや、その人が喜ぶ贈り物を教えて欲しいんだ」
グレンの顔を凝視する。翼を挟んでだったが、にかっという笑顔の眩しさからは逃れられない。
でも、確かにグレンは言った……今、”想い人”って……。
殿下やヴィンセントですら驚愕に目を見開いている。(※尚、リズとは違う点で驚いていた模様)
しかし、私達のように驚くことはなく、「いいね、真っすぐな子は嫌いじゃないし、特大サービスも付けてあげよう」と占い師さんは笑った。
そして、私達が混乱している間にも、スラスラと情報が行き交った。
「坊やの想い人が喜ぶ贈り物は……。そうだね、あー……、結論、坊やが贈ったものなら死ぬまで大事にするよ、その子は。でも、坊やが聞きたいのはそういうことじゃないだろう?」
「ははっ、それだけでもどうにかなりそうな程嬉しいけどな。ああそうだ、そいつが本気で喜ぶものにしたいんだよ」
「グレン……」
私は小声で感動を表す。
グレン、友人の前でも占い師さんへの情報漏洩を恐れずに聞ける真っすぐな姿勢、本当に眩し過ぎるよ…。だからこそ、占い師さんも『特別サービス』をする気になったのだろう。
そして占い師さんは、若干にやつきが抑えられなくなってきた声で言った。
「…ずばり、”手作りの、消え物じゃない何か”を贈るといいよ」
「手作り?消え物じゃないってことは、消費しない……、食べ物とかじゃない方がいいってことか」
「その子は、何よりも、坊やから貰ったものが残っている方が嬉しいだろうからね」
何やら、優しい視線でこちらを見る占い師さん。
グレンは若干慌てた様子だった。
私も、尊敬と穏やかな気持ちでそれを見守っていて――、ん?と思った。
(……もしかして、この中に…居る?そして、この角度。まさか――)
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン……。
心臓が早鐘を打つ。
(――まさか、まさか…)
そして、一つの仮説が立てられる。
(……フレデリック第一王子殿下のことが……好き?)
そこからは早かった。
私の脳が回転していく。
(この世界では同性恋愛や結婚はある種御法度とされててそれは貴族間の結婚だと跡取り問題が難しくなるから。それでグレンが躊躇していたり悩んだり苦しんだりしていたんじゃないか?だとすれば私がすることはそう、唯一つ、二人のサポート、あるのみ…!でも肝心の殿下の気持ちは?は、そうだ、だとすると私はライバル枠⁉筆頭公爵家で殿下の婚約者に近いのは私だとすると私が二人の障害に⁉ダメだそんなこと絶対にあってはいけないなぜなら私は親友を傷付けるなんて言語道断でだからつまり…)
「ああ、あとね。これが特別サービスなんだがね……、ちょいとこっちに来てくれないかい?」
「あ、ああ…」
「―――」
「っ……、そ、うか」
「穏やかで兄貴肌な分、他に遅れを取りやすいらしいから、気を付けるんだよ」
「…ああ、わかった。ありがとな!」
グレンと占い師が何やら密談していたようだが、私は、脳内の処理に気を取られていて、それどころではないのだった。




