110.転生者、ですネ?
翼やグレン、アレクが約三十分前に到着すると、ちょっと早いが私達は街歩きをし始めた。
…あ、ちなみに。レオもあとで話を聞いた時、行きたいとごねたのだが、満場一致でなぜか却下された。曰く、「リズが半独占状態になるからね」ということだった。
その後もごねにごねていて可愛かった…、って、違う違う。
慌てて意識をお店に向ける。
…ええと。一言で言うと、流石、貴族向けなお店だけあって、店構えからして違う。オシャレで、大きく、中世ヨーロッパ風の色どり豊かな建物がズラリと並び、見る者を圧倒する。
だが、装飾品店や服屋、レストランなどが殆どを占めていた。所々に本屋や魔道具店などはあるが、思い切り異色な店はなかなか無かった。
それを見て、素直に翼が微妙な表情を露わにする。
「…もうちょっとこう、ワクワクするようなお店ってないのかな?」
翼がそう言うと、私の目がキラーンと光った。
そして私は、出来るだけ有能そうな女性に見えるよう、事もなげにサラリと言う。
「ここを曲がれば、翼が好きそうなお店が並んでるよ。あと、この大通りから一本外れれば、他にも面白そうなお店は幾つかあったから、リストアップしておいた。必要だったら言ってね?」
「さっすがみな…リズ!頼りになる!」
私は、一種の脳溶けを起こした。
やっぱり……やっぱり、親友からの、そして今世はマジ美少女の『頼りになる!』はイイッ!
若干変態モードに入りつつ何度も脳内で再生していると、それを知り尽くしているのか、翼は、クールタイム中の私を、さっき紹介した道にずりずりと引っ張っていく。
わかってくれてる、そんなところも好き♡とかなりの脳死モードになっていると、「あ!あそことかどうですか?」と翼が声を張り上げた。
見るとそこには、怪しさに怪しさを掛けたような、見てくれだけは立派な占い屋が…。
「…あそこに入るの?」
「なんか…危険そうな感じがめちゃめちゃするぞ?」
早くも警戒態勢のアレクとグレン。
「普通の占い屋に見えて、実は情報屋の一つでした~みたいになりそうだね?ま、それならそれでこっちで〆られるからいいけど」
「まあ、新たな友人のチョイスだし、入ってみるのも悪くないと思うよ」
それから、喧嘩を売りながら若干は翼寄りの意見を、王族兄弟が言う。
目の前で散る火花に、あははと苦笑いをする。
「じゃあ…。面白そうだし、行ってみる?」
私の言葉に、全員が頷いた。
さて。改めて、怪しげな風貌と向き合ってみる。
建物は、隣の建物と同じくらいの高さがある。貴族街の一般的な高さだ。また、そこまでの壁が黒一色で塗りつぶされており、窓はボロボロのカーテンが何故か外で揺れており、ガッツリ見えている窓本体は紫色の色付きガラス。
また、オシャレのオの字もないような、中央にバンと両開きの扉があるスタイルで、両側に等間隔になければならないはずの窓ガラスは、ぐにゃりと曲がったようにアンバランスだ。
まず物好きでなければ入ることはないだろう、というような店だが、物好きな翼を見事に釣り上げたようだ。
何かを察知した翼にちょっと睨まれるが、大して意に介さず、私はドアノブを握ろうとする。でも、グレンに「何かあったらいけねぇから俺がやる」と言われ、場所を譲る。そんなやり取りがあった後、割とすぐに扉は開いた。
……そこは、異様な空間だった。
あれだけの高さがあったのに、中に入ってみれば、闇に押し潰されたかのように半分ほどになっており、部屋の中は黒一色。そして、中央には、机と椅子、水晶と、フードに身を包んだ占い師っぽい人に、ほんの少しの光があった。
(おお…。うん、何かは知らないけど雰囲気は出てるよ!)
まあ寧ろあり過ぎなくらいなのだが、それはそれだ。
兎にも角にも、私達は椅子に座った。前一列に、私と翼を挟むようにしてアレクとグレンが陣取り、私達の後ろに殿下とヴィンセントが座る。バッチリ警戒態勢だ。かくいう私も、実は警戒態勢だ。本当に気軽に楽しみに来ているのは、翼一人だけである。
そんな私達の警戒を見透かしたのか、占い師は「…では、誰から占いましょうか?」と言った。
先払いでは無いらしい…。
とはいえ、占いで何等かの魔術が使用されるかもしれないので、いの一番に手を挙げた。
「じゃあ私からお願いします」
無垢な少女を演じると、「はい、只今」と占い師は言った。
しわがれた、老婆のような声で、のぞく手も、骨と皮だけのようなもの。
店構えからして怪しいし、出入りする客も少ないのだろう。大丈夫か?と少し思った。
「では、始めます…」
静寂が場を包む。
占い師が何か呪文のようなものを唱えると――水晶が、ビッシリと細かな黒色で塗りつぶされた。
ドキッとする。アレクの手が、私を守るように動いていた。
しかし占い師は、慣れたことだとでもいうように「…はあ。出ました」と言った。
「何をお望みですか?」
「…では、試しに一つ、言ってみて下さい」
最大限警戒をしつつ、口にする。
その瞬間、占い師の口端がにい――っと上がった。
「よろしい、よろしい。…では、最上のものをお選び致します故…」
見えないが、占い師が水晶を見る目はギョロギョロとしているとわかった。
すると、「ふむ、ふむ……」と何度か頷いた。そしてやっと決めたのか、ニヤリと嗤った。
「よろしい。……ずばり、あなたは――」
歯茎まで見えるかと思うほどの三日月型の笑みに、ゾワリと背筋が粟立った。
「――転生者、ですネ?」
追記・総合300ptありがとうございます!




